見出し画像

ショートショート:「海を漂う」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は、〝こうあってほしい〟という自分自身に近い話です。
朝起きると、気分が重たい人って沢山いると思うんです。
そんな方に、何かが届くことを祈ります。


【海を漂う】

作:カナモノユウキ


朝起きてからは、先ずはぼーっとする。
ベッドから出ないで、手には何も持たずにぼーっとする。
静かにしていると、どこからともなく波のような音が聞こえる気がする。
その音に、しばらく集中する。
「……よし、今日も穏やかだ。」
穏やかな波のような音、〝ザパーン・ザパーン〟って聞こえると僕は安心する。
この音は、僕の世界が平和な証拠。
僕の中の海が、〝荒れていない〟ということだ。
一昨年までは、大荒れだった。
その日も雷のようなアラームで目が覚める。
起きると、ぶ厚い雲が落雷を落として海は荒れていた。
〝ズバーン!ゴロゴロ・ザッパァーン!ザザーン!ズバーン!ゴロゴロ・ザッパァーン!〟って荒々しい音がする。
アラームを止めてベッドから降りると、まるで荒波を渡る船のように、思い通りに動かない体があって。
漕ぎだした体は重くて、顔を洗ってもサッパリしない。
寝たばかりなのに、頭の中はぼんやり。
朝食は喉を通らず、浸水した海水で満たされているような、嫌な気持ちの悪い満腹感。
スーツを着ると、もう身動きが出来ない。
まるで溺れているようで、玄関を開けるとただ波に身を任せるように考えることをやめる。
そこからの記憶は毎日曖昧だ。
他の海を漂う軍艦に攻撃されたり、小さな子船のオールで小突かれたり。
家へ帰るころには、体はヘトヘトで動けない。
そんな毎日を闇雲に漕ぎ進める毎日に疲れたときだった。
「あれ、寝坊だ。」
僕は驚くような時間まで眠っていて、スマホには不在着信の山ができていた。
「あぁ、僕マナーモードにして寝てたんだ。」
アラームの雷音も聞こえなかったせいなのか、僕の心は穏やかな波を響かせていた。
焦るような鼓動も響かない、「あぁ、終わった。」と静かに波打つ自分の海に笑ってしまう。
とても穏やかで、僕はすーっともう一度眠りについた。
その日から、僕は会社に行くことを辞めた。
なんてことのない「仕事が辛くて、無断欠勤した拍子に仕事を辞めた人の話」かもしれないけど。
僕はそのとき知ったんだ、心の海は僕自身であって。
海の荒波は、僕の叫び声だった。
今は寄せては返す穏やかな波、〝今日も静かだね、今日も平和だね〟って僕自身に語り掛けてくる海。
会社を辞めてからしばらくして、僕はお話を書いている。
ゆっくりじっくりと、波を読む航海士のように、自分の書きたいお話を書いている。
自分に正直に生きていると、波が笑顔で語り掛ける。
〝いいじゃない、その調子じゃない〟って、僕は嬉しくなって、益々自分を好きになるんだ。
結局は『自分に正直になれよ』って、僕自身が言いたいだけなのだと。
今日も漂う心の海から教わったんだ。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

この話自体、僕が毎日感じていることを表現したつもりです。
朝起きて動機が強かったら憂鬱だし、前日やその前の日から起こった嫌なことが、魚の小骨がのどに刺さったような違和感で続いて気持ちの悪い日々が続くとかもあると。「あぁ、どうすればこのモヤモヤが晴れるのか」って悩むと思うんです。そういう時は、心にコンパスがあると思って〝楽しいことを探す〟というのが特効薬なんじゃないかなと思うんです。
この〝僕〟の場合は極端な行動でしたが、他にも沢山〝自分に正直になって楽になる、楽しくなる〟って解決策がきっとある。
そういうことが伝わればと書いてみました。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


《作品利用について》

・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
 そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
 ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。

  1. ご使用の際はメール又はコメントなどでお知らせください。
    ※事前報告、お願いいたします。

  2. 配信アプリなどで利用の際は【#カナモノさん】とタグをつけて頂きますようお願いいたします。

  3. 自作での発信とするのはおやめ下さい。

尚、一人称や日付の変更などは構いません。
内容変更の際はメールでのご相談お願いいたします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?