見出し画像

<地形効果>とアブストラクトゲームのデザイン

先日noteにも投稿したように、私はいま現在Kickstarterで新作ボードゲームのファンディングプロジェクトを開催しています(7月9日まで)。

その中にも書いているのですが、このゲーム「ローゼンクロイツ」はアブストラクトゲーム専門誌Abstract Games Magazineで開催されたゲームデザイン・コンペティションの応募作でもありました。このコンペティションはUnequal Board Space Game Design Competitionと題されていて、便宜的に「地形効果」と表現しましたが、平たく言うとボードのマスやヘクスが複数の色に塗り分けられたり、記号や矢印が書かれていたりして、それらがコマに何らかの影響を及ぼすようなゲームです。

以下では、このようなタイプのアブストラクトゲームをDavid Parlet氏の記事 ”Katarenga - a game of unequal board spaces" (Abstaract Games issue 17) などを参考にしつつ10数例挙げることで、その歴史を跡付けたいと思います。

なお、ルールの説明はかなり大雑把ですので、実際にプレイする際はかならず正規のルールを確認してください。特記のない限りすべて2人用ゲームです。

コロリート(1892)

ハルマ (1883) 以降に現れるようになった、「自分のコマをすべてボード対辺のゴールに収める」ことを目的とするゲームです。マスを3色以上塗り分けるボードを使用するものとしては最初期のゲームではないかと思われます。

プレイヤーは各自2色ずつを担当し、隣接マスへの「ステップ」と、他のコマを飛び越える「ジャンプ」を組み合わせて自分のコマを進めていきます。ただし、移動は必ずそのコマと同じ色のマスか、ボードの両端の白色のマスで終了する必要があります。捕獲はありません。

各自のコマは1~20の数字が割り当てられていて、同じ数字を持つゴールマスに収めることを目指します。(作者不明)

トリコロール (1930)

ベルギーの数学者モーリス・クライチクによって考案された先駆的なスタッキングゲームです。コマは敵や味方のコマの上に重ねてスタックにすることができ、スタック内に含まれる味方の数と同じだけ直線距離を動くことができます。

スタックには「強さ」の概念があり、スタック内に含まれる味方の数と、そのスタックが乗っているマスの色の「強さ」を掛け合わせてスタックの強さが決定されます。黄色のマスは等倍、緑は2倍、赤は3倍の強さになります。

移動開始前のスタックの強さが相手よりも強い場合にのみ捕獲が可能で、強さの差が2倍以上ある場合は目標に含まれる相手のコマをすべて取り除き、それ以外の場合は自分の下にスタックします。可能な場合は必ず捕獲を行わなくてはいけません。相手スタックの殲滅が目標です。

シャダ (1938)

戦中期にオランダで製品化され販売されていたゲームですが、戦後忘れられたゲームでいまのところBGGにも登録されていません。しかしこれ以降に続くゲームに通じるいくつかの特徴を先取りしています。

ボードは8×8マスで、各スペースには手番開始時にその上に乗っている(差さっている)ペグ状のコマが動くことができる方向と歩数を示す記号が描かれています。スペースは固定されていて動かすことはできません。コマは各自ポーン8個、オフィサー4個、フィールドオフィサー4個を使用し、各自最初の2列に配置します。

手番プレイヤーは記号にしたがって自分のコマを動かしていき、着地時に敵のコマがあれば捕獲します。フィールドオフィサーのみ、味方のコマを通過して動くことができます。ボードの最奥がゴールで、残っている自分のハイピース(ポーン以外のコマ)をすべてゴールに到達させた方が勝ちです。(作者: Jan Boogerd)

クァンダリー  (1970)

クァンダリーもボードを横断するタイプのゲームです。12×12マスが8色で不規則に塗り分けられた大型のボードと、各自4つずつのコマを使用します。初期配置のみカードを引いて決めるランダム要素があります。

コマは前方または斜め前方に進みますが、進む先は常に「相手のコマの正面にある色」のどれかでなくてはなりません。自分のコマの一つが相手側のボード端に到達すれば勝ちで、様々な点でカミサドの先駆的ゲームと言えます。(作者不明)

スメス (1970) - オール・ザ・キングスメン (1978)

チェスに似たゲームですが、ボードのマスすべてに矢印が書かれていて、コマはこの矢印の指す方向のいずれかへ進みます。シャダとは異なり記号に歩数の指定はありません。3種類のコマがあり「ブレイン」と「ニニー」は1歩、「ナムスカル」は2歩移動で、相手のブレインを捕獲すれば勝ちです。

もともと「スメス」という子供向けゲームでしたが、後年に中世をテーマにしたゲーム「オール・ザ・キングスメン」として再出版されています。ちなみに後者は童謡「ハンプティ・ダンプティ」の一節「王さまの家来みんな」に由来します。(作者:Perry Grant, Reuben Klamer)

トリプルズ (1972)

スメスと似た矢印付きのマスを使用するゲームですが、マスはタイルになっていて自由に組み合わせることができます。各タイルの矢印はすべて3つの方向の組み合わせになっており、同じ矢印タイルはありません(ドットで置く向きが決められています)。コマは透明で、丸を使用するプレイヤーと四角を使用するプレイヤーに分かれます。

これもレースタイプのゲームですが、プレイヤー同士向き合うのではなくボードの同じ端の別々のコーナーからそれぞれスタートし、それぞれ対角にあるゴールを目指します。コマが動ける方向は、そのとき相手のコマが乗っているタイルがさしている方向のいずれかです。配置によってはしばしばコマがループしてしまいゴールできなくなることもあるようです。

フィネス (1974)

8×8マスのボードで、16色の異なる色が配されたボードを使うゲームです。プレイヤーは4つずつ任意のマスにコマを置いた後、自分の手番でコマの一つをチェスのルーク(将棋の飛車)の動きで移動させます。同じ色のマス4つすべてに自分のコマを置いたプレイヤーが勝利します。面白そうですが、先手がかなり有利そうなルールではあります。(作者不明)

スクウェアルート (1983) - カミサド (2008)

カミサドはこのグループの中では比較的メジャーなタイトルです。クァンダリーを洗練させたようなゲームで、自分のコマの一つを対辺に到達させた方が勝ちです。

8×8マスを8色に塗り分けたボードと、その8色に対応する色をもつ8つずつのコマを使用します。コマは前方、または斜め前方を任意の距離で動くことができますが、直前に相手が着地したマスと同じ色のコマを移動させなくてはいけません。移動できない場合は続けて相手が手番を得ます。

もともとスクウェアルートというタイトルのゲームだったものを、のちに東洋モチーフに変更し「カミサド」として再販売されたようです。カミサドでは複数ラウンドでゲームを行う場合のルールなども追加されています。(作者:Peter Burley)

マナ (1987)

ギュゲースなどで知られるクロード・ルロワのゲームです。タイプとしてはオール・ザ・キングスメンと同じですが、ボードには矢印ではなく1~3の数字に相当する記号が書かれています。コマはその下の数と同じ歩数を動くことができますが、直前に相手が着地したのと同じ記号上のコマを動かさなくてはいけません。

指定されたのと同じ記号の上に自分のコマがない場合は、相手に捕獲されたコマを復帰させるか、任意の自分のコマをそれが位置しているマスの記号に従って動かすことができます。相手の「大名」を捕獲すれば勝ちになります。

近年Cosmoludoから新版が出ており、その際指定の記号のマスの一つに「マナ鳥」という中立のコマを置くルールが追加されたようです。

カメレクィン(1989)

キーフラワーシリーズの作者リチャード・ブリーズの初期のアブストラクトで、4色に塗り分けられた8×8マスのボードを使用します。2人プレイではまず10ずつのコマを一つずつ任意のマスに配置し、マスと同じ色のリングをコマに追加しておきます。

以降、自分のコマを8方向に一歩移動して着地先のマスと同じ色のリングをコマに追加し、最大4段までのスタックを作るか、リングを消費して最大3マスの距離を一気に動かすかの移動を行います。後者の場合、移動後の最上部のリングはマスの色と一致している必要があります。

移動で通過したマスにある相手のコマはすべて捕獲するため、一度に最大で3つまでの捕獲が可能です。相手を殲滅したプレイヤーが勝ちになります。

シフラ(1994)

タイル工芸の技術を生かして多数のアブストラクトゲームを制作されている山本光夫氏が最初に制作したゲームです。2色のタイルをランダムに配置したボードでプレイし、得点の書かれたコマを取り合って合計点を競います。

移動は8方向に一歩が基本ですが、自分と同じ色のマスが連続している場合は1つのタイルと見なして一気に距離を詰めることができます。移動先に敵のコマがあれば捕獲します。横断ゲームの要素もあり、ボードの対辺に到達したコマは「上がり」と見なしてその位置に固定されます。

簡略版のシフラ25 (1996) のほか、作者は他にもヨンモク (1997)、カチットナイト (2007) 、カメレオン (2019) など、2色のマスを利用したメカニクスを持つゲームを制作しています。2022年にはシフラを28年ぶりにリニューアルしたCIFRA Code 25がリリースされました。


カモン (2007)

キングドミノ世界の七不思議デュエルの作者ブルーノ・カタラによるゲームです。「家紋」を意味するタイトルで、六角形のボードに6種類のシンボルと1~6のシンボル数(新版では6つの色)を組み合わせた36枚のタイルをランダムに配置してプレイします。

手番のプレイヤーはタイルの一つを選んでその位置に自分のコマを置き、次のプレイヤーは直前に相手が選んだタイルとシンボル種類か数(色)のどちらかが一致するタイルを選ぶ必要があります。自分のコマでボードの任意の対辺を繋ぐか、輪の形をつくるか、相手がタイルを選べなければ勝ちになります。

作者はその後おなじメカニクスを使った4目並べゲームのオキヤ (2012) や、タイルに書かれた線で次に相手がコマを置く方向を指定するインサート (2021) などもデザインしています。カモンの新版はマナと同じくCosmoludoから出版されています。

ライン オア カラー (2014)

パッド型のボードで多数のアブストラクトゲームを出版していたnestorgamesの運営者ネスター・ロメラル・アンドレスのゲームです(現在はアクリルを基本として少数のゲームを販売しています)。基本は四目並べで、4つのコマを直線上に並べることを目指しますが、同じ色のマスに4つのコマを置いて勝つこともできます。

軽いプレイ感で楽しいゲームですが、他の多くのゲームとともに絶版になってしまいました。

メルティング チェス (2015)

これもnestorgamesで出版されていたゲームですが、パッドではなくタイルを繋いだ可変式のボードでプレイします。プレイヤーは1つずつのコマのみを使い、コマの下にあるチェス駒のシンボルに従って、その駒の動きに一致するように移動した後、もといたタイルを除外します。移動できなくなったプレイヤーが負けます。(作者:Markus Hagenauer)

カタレンガ(2017)

ゲームデザイナー・ゲーム史家のDavid Parletがデザインしたゲームです。4種類のタイルが不規則に並べられた4×4マスのボードを組み合わせて8×8にし、両端にそれぞれのコマを8つずつ向き合わせてプレイします。

コマは自分が乗っているタイルの種類によって、チェスのルーク、ビショップ、ナイト、キングのいずれかの方法で移動を行い、移動先に敵のコマがいれば捕獲します。対辺に2つのコマが到達できれば勝ちです。タイトルは古チェスのチャトランガ(Chaturanga)を踏まえています。

カタレンガについては珍ぬさんが紹介記事を執筆されています。


コントラスト (2021)

捕獲なしで自分のコマの一つをボードの対辺に到達させることを目指すゲームです。コマは通常時は縦横に1歩動きますが、手番ではオプションとして黒か灰色のタイルをマスに設置することができ、黒タイルの上のコマは斜め方向に、灰色タイルの上のコマは8方向に移動できるようになります。自分のコマは飛び越えることができます。

日本のインディーズゲームでは、コストの関係からか5×5マスの小さい盤面で工夫を凝らしたアブストラクトゲームがしばしば作られているのですが、コントラストは特殊効果のあるマスをタイル化することで、小さい盤面に奥行をもたらすことを試みたゲームと言えるでしょう。

透明アクリルの駒は黒タイルの上に置くと斜め方向の矢印が、灰色のタイルの上に置くと縦横と斜め方向の矢印が両方浮かび上がるようになっており、デザイン性の面でも興味深いゲームです。(作者:029 PRODUCTS)

備考

以上のリストはけっして網羅的なものではなく、偏りもあると思いますが、このタイプのアブストラクトにどのようなものがあるのかをイメージするのにある程度役立つのではないかと思います。

ちなみに上記したものをスペースの効果別に大別すると、

1. 自分の指し手を制限するもの
 - コロリート、シャダ、スメス、カタレンガなど

2. 相手の指し手を制限するもの
 - クァンダリー、トリプルズ、カミサドなど

3. 自分と相手、両方の指し手を制限するもの
 - マナ

4. コマの強さに関わるもの
 - トリコロール

5. 勝利条件に関わるもの
 - フィネス、ラインオアカラー

といった感じになりそうです。

挙げなかったものの中では、ボードスペースに高さの違いがあるもの(テラスアゴラなど)などもありますし、ウォーゲーム的な文字通りの「地形効果」があるゲームも作られていると思います。

さらにプロモーション(昇進)エリアや「安全地帯」のようなエリアがあるものなども含めるとかなりの数が含まれることになりそうです。私の以前の記事で紹介したソヴリンチェス(コマを置いたのと同じ色のコマを操作できる)などもUnequal Board Spacesのゲームと言えるでしょう。

次回の記事では、冒頭で触れたゲームデザインコンペティションの内容を紹介するつもりです。


リファレンス

・David Parlet 'Katarenga - a game of unequal board spaces' "Abstaract Games" issue 17, pp. 23-26
・Fred Horn, Kerry Handscomb ’Shada - The greatest measure of thought in the world' "Abstract Games" issue 20, pp.14-15, 24


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?