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【短いおはなし】3月5日は「啓蟄」

「いや、なんて読むのこれ?」

配られたプリントには、「啓蟄の候ともなりましたが」と書いてあり、今どきの高校生の漢字読解力を信じて疑っていない無垢な少女の如く、当たり前のように読み仮名はついていなかった。

いや、先生漢字読めませーんって手を上げようと思ったら、周りの他の生徒はみんなプリントをふんふん、なるほどねといった具合に読んでいる。おいおい、絶対お前らの内の半数近くがこの啓蟄を読めてないだろ。
なに知ったような顔して、読み飛ばしてるんだよ。どうすんだよ、生死にかかわる大事なワードだったら。

途端に先生に聞くのが恥ずかしくなり、仕方ないから小学校の先生に教えてもらった必殺技で対処する。漢字の中の漢字を読取り、意味や成り立ちを考えるのだ。
まず、啓蟄の啓か。
うーん、口が多いな。なんだかじっと見ていると人の顔に見えてくる。下の口は口だ。いやそうなんだけど、ビジュアル的にも口に見える。
そして、大問題の啓蟄の蟄だ。わが人生のなかで初登場の漢字。
うーん、虫の存在感がすごい! 上もごちゃごちゃしすぎて分からん。でもよく見ると幸せと丸いがある。丸くて幸せなものってなんだ。

「啓蟄の候ともなりましたが」の候も読めない。あ、閃き!
ノドじゃね?何とかのノド! 何のノドだよ。

「大事なプリントだから、親御さんに渡すように」と先生がおっしゃった。

ほらーやっぱり大事なんじゃん。どうすんだよーあーあ、こんなことならちゃんと漢字勉強すれば良かった。漢字なくても生きていけるしと思ってたけど、日本人はやっぱり漢字が大事なんだな。

***

「ただいまー」

「お帰りー夕ご飯、今作ってるから待っててね」

「お母さん、これ学校からのプリント。なんか幸せのまーるい虫がノドにつきやすいから気を付けてって」

3月5日は「啓蟄」




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