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和歌と写真で辿る山辺の道の旅
いつもお読みいただき、ありがたうございます。和歌(やまとうた)とサウナ、そして旅を楽しむ玉川可奈子です。突然、フォロワーの方が十倍以上に増えて驚いてをります。一人でも多くの方がお読みいただけたら幸甚です。
月刊『正論』で、経済評論家の上念司氏が「虚偽発言の常習犯 玉川氏を告発する」なる記事を書いてゐました。上念氏からは学びこそすれ、批判されることなど書いたことはないし、同じリフレ派だと思つてゐましたので意外でした。しかし、何のことはない、玉川徹批判でした。
明治節に奈良へ
十一月三日。明治節。この日、私は十度目の山辺の道を歩きに行きました。日頃の疲れはもちろん、少しでも鬱抜けができれば…と願つてのことでした。まだまだ本調子ではありません。
なほ、この日はいふまでもなく、明治天皇の御降誕の日です。当時、大阪の坐摩神社にて、御平産を祈り奉つてをられた佐久良東雄先生が、
天照す 日嗣の皇子の 命ぞと 深く思へば 涙し流る
と詠まれました。率直な感動を、飾らぬ言葉で、東雄先生らしく明治天皇の御生まれを言祝いでゐます。
二日の昼に仕事を早々と切り上げ、新横浜駅から十三時四十五分発のこだま729号で名古屋まで行きました。今回は、ぷらっとこだまエコノミープランです。
新横浜駅で、崎陽軒のシウマイ弁当を買ひ、車内でいただきました。美味しくいただいてゐたら、間も無く小田原駅に到着しました。
のぞみが通過する度に、車内には一瞬の衝撃が走ります。
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熱海駅のあたりで、海が見えてきます。源実朝の歌が頭をよぎります。
箱根路を 我が越え来れば 伊豆の海や 沖の小島に 波の寄る見ゆ
実朝の歌は、実に見事な万葉調です。
今日は、快晴で、遠く、天地の寄り合ひのきはみに雲がかかつてゐるのが見えます。熱海駅では幾人かの乗客が降りて行きました。
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三島駅では、平岡公威が見たといふ富士山の雪をのぞむべくもありません。しかし、非日常の景色を堪能しながら呑むハイボールはなかなか乙なものです。
陽射しがぬくぬくです。少し眠くなつてきたところで、田子の浦新港が一瞬だけ見えたと思つたら、新富士駅に着きました。
ここからしばらく読書をして過ごしてゐたら、名古屋駅に着きました。定刻の十六時六分です。
名古屋飯を食べることなく、近鉄の改札口を目指します。
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十六時三十分発のアーバンライナーのデラックスシートに乗り、大和八木駅を目指します。定刻に出発し、しばらく走ると、車庫にクラブツーリズム専用列車かぎろひ号が停まつてゐました。列車名から、柿本人麻呂の次の歌を連想します。
東の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月かたぶきぬ (『万葉集』巻第一・四八)
なほ、訓みは賀茂真淵のそれです。私が小学五年生の時に、『万葉集』を好きになり、しきしまのみちを志すきつかけとなつた歌です。
日の暮れの車窓が輝いて見えます。
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近鉄が好きだと気付く
ところで、私は近鉄が好きだと気付きました。好きな理由は、豊富な特急列車の存在がありますが、わが国にとつて大切な土地を結ぶ駅がたくさんあることがその理由の一つです。
例へば、
楠公の生まれ育つた河内長野(大学生時代の親友の出身地でもあります)。
神宮の坐します宇治山田。
『古事記伝』の本居宣長大人を生んだ松阪。
坪内隆彦さんが高く評価される尾張藩のある名古屋。
後醍醐天皇の吉野。
神武天皇をお祀りする橿原神宮(われらが日の本の始まりの地でもあります)。
雄略天皇の宮のあつた大和朝倉。
奈良の都の近鉄奈良。
大津皇子の鎮まる二上山。
そして、明治天皇御陵の桃山御陵前…。
まだまだたくさんありませうが、思ひ付くだけでもこれだけの史跡を結ぶ駅があります。
奈良
気付いたら、近鉄奈良駅に着きました。急いで朱鳥に行き、お土産の手ぬぐひを買ひました。親切に対応していただき、ありがたいです。
お店の人の話しによると、職人も少なくなり、新しい商品を作ることができない。なので、買ふなら今、とのことです。どうにか、後を継ぐ職人さんが生まれ、この優れた手ぬぐひを受け継いでほしいものです。
使へば使ふほど、馴染んで来ます。サウナでも風呂でも日常でも…様々な場面で役に立つ手ぬぐひです。
天理スタミナラーメンをいただきました。ここのラーメンは神保町の覆麺・智に続く美味しさです。
その後、宿に入り、豊澤酒造の貴仙寿を呑んで寝ました。
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明治節
大皇は 神にし坐せば 生れましし けふの佳き日は 晴れにけるかも 可奈子
山辺の道へ
前置きが長くなりました。ここから本編になります。今日はいよいよ、山辺の道を歩きます。今回で十回目になります。
山辺の道については、こちらの記事に書きましたので、詳細はこちらに譲り、今回は私の歌と写真と共に、そのハイライトを見ていきませう。
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朝六時四十分頃、宿を出てしばらく歩きました。ひつそりとした朝の奈良の街も風情があつて好きです。よく晴れて、清々しいです。
時間短縮のため、近鉄奈良駅前からタクシーで春日大社の近くまで行きました。千円くらゐでした。
春日大社の神域に着くと、冬毛に変はつたモフモフな鹿がゐました。神前で春日の神様を拝し、今日、導いてくださつた神恩と旅の無事とを祈りました。
前々日の雨で道が湿つてをり、蝸牛、つまりでんでん虫が至るところにゐました。踏まれないようにね。
春日大社
朝日照る 春日の神に 祈りつつ 苦しき旅も 楽しくありこそ 可奈子
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北コース
春日大社からしばらく南に歩くと、山辺の道最北の標識があります。私はいつもここを起点としてゐます。
今日は七時十一分に出発しました。少し歩けば、新薬師寺が見えてきます。
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高円山のあたりに日が昇るのが見え、気持ちも高まります。
能登川を渡り、白毫寺への標識が見えてきました。萩のさかりは過ぎてしまひ、惜しく思ひつつ、また志貴皇子を偲びたかつたのですが、足を南に進めました。
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高円山
あをによし 奈良の朝開を 一人歩き 高円山は 照りにけるかも 可奈子
白毫寺
萩の花 咲ける盛りに 偲ぶらむ ここにいでます 神の御子はも 可奈子
陽射しがあたたかく、はやくも汗だくだくです。しかし、この陽射しこそが日の大神のみ恵です。この陽射しあつてこそ、私どもは健康でゐられ、美味しい食べ物をいただけるのです。ありがたいです。
生駒山は雲に隠されて見えません。鹿の侵入防止柵を抜けて行きませう。
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円照寺は、木々から陽射しが抜けて見事です。なんとも神々しい。なほ、円照寺の拝観はできません。三島由紀夫の『豊穣の海』に出てくる「月修寺」のモデルださうです。
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弘仁寺では、一匹の猫が私の前を走り去つて行きました。私の呼び掛けには応じてくれませんでした。
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白河ダムは、釣り人がヘラブナ釣りに興じてゐます。黄葉(万葉では紅葉ではなく黄葉と書きます)してゐない木々が水面に映り、目を楽しませてくれます。
白河ダム
しらかはの 池の底さへ あしひきの やまの黄葉 照りにけるかも 可奈子
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石上大塚古墳脇の竹林を抜ければ、天理の街並みが見えてきます。豊日神社の前を通り、『万葉集』にも詠まれた布留の高橋を渡れば、もう少しで石上神宮に到着です。
ここまで、二時間四十八分です。
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南コース
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石上神宮を参拝しました。楼門の前にある小さなお社、これは出雲健雄神社といひ、国宝に指定されてゐます。あらたかです。
石上神宮
背の君と 共にや来しと いそのかみ ふるの玉垣 鶏の鳴くらむ 可奈子
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鶏を尻目に、南に進みませう。南コースはにはかに人が増えて来ます。家族連れ、老夫婦、老人会?、様々な人たちが山辺の道の秋の景色を楽しんでゐます。
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途中、無人販売所や民家の販売所があり、柑橘類や芋、柿を売つてゐます。そのうちの一つ、夜都岐神社の近くの販売所ではよく人に慣れた黒猫がゐました。撫でても嫌がりませんでした。
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このあたりから、雲が晴れて西の山々がよく見えるやうになりました。大津皇子の鎮まる二上山も見えてきました。
生駒山
生駒山 雲な隠しそ くさまくら 旅行く我を なぐさむるため 可奈子
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五月七日に来た時は、雉が鳴く中を歩きました。この時、休憩したところで、また同じ猫に出会ひました。
「飯をくれ!」
と、鳴いてゐました。撫でさせてはくれませんでした。
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西山塚古墳の前の池には、金魚が群れてゐました。
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犬養孝先生の歌碑のあたりに着きました。歌碑には、柿本人麻呂の妻が亡くなつた時に、「泣血哀慟」して作つた歌が刻まれてゐます。
衾道を 引手の山に 妹を置きて 山道を行けば 生けりともなし(『万葉集』巻二・二一二)
(衾道、その引手の山に妻を置き去りにして、山道を行けば、生きてゐるとも思へぬ)
実に悲しい歌ですが、歌碑を見ることは楽しみの一つです。その歌、字、どれを見ても個性があつて面白いものです。
歌碑
道の辺に 旅行く人の 慰さにと 黙して立てる うたのいしぶみ 可奈子
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渋谷向山古墳(景行天皇御陵)のあたりでは、山の辺の道ファンクラブの方が、お店を出してゐました。大変美味しい柿を売つてゐましたので、お土産にしました。
なほ、奈良市内の書店で薬師寺元管主の高田好胤の書を購入し、これもお土産にしました。
垂乳根の 母に届けむ たまほこの 道のほとりの この柿の実を 可奈子
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今日も、耳成山、畝傍山、そして金剛山がよく見えてゐました。
田んぼには、夏になればカブトエビが現れます。それを見るのも山辺の道を歩く楽しみです。もちろん、この時期はゐませんが。
夏にならば 田面に生ふる 玉藻食ふ かぶとえび見む 道の旅かな 可奈子
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三輪山もよく見えます。遠くから見てゐるだけで、何か神々しいものを感じます。
三輪山
山辺の 道に出で立ち うまさけの 三輪の神山 見るがうれしさ 可奈子
我が思ふ 君に会はむと うま酒の 三輪のみ神に 手向けするかも 可奈子
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途中、休憩所で大福をいただきました。引き続き、歌碑を見て歩くのは楽しいものですね。
穴師川
穴師川 なびく玉藻の はしきやし 寄り寝し妹を 思ひけるかも 可奈子
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檜原神社から二上山がよく見えます。大津皇子が偲ばれます。
二上山
いにしへに 神のみ鏡 まつるてふ 杜より見ゆる 二上の山 可奈子
狭井神社を参拝しました。三輪山はまだ登拝できません(十一月三日現在)。
三輪山登拝
うまさけの 三輪の神山 背の君の さしのべし手を 結びつつ行く 可奈子
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大神神社を参拝し、しばらく歩いて海柘榴市の歌碑のところに着きました。ここまで五時間四十八分でした。
海柘榴市の 八十のちまたの おもかげは 今は知らねど 来ればなつかし 可奈子
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旅のおはりに
今回は、ワークマンの靴ではなく、ニューバランスの靴で行きました。さすがに歩きやすく、脚へのダメージも少なくて済みました。長い距離を歩く際、靴の大切さが身に沁みます。
帰りは、特急あをによしに乗りたかつたのですが叶はず。京都の一澤信三郎帆布に立ち寄り、八坂神社を参拝して帰りました。
次来る時は、大切な人一緒だつたら…。歩きながら、もし新婚旅行ができるなら、伊勢、奈良、京都も良いナアと思つてゐました。
なほ、一澤信三郎帆布ですが、欲しいと感じたかばんは大体、高い…。
京都の旅も合はせてどうぞ。
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最後に宣伝で恐縮ですが、「日本」十一月号に森生文乃さんの「絵物語 橋本景岳」の最終話が掲載されました。全編合はせてお読みいただけると、感動もより深くなりませう。ぬくぬくになる作品です。どうか、こちらもご一読いただけたら幸甚です。
写真が盛り沢山の中、お読みいただき、ありがたうございました。
参考までに、以下の記事も面白いです。
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