〖短編小説〗1月29日は「人口調査記念日」
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入口と人口が似ていることに、ぼくは気づいたが、近くにその発見を伝える第一人間はいなかった。そもそも、親しく話せる人など、ぼくの近くには存在していない。話をするのは、食料調達でよく行く市場のおじさんorおばさんor性別不明のチアボーイorガールと、市場の入口にいつもいる猫だけだ。あの猫は誰かを待っているのだろうか。いつも下を向いたまま落ち込みつつも顔をなめなめしている。上を向いて舐めよう。
入口猫の話をしよう。入口猫は三毛猫でいつも外にいるせいか、若干汚れている。でも毎日顔は洗っているからそこらの人間よりよっぽど清潔。まぁ、人間も含めて清潔感あふれる人など今では存在しないから、猫に清潔感を求めるのは酷だ。猫はある人は「たゆたう」と呼び、また別の人は「ジョン・タイター」と呼んでいた。ちなみにぼくは「しょうろんぽー」と呼んでいる。理由は伸ばし棒のぽーが好きだから「エドガー・アラン・ポー」でも可。猫は市場の古風な言い方をすると、マスコット的な存在なのかもしれない。100人いれば100通りの名前が付けられて、100人が100語の言葉を猫に投げかけて、100猫語を勝手に100人の人間が100語の日本語に翻訳する。
「あなた、最近疲れているんじゃない?」「あそこにベンツが停まってますね」「なんくるないさ」などなど。猫語は日本語に翻訳しやすいのが最大の特徴だ。
せっかくなので人口の話もしよう。人の口と書いて人口。口?さては口は城壁で囲まれた都市を表しているな?はたまた、人の口は暗く井戸のように底なしだから、口か?人口の謎は入口猫に聞いても教えてはくれないだろう。
それにしても、人口が減少し続けているという噂を市場を通った時に、立ち話していた恐らくおばさん(最近は性別が意味をなさない世の中だ)二人が言っていた。一人は後ろから見ると、髪型が真四角だったので、真四角さんと命名。もう一人は正面から、ちらっと見たが、正面どうこうの問題ではなくとにかく全身真っ赤だった。真っ赤な嘘なみに赤かった。こちらのひとは真っ赤な嘘さんと命名。
真四角さん「最近ぢゃあ、人口も減っているそう世」
真っ赤な嘘さん「やん、そういえば子をぜんぜん見かけない和」
真四角さん「んね。子なんて貴重よ。財宝よ。なんでも子が誘拐されて高値で取引されているそう世」
真っ赤な嘘さん「こわい、こわい世の中。あたしたちも誘拐されたらどうしよーこわい和」
真四角さん「やん、こわい世」
覚えている会話はこんなもん。なんでも、人口が減っていて、子が貴重で、世だの和だので、誘拐されるらしい…やん。
これから生まれてくる子に、夢や希望(空のペットボトルより軽い)があるのだろうか。
入口猫には、猫夢や猫希望(キャットフードよりやや重い)があるのだろうか。
真四角さんや真っ赤な嘘さんには、四角い夢や真っ赤な希望(真っ赤な夢や四角い希望でも可)があるのだろうか。
そして、わたしには(ぼくには)生きている意味があるのだろうか。
入口猫に「ばいにゃら」と挨拶して、今日も市場を後にする。
1月29日は「人口調査記念日」
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