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【ワーホリ国際恋愛体験談】⑳ドラマのような恋を君と 韓国の男

☆前回までのあらすじ☆
29歳の時に初ワーホリでオーストラリアへ!
1年間のワーホリ期間が終りに近づき、旅に出ることに。

☆用語解説☆
・ワーホリ: ワーキングホリデービザ(若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはその保持者。
・バッパー: バックパッカーズホステルの略。安宿。

※この記事はほぼノンフィクションです。誰かに迷惑が掛からないようちょっとだけフィクションを混ぜてます。

***
(本編ここから)

他国の人の名前というのは本当に難しい。
私は出来る限り本物の発音(英語や日本語訛りじゃなく)で呼ぶようにしているけれど、彼の下の名前はこれまで出会った中でも最高難度の発音をする名前だった。
何度も練習してみるも難しく、諦めて結局みんなと同様に彼のファミリーネームで、キムと呼ぶことにした。

キムと出会ったのはオーストラリアの真ん中の砂漠都市、アリススプリングス
あらかじめ申し込んでいた、南のアデレードまで下る2泊3日のバスツアーのバスの中だった。

ドキドキしながらバスに乗り込んで中を見回すと、もう既に満席。
「あっ」とアジア人の男の子が席を立って、私に譲ろうとした。
それがキムだった。
いや、私に譲ってあなたどうするの。

「ここ!空いてるよ!」
ツアーガイド兼バスドライバーのマックスが声を掛けてくれたのは、一番前の特等席。助手席。
どこよりも景色が見られると、私は逆にラッキーだと思った。

いきなり初日から寝坊してやって来たマックスは陽気でお調子者。
ロードトレインと言われる3両連なった超ロングトラックとすれ違って歓声をあげる私のために、ウィンドーウォッシャー液を全部使い切って窓を掃除してくれたりした。
ガイドのくせして後先考えない彼のツアーは楽しかった。

最初の休憩ポイントに着くと、お店の前に座ってどこを写真に収めようか周囲を見回す私の横にキムがやって来た。
一人で参加した私には嬉しい、このバスツアーで最初の友人となった、韓国出身の彼も一人での参加だった。

途中で立ち寄る度に他にも話せる友人たちができたけど、キムは毎回私を気にかけて傍に来てくれていた。
生真面目そうで、さり気に私をエスコートしてくれる彼の隣、私はこっそり台湾人のアレックスを思い出した(『⑨まだ恋は始まらない 台湾の男inパース (前編)』)。
一人で大丈夫だと強がるけれど、私は結局いつも誰かに助けられる。


私のこのツアーの目当ては途中一泊するクーバーピディ

そこはオパールの採掘場として町が出来、灼熱の地上を逃れるためにやがてその採掘後の穴に居住空間を築いた、世界的にも珍しい地底の町である。
かつては学校や教会も地底にあった。

クーラーのある現代、住民たちはまた地上に戻ってきたけれど、かつての生活空間は歴史的建造物として観光用に残されている。

この話を聞いてからずっといつか一度は訪れたいと思っていたところでこのツアーを見つけたのだ。
嬉々として地底探検する私の後を、キムは静かな微笑みを湛えてついて来た。


そんな夢の2泊3日はあっという間で、3日目のお昼にはアデレードに到着。
到着した後はノープランだったけれど、せっかくなので夏のアデレードの街を散策することに。
キムも翌日の夜の飛行機でシドニーに帰るまで時間があると言うので、一緒に街歩きをすることにした。

ツアー中のキムはあくまでも友達の距離を保っていたけれど、ツアー終了を境に友達から少し近づこうとしている様子には、鈍い私も気づき始めていた。

ちょっと私がバランスを崩したとき、信号を渡るとき、やたらと彼が私に手を差し伸べてきたのだった。

いい大人だし、おばあちゃんでもないし、私大丈夫なのに。
困ったなぁと思って、だけどまぁどうせ翌日の夜までの付き合いだからと、「大丈夫」と笑って彼の手をそっと振り払い、彼の気持ちには気づかないフリを通した。

「写真撮ってあげる!」

あちこちの美しい場所、私が目を輝かせる場所で、彼はやたらと私の写真を撮ろうとする。

美しい景色にカメラを向けるのは好きだけど、撮られる側は慣れていない。どうしてもぎこちない残念な仕上がりになる。
まぁ、この気恥ずかしさもあと一日だけだし…。


キムとの別れのときが来た。
彼はとても寂しげで、それはもう、見ているこちらも申し訳なくなるほどだった。

人生で初めて、人からI Love Youを言われた。LIKEじゃないんだそうだ。
こんなこと言われたらそりゃあ私だって嬉しい。

でもねキム、私たち知り合ったのつい3日前だよ。

彼は本国ではドクターの卵。シドニーではインターンとして大学病院で勉強をしているのだとか。
まだホリデーが残っていて、残りの日数を今度はトラムが走る美しいメルボルンの街で過ごそうかと計画していると言う。

「いいなぁ。メルボルン好きだったなぁ。楽しんできて!」
お葬式のような顔をする彼を励ますように、元気に別れを告げた。


キムを見送って、私には行きたいところがあった。

東海岸の美しい町、バイロンベイ
日本からはハネムーン先としても有名だとか。落ち着いていて、絵画の世界のような場所。

会いたい人が居た。
以前偶然に出会って、忘れようとして、忘れられなかった人。
またもう一度、少しだけ、会いたかった。
(『⑥もしも、のはなし バイロンベイの男 (前編)』)

キムと別れ、私の気持ちはもうすっかりその人の元へと向いていた。


バイロンベイに着いたのはキムを見送った翌午前中。
荷解きもそこそこに、町に出る私の心は忙しかった。

その角を曲がったら居るかもしれない。違う。居るわけない。
あの通りかもしれない。そんなわけない。

そんなとき、キムからメッセージが来た。
「カナコ!今どこに居る?」

だからバイロンベイだって言ったじゃんと心の中で毒づきつつ、
「バイロンベイだけど?」と返信。

すぐにメッセージが返ってきた。
「バイロンベイのどこ?」

マサカと思ったら、彼は当初の計画を中止して私に会うためにバイロンベイに来ていた。偶然にもバッパーまで同じ。

「運命だ!」

彼は力強く勘違いをしたようだった。
小さな町なのでバッパーも数えるほどなだけなのだ。

せっかく私のために来た彼を無下にすることもできず、彼と笑顔で再会。

「驚いたよ!
でもここもキレイなところでしょ?」

私への想いを隠すことをしない彼を気にする素振りを1ミリも見せず、あくまでも友人として対応した。

だって私はそれどころじゃなかったから。

(つづく)

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