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なんか、


お互い口には出さないけどもうきっと
これが最後なんだろうなって思ってる。

私もあなたも。




ねえ、明後日どうするの?
ああ、記念日か、どうしよか。


なんて気の抜けた返事が返ってきたのは数日前
ソファーを背もたれにして見慣れたジャージと
ヨレヨレのTシャツを着た彼は私の事を
振り返るわけもなくテレビを見たまま答えてた
見飽きたくらい当たり前の22時過ぎだった

記念日覚えたのかと感心はしたけど
別にそれで込み上げるような感情はなかった


終わってる。ホントはもうずいぶん前から
私たちはとっくに終わってる
でも別れる理由もなかった。これはお互い様


出会った時はお互いまだ若かったし
すぐ惹かれあって燃え上がって求めあった
私の狭いワンルームに絡まり合うように
飛び込んできてからもう数年経つ


結婚がチラつく歳になったけど彼との
この先の未来は正直想像できなかった
男がよく言うそんなつもりじゃなかった
って言葉が今の私にはよくわかる


学生時代や出会った頃なんてそんなこと
相当先の話だと思ってた
仕事がなんだとか親がなにしてるだとか
貯金があるないなんて関係なかったのにね
ただ好きって思ったら突っ走ってられたのにね


私があなたとここまでずるずるきたのも
そんなつもりじゃなかったの。
まあ、あなたもそう思っているでしょう
だからいいの、お互い様だよ。




新しい水族館できたらしいけど行く?

行きたい。

んじゃ、それで。


新しくできた水族館は想像より遠い場所にあった
2人で車に乗って1つ県を超えた。
なにもかもいつも通り。いつ壊れてもおかしくない
軽自動車に乗って携帯をナビがわりにセットして
音楽を流しながら他愛のない会話をした
いつも通りだ、でもこれが最後だ。
彼の頭にもその答えしかないはずだ。


だけどお互い、いつも通りに過ごしてる
こんなんだから結局ここまでずるずると過ごして
きてしまったんだと思うと嫌になるくらい
似た者同士だなって窓の外を見ながら笑ってしまった


なに笑ってんねん

いや、なんかおもろいなって。


そう返せばそれ以上は彼は深く追求しなかった
付き合いたての頃ならきっとなに?教えて?
ってしつこく聞いてきてたな。
もう今はそんな会話にならないもんな。
興味ないんだろうな…いや、それでもないな
私の考えがわかってるのかも知れないな。

なんて頭の中で考えていたら水族館に着いていた


新しい水族館なだけあってどこも綺麗で
私も彼もすごーい。すげー。なんてこぼしながら
大きな水槽にみとれていた。


イルカショー今日はしてへんらしい。
けどプールの下見れんねんて。

ってパンフレットを見ながら私に言う彼に

じゃあ見にいこうよ。

ってクラゲの水槽から目を逸らさず答えた
歩いていくうちにたどり着いたイルカの水槽
目の前を群れて泳ぐイルカを見てたら無意識に
言葉が溢れた



仲良しやな、いいなぁ。



あ、やった。私やった今絶対。
言うべきじゃなかったって思っても無意識に
こぼれ落ちてしまったものは無かったことに
出来なかった。

私は恐る恐る水槽に反射する彼の顔を見た
なんでこーゆー時ってびっくりするくらい時間が
ゆっくり進むんだろう、心臓に悪い


せやな。


ねえ、やめて。ずるいよ今そんなのずるい。
せやなってすんなりいつも通り返してよ
いつも通りで最後までいてよ

せやな。のそっけない返事の前に1秒にも
ならないくらいの間をつくらないでよ
隣の親子にはわからない、第三者にはわからない
ただの普通の会話。でも、私にはわかる。
私にだけわかる間をつくらないで。




もう終わってる。

私たちはとっくに終わってる。

だからそんな一瞬の間で決意を揺らがせないで
もう一緒にいたってずるずるだらだら時間を
過ごしていくだけじゃない。


私たちは大人になりすぎた。
もうそんな生ぬるい時間を過ごすわけにいかない
だから、そんな最後に私を揺るがす間をつくらないで
期待させるような素振りをしないで
いつもみたいに私の話を右から左に聞き流して
ボケーっとテレビを見てる時みたいな顔をしてよ




大きなイルカの水槽に反射して映っていた
彼の顔は出会ってから初めて見る顔だった


受け止めきれず私はすぐイルカに視線を戻すと
正面に映る私の顔も初めてみた表情をしてた



それからは何事もなかったように

いつも通りの2人だった


帰り道、暗い山道を越えて高速に乗って
窓から景色を見てたらこれから私きっとイルカを
みたら今日のこと思い出すんだろうな、
2人して情けない眉も口角も下がりきった表情を
思い出したら、なんだか笑えてきた。


なに笑ってんねん。

いや、なんかおもろいなって。


ああ、デジャブか。数時間前も数日前も
数年前もこんな会話したな。
楽しかったな、いつもなんかおもしろかった
あなたといる時私なんか、おもしろかったの。
なんか、心地よくって安心できたの。

なんか、なんか、だいすきだったの。


窓からバックミラーに目線を移せば
いつも通りの彼が映っていた。




きっと家に着いたら彼は荷物をまとめて
いなくなる。
きっと、大丈夫。けど、忘れられないな。

私のなんかおもしろかったこの時間達は
ずっと忘れないから。ありがとう。



だけど最後のわがままを一つだけ聞いてよ。


脱いだ服いっつもその辺にほったらかしてたし
使ったカップそのまま放置するし
休みの日一日中家でパジャマで課金してゲームするし
いつも聞いてくれなかったこと許してあげる



だから、
悔しいからあなたもこれから
イルカを見る度思い出してよ
私とのなんかおもしろかった時間を。










〜先日学生時代の女友達と2人で
四国水族館にいってきました!水族館マニアな
私的にかなり上位に入る水族館でした!!

その時撮ったイルカの写真で空想物語でした
四国水族館いいぞお〜。是非行ってみて!〜

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