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<地形効果>とアブストラクトゲームのデザイン(2)コンペティション編

先日、ボードのスペース(マスやヘクス)に特殊な効果があるアブストラクトゲームを紹介する記事を書きました。

今回はその続きで、このようなタイプのアブストラクトゲームを対象に、アブストラクトゲーム専門誌Abstract Games Magazine (AG) にて行われたゲームデザインコンペティション”UNEQUAL BOARD SPACES GAME DESIGN COMPETITION””の内容を紹介したいと思います。

なおAbstract Games Magazineについては、私の過去の記事でも触れているのですが、珍ぬさんの紹介記事がわかりやすくまとまっているのでそちらも参考にしていただければと思います。


UNEQUAL BOARD SPACES GAME DESIGN COMPETITIONとは

このコンペティションはABSTRACT GAMES Magazine Issue 17 (AG17)で予告されていたもので、AG21で募集が行われ、AG22、AG23で応募作が掲載されました。受賞作はAG21ですでに発表されており、AG24で残りの応募作と総評的なものが掲載される予定になっているようです。

募集テーマである”Unequal Board Spaces" は、ちょっと日本語に訳しづらいですが「ボードスペース(マスやヘクス)がコマにおよぼす効果が一様ではないゲーム」と説明されており、例としてカタレンガ、クァンダリー、カミサドが挙げられています(これらのゲームについては上記の記事で紹介しました)。また事前エントリとしてTip Top Toe、 Hoxの内容がAG21で紹介されていました。

Abstract Games では定期的にゲームデザインコンペティションが行われていて、過去には「8×8マスのゲーム」「先手と後手の配置が非対称なゲーム」「コマを共有するゲーム」のテーマで開催されたことがあります。

ノミネート作品

以下はUNEQUAL BOARD SPACES GAME DESIGN COMPETITION各ノミネート作品のおおまかな内容です。応募について特に細かい規定はなく、既発表のものや、応募テーマをかなり自由に解釈したものが含まれています。

順に「タイトルと作者名」「コンポーネントとセットアップ」「手番で行うこと」「勝利条件」の順に箇条書きにしています。AG○○はAbstract Gamesの掲載号です。図や正確なルールなどはそちらを参照してください。

結果を存じない方は、どれが受賞作かを予想しながら読み進めると面白いかもしれません。


※番号は掲載順序です

1. Tip Top Toe
  (Larry Back)AG21
・9×9マスを3×3ずつに仕切ったボードを使用、各マスは1から39までの数字が記入されている。数字はいくつか重複しており、3×3の仕切り内の中央は1~9までのいずれか、コーナーの数字と側面の数字はそれぞれ他の仕切り内の数字と2および3つずつ重複している。
・手番のプレイヤーは同じ数字をもつすべてのマスに1度にコマをおく。3×3の「ハウス」内で縦、横または斜めに3つ自分のコマがそろえばその「ハウス」を占拠できる。
・「ハウス」を縦、横、ななめいずれかで3つ占拠すれば勝ち。どちらもそれが達成できない場合はハウスをより多く占拠したプレイヤー、同数の場合は置いたコマがより少ないプレイヤーが勝ち(奇数マスなので引き分けは起こらない)。

2. Hox  (Larry Back)  AG21
・ヘックスを改変したゲームで、ヘックスと同じ平行四辺形型のボードを使う。各ヘクスはH, O, X の文字が規則的に割り当てられている。
・各プレイヤーはH(自分)→O(相手)→X(自分)→H(相手)というふうにHOXの順序を守ってヘクスにコマを置いていく。
・自分のコマでボードの向かい合う辺を繋げれば勝ち。

3. RosenKreuz (Kanare Kato)  AG22

・筆者の応募作で、7×7マスのチェッカーボードを使用。プレイヤーは「薔薇」と「十字」に分かれ、どちらも白と黒の駒を7つずつ、自分側の手前2列にマスの色と合わせて配置する。
・手番では自分のコマを8方向いずれかに1マス動かすが、横と後ろへは捕獲が可能なときにしか移動できない。自分のコマは直線でいくつでも飛び越せる。
・移動後、縦横につながった同色のコマのグループができ、かつそこに含まれる自分のコマが相手より多いとき、直接隣接している相手のコマをすべて捕獲できる(メジャーキャプチャ)。また、相手のコマがそのコマと反対色のマスの上にあるとき、チェスと同じようにそのマスへマスと同色のコマを移動させることによって捕獲できる(マイナーキャプチャ)。
・さらに、ボードの最奥にコマを到達させた場合、相手のコマをどれでも1つ捕獲できる(アテインメントキャプチャ)。到達したコマは手前の同じ色のマスに再配置する。
・相手のコマのうちどちらか1色をすべて捕獲すれば勝ち。


4. Chameleons (Chris Huntoon)  AG22

・渦巻状に赤と緑に色分けされた7×7マスのボードで、24個ずつのカメレオンを同じ色のマスに置く(はじめ中央は空)。
・手番プレイヤーは相手の色のコマを飛び越えて捕獲する(連続ジャンプ可)が、自分と異なる色のマスにとどまると相手のコマになってしまう。
・相手のコマをすべて捕獲すれば勝ち。


5. EVL  (Kevin Kane)  AG22

・五角形と七角形を組み合わせた特殊なボードを使用する。
・手番プレイヤーは自分のコマを七角形の空スペースまたは自分コマの上に追加するか、自分の2段以上のスタックを動かす。スタックは4段までで、移動の際はスタックの高さに応じた距離を移動し、通過したマスにコマを1つずつ落としていく。
・移動の結果として、五角形のスペースに自分のコマが2つ隣接し、かつそのコマ同士が隣り合っていない場合、その五角形スペースを占領できる。コマを再移動しても占領した五角形は失われないが、相手に再占領される場合がある。
・10個の五角形スペースを占領した方が勝ち。


6. Dag en Nacht (Chris Huntoon)  AG22

・11×11マスのチェッカー柄のボードを使用する五目並べタイプのゲーム。
・手番プレイヤーは黒のマスにコマを置くか、黒のマスに置かれた自分のコマを隣の白いマスに移動させる。縦か横に5つの自分のコマを並べるか、
・白いマスで斜めに4つ自分のコマを並べると勝ち。タイトルは「昼と夜」の意。

7. Zola (Mark Steere)  AG22

・6×6のボードにチェッカー様にコマを敷きつめた状態で開始。
・手番プレイヤーは自分のコマを、ボードの中央から遠ざかるように隣接する空きマスへ移動するか、チェスクィーンの動きでボードの中央に近づくように移動し着地先の敵コマを捕獲する。
・相手のコマを殲滅すると勝ち。
・もともとはチェッカー柄のボードだったが、応募時に中央からの距離が等しいマスが同じ色になるように塗り分けられた。


8. Andalusia (Chris Huntoon)  AG23

・「アルケルク」風のボードを使用するチェスタイプのゲームで、グリッドの交点を使用する。
・コマは王、戦車、歩兵の3種類。王は8方向に1歩、歩兵は前方に1歩、戦車は直線で任意の距離を動く。捕獲はチェスと同様。シャンチーのように、王同士は他のコマを隔てずに向き合うことができない。
・相手の王を捕獲すれば勝ち。

9. Bagel (Phil Leduc)  AG23

・4色のタイル9枚ずつをランダムに組み合わせ六角形型のボードにする。記号は色弱者用。
・手番プレイヤーは自分の色のコマを1つか2つタイルに配置する。2つ配置する場合は、同じ直線上にある同じ色のタイルを選ばなくてはならない。
・直線でより多く自分のコマを3つ並べた方が勝ち。4連は2つ分、5連は3つ分と数える。

10. King's Colour  (Christian Freeling)   AG23

・同じ作者のChadをベースにしたチェスヴァリアントで、後述のRoyal Guardから発展したもの。六角形ボードを3色に塗り分けたものを使用。初期配置はキングの周囲をビショップ6体で囲み両端にルークを置く。その周囲は城壁となっている。
・キングは自分の城壁内のみを動き、隣接ヘクスかナイトのように1マスとびに斜めに移動する。ルークは直線、ビショップは同じ色のヘクスを移動する。敵陣に入ったコマはクィーンとなる。
・キャプチャは敵の城壁の上か、自陣内でしか行えない。
・キングが異なる色のヘクスへ移動すると、同じ色のヘクスにいる味方の駒はすべてルークに、それ以外はビショップとなる。
・チェックメイトで勝利。


11. Royal Guard (Chris Huntoon, Christian Freeling)  AG23
・四色に塗り分けられた8×8マスのボードを使用するチェス。
・コマや配置などは通常のチェスと同じだが、自分のキングと同じ色のマスにいる味方のコマは「ロイヤルガード」として、追加の移動能力(キングと同じ移動)を得る。
・チェックメイトで勝利。

12. Seesaw (Alek Ericson +Michael Amunsen)  AG24(予定)

・任意の大きさの正六角形ボードを使用。各プレイヤーは同色のコマとタイルを使用し、初期配置としてボードの両端のヘクスに自分のタイル、その上にコマを置く。
・手番では1.既存の自分のタイルの隣の空ヘクスにタイルとコマを新たに配置、または2.既存の自分のコマ(スタック)を移動する。スタックは段数に応じた距離を移動する。
・奇数段スタックは相手側に向かって移動し、相手の色のタイルに着地すると段を追加、偶数段スタックは自分の方に向かって移動し自分の色のタイルで段数を追加する。また移動範囲内に敵のスタックがある場合そのスタックに向かって移動し捕獲を行う必要がある。
・相手のコマ・スタックがなくなれば勝ち。

13. Blither (Martin Grider) AG24(予定)

・正六角形のボードで、各ヘクスに丸、四角、星のマークがあり、プレイヤーはそれぞれ自分の色でこれら3つの形のコマをつかう。はじめ各色・各形のコマを1つずつ、コマと同じマークのヘクスに配置する。
・手番プレイヤーは自分のコマの一つを隣接する空ヘクスに移動し、移動先のヘクスのマークと同じ形のコマをそのマークの空ヘクスのいずれかに配置する。囲碁と同じように、隣接する空ヘクスがなくなった同色かつ同形のコマのグループはまとめて捕獲される。
・相手の3つの形のコマをそれぞれ少なくとも1つ捕獲したプレイヤーの勝ち。名前はメカニクスを参照されているゲームBloomsとSlitherから。


選考結果は・・・


勝者は6. Dag en Nacht (Chris Huntoon) 、次点で7. Zola (Mark Steere) でした。

私の応募作RosenKreuzは及びませんでしたが、こうしてみると選考では簡潔なルールが持つ美しさという、アブストラクトらしい美点が評価されたのかなという感じがして、複合的なルールをもつゲームでは分が悪かったかなという気がします。ちなみに総評的なものがAG24に掲載される予定のようです。

そして私の応募作RosenKreuzは、フィードバックに基づいて8×8マスに変更し、現在Kickstarterでファンディングを行っています(本日7月9日まで!)。よろしくどうぞ。


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