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時間切れ!倫理 12 コフート:自己の形成

 このような流れの中で出てきた精神科医がコフート(1913~81)です。教科書にはまだ載っていませんが、そのうち載るかもしれません。コフートは、ボーダーライン患者はすごく傷つきやすい自己愛を持っている、という。自己愛パーソナリティ障害とかれは名付けています。
 だれでも人は自己愛を持っています。それは、悪いことではない。しかし、自己愛パーソナリティ障害の人は、自分をきちんと愛することができない。
 だれでも子供の頃は、自己愛は未熟です。小さい子供は、誰かが面白そうなおもちゃを持っていたら、ばっとそれを奪ってしまう。相手がどう思うか考えていない。しかし、成熟してくると、そういう行動は取りません。他人を愛することで、自己愛を満たせるようになる。また、それで良いと考えるようになる。コフートはこれを成熟した自己愛と呼んでいます。

 ボーダーライン患者は成熟した自己愛を持てない。その多くは、幼少期に親に認められない体験がある。親に認められないことが、成熟した自己形成の妨げになっている。そこで、どんな治療をするか。治療は「共感」です。患者に寄り添って、ほめる、勇気づける、つまり「育てなおし」です。この考え方は、フロイトと全然違うね。フロイトは共感なんかしない。

 コフートは、フロイトが絶対にダメだといった逆転移もかまわないという。逆転移とは何か。精神科医に色々な話を聞いてもらっているうちに、患者は医者に対して特別の感情を持つようになることがある。男女だったら恋愛感情にも発展する。これを転移という。フロイトは、転移はかまわないといいましたが、「分析家は患者の心の影響を受けてはいけない」といい、逆転移を強く戒めました。患者から好意をもたれた医者が、自分も患者を好きになってしまうようなことを逆転移というのです。

 しかし、コフートは逆転移もかまわないという。そりゃそうですね。患者に寄り添って、共感するのだから、逆転移がなければ、治療はできない。

 この考え方で、心理学の世界が一変したといいます。現在、多くの精神科医はこのコフートの流れをくんでいると思います。

 フロイトやユングの「自我」と、コフートの「自己」は全く違うものですから注意してください。コフートは「成熟した自己愛」が大事だというのですが、自己とは何でしょうか。普通に、自己ですから、自分というものですよね。この自己は、成長過程のいつ頃に生まれるのでしょう。

 コフートは赤ん坊にも自己はあると考えます。エスも自我も超自我もないけれど、自己はある。僕たちは、赤ちゃんが泣いたり笑ったりするのを見て共感できます。共感できるのなら、そこに自己はあるのだという。

※コフートの自己愛パーソナリティの理論は自己心理学とよばれる。これに対して、フロイト、アンナ・フロイト、クラインは自我心理学。
 これとは別に、非指示的カウンセリングで著名なロジャーズ(1902~87)の心理学は、人間性心理学と呼ばれる。ロジャーズはフロイトの弟子ランクに影響を受けている。ロジャーズは、患者を「自己成長する存在」と位置付けた。患者をクライアント(顧客、依頼人)と呼んだ最初の人であり、グループ・エンカウンターを始めた人でもある。クライアントの機能不全(心理的躓き)は、過去に由来しない。臨床家がクライアントを受容することで、クライアントは硬直した自己概念を集成し、成長する力を取り戻すと考えた。(エンカウンターは「勇気づけ」ること。グループ・エンカウンターはグループで本音を出し合うことによって自己を受容していくカウンセリングの手法)

 赤ん坊の自己について、いくつかの考えを参考までに載せておきました。「赤ん坊の『自己』はまとまりのないバラバラ」(メラニー・クライン)。「赤ん坊にとって、画期的な精神的成長は、他人が『主体』であることを知ること」(オグデン)

 生まれたばかり赤ちゃんには自我、自己はない。これは、みんなが認めるところだと思います。ではいつ頃自己が形成されるのか。ばらばらの自己がひとつにまとまるのはいつ頃か。クラインは、生後3ヶ月から6ヶ月くらいという。これは早いほうで、その他の心理学者たちは、1歳くらい、あるいは2・3歳という。その頃には、自分や相手を「同じ一人の人間」と感じるようになる。このくらいが、一般的な意見です。(つづく)

※現在の治療がどんなものかの一例として、大平健『診療室にきた赤ずきん―物語療法の世界 (新潮文庫)』のなかから、不登校女子生徒の項目を朗読した。読んでみると、10分以上かかってしまった。あまりにしんどいので一クラスだけでやめました。

【参考図書】
和田秀樹 『自分が「自分」でいられる コフート心理学入門 』
和田秀樹『痛快!心理学 (痛快!シリーズ)

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