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日本文化学科での〈学び〉と〈実践〉

 うだるような暑さのなか、空調の効いた「みなとみらいキャンパス」の各教室を会場に、恒例のオープンキャンパスが、7月16日の日曜日に開催されました。
 2023年の今年、ようやく完成年度を迎えた「日本文化学科」では、学科独自の企画を立ち上げ、4名の学生による、それぞれの〈学び〉の成果を、会場を訪れた、数多くの受験生や父母の前で、披露してもらいました。
 当日の実施内容は、大きく二つに分かれ、最初に「本日の記念イベントの趣旨」として、「日本文化学科」が開設されるまでの、神奈川大学の歴史が、簡単に紹介されました。
 つづいて「日本文化学科」の学科カリキュラムの中から、特色ある科目をいくつか取り上げ、その科目内容に触発されてなされた学生たちの実践活動が、以下のように紹介されました。          (文責:深澤徹)


3人の学生による報告

1.「日本芸能論(担当教員:深澤徹)」

 本講義では近代以前の日本の芸能、なかでも「能」の歴史をあつかっています。その際に古代ギリシャ劇との比較を行いますが、そこから見えてくるのは、演劇の〈始原〉に「集団輪舞」のあったことです。

 総勢60名からなるコーラス団(合唱隊)が、音楽を奏でつつ、歌い、踊りながらオーケストラ(円形舞踏場)へと入場してくる。そのコーラス団の中から「音頭取り」がひとり抜けだし、一段高い壇の上に登り、掛け合いで歌やセリフのやり取りをする。その「音頭取り」が二人に増え、三人となり、互いにセリフのやり取りをしはじめたとき、そこから「悲劇」や「喜劇」の演目が発生してくるのです。

 「能」の舞台でも「地謡(じうたい)」が8名、また囃子方(はやしかた)として、笛、小鼓、大鼓、太鼓が4名います。これらの人々に取り巻かれ、能の演目は演じられる。地理的にも歴史的にもまったく無関係な、古代ギリシャ劇と「能楽」との間で、こうした共通点が見てとれるとすれば、そこから演劇の〈原点〉というか、その〈始原〉ともいうべき要素が抽出できるはずです。

 とはいえ、〈始原〉とか〈原点〉は、歴史の中でただ一回だけ現われて終わりなのではありません。「時(とき)」と「場所(ところ)」を違え、何度でもくり返し現われてくる。今回紹介する「よさこいパフォーマンス」も、そうした具体的な現れのひとつなのです。


高知発の集団輪舞「よさこいパフォーマンス」で地域を活性化する!

 7月16日に行われた日本文化学科の完成記念イベントに参加し、小学校四年生から今も続けている『よさこい』についての研究発表と実演を行いました。

まず、私が当日お話したことについてざっと振り返ってみます。
 ①自己紹介
 ②よさこいの簡単な概要と歴史
 ③伝統を重んじるよさこいの特徴
  ・地域との関り(localism)
  ・舞台構成(ページェント型)
  ・観客と呼応しあう(音頭取り)
 ④まとめ『型の創造』

 これらについて、お話しさせていただきました。私は、本当に幼い時から「よさこい」という伝統文化に魅せられ、夢中になり、一生懸命に活動を行ってきましたが、大学に入学してからは、「よさこい」を何一つ理解していなかったと感じるようになりました。

 特に今回一緒に登壇させていただいた、深澤徹先生の担当講義のひとつである「日本芸能論」では新たな気づきが多かったです。例えば、「舞台構成」では、日本の古典芸能である能とその舞台の作りの関係性を分析し、ギリシャ古典劇(日本国外の芸能)と比較し、理解を深めました。そこで初めて、疑問が生まれるのです。『よさこいはどうなのか』と。結論を申し上げますと、伝統的な「よさこい」の舞台構成は、「ページェント型」に分類されるわけですが、それも舞台の形という話だけでなく、観客との関係性も重要になってくるというように、どんどん学びが広がっていきます。

 自分の経験が、大学の学びに深みをもたらすことを実感し、本当に充実したキャンパスライフを送っていると思います。

 私は、実体験として地元のよさこい祭りの廃止を経験し、一つの伝統が途切れる瞬間を目撃しました。そこから、「よさこい」をはじめ、地方に残る小さな祭りや催しを伝統として後世に残していくためにはどうすればいいのか考えたいと思い、神奈川大学に入学しました。今回のイベントに登壇し、こうして私の文章を残すことができることもまた、よさこいを継承していくためのひとつの手段であると思います。

 日本文化学科の講義において、自身が持つ疑問に対して、全ての正解を教えてくれる講義は数少ないと思います。多くの本や人と出会い、大学の外に足をのばし、学生間でたくさん話し合うことで正解が見つかることが多くあると感じるようになりました。また、先生方との距離が近いのもこの学科の魅力であると思います。        (日本文化学科2年、中山彩香)


 7月16日に行われたオープンキャンパス内のイベントの1つとして、よさこいと私の行っている活動について発表しました。

 現在のよさこいは、伝統に重きを置いた高知の流れを引くチームと、進化・発展した札幌の流れを引くチームの大きく2つに分けられます。私は「K-one動流夢」で後者の進化・発展したよさこいを踊っています。横浜を拠点に全国各地だけでなく、海外でもよさこいを踊ってきました。時にはBayStarsの応援や、歌手の中村あゆみさんの踊り子として共演させていただいた経験があります。

 札幌の流れを引くよさこいの魅力は伝統的な「みんなで楽しめる」ことと、人のパワーが渦巻く圧巻のパフォーマンスで魅了されることの両方を兼ね備えていることです。言葉でよさこいの力強さは伝えきれないので、是非1度、横浜よさこい祭りなどのよさこいの祭りにいらしてください。

 よさこいの経験と大学の講義を紐づけて分析することで、経験するだけでは気づくことの出来なかった発見があります。その発見の一部をオープンキャンパスで紹介しました。よさこいに限らず、自身の経験を学校の学習と紐づけて考えることの楽しさを伝えられたら幸いです。                     (日本文化学科3年、高橋彩矢加)


2.「伝統文化論(担当教員:藤澤茜)」

 「伝統文化論」では、江戸時代から明治時代にかけての文化を取り上げます。江戸時代は庶民文化が発展し、小説、歌舞伎、人形浄瑠璃(文楽)、浮世絵などが分野を超えて深く影響しあい、まさに「メディアミックス」ともいえる現象が起きていました。そうした豊かな文化の在り方を通じて、現代にも通じる日本文化の特質を明らかにしていくのが、この授業の特色です。


伝統文化にインスパイアされたファッションを発信する!

 今回のイベントでは、私が日本文化学科の専攻科目である「伝統文化論」で得た学びを活かしたサークルでの活動を報告させて頂きました。

 私の所属しているKeio Fashion Creatorは所属する大学に関わらず様々な学生で構成されるインカレサークルです。私たちは社会に対する問いかけや主張を「服」を通じて表現することを目標にファッションショーや展示などを開催しています。私は昨年末に開催されたショー『羽化』にデザイナーとして作品を出展しました。このショーでは「言葉にしづらいタブーに対する主張を服で表現すること」がテーマになっています。このテーマを受けて、私は「女性に対する(あるいは女性自身が抱いている)結婚観のアップデート」を表現する作品を作りました。

 まず、「女性の人生の幸福は結婚にある」というステレオタイプを表現するようなデザインを用意しそれを変形させることで概念を破壊するというアプローチでデザインを考えました。その際、ステレオタイプの表現として思いついたのは歌舞伎の演目である「鷺娘」です。『鷺娘』は鷺の妖精が白無垢の女性の姿で恋の喜びや悩みを舞い最終的に恋の妄執から逃れられず地獄に落ちるというストーリーになっています。この演目は結婚相手などアクションを向ける先はなく終始 1 人の演舞になりますが、冒頭から白無垢という結婚を連想させるビジュアルで登場します。そこから、鷺娘における白無垢の姿は恋愛と結婚を直結させていると捉え、かつ、その結末から不幸なイメージも併せ持っていると捉えました。この演目は歌舞伎を題材にした浮世絵(通称「役者絵」)としても描かれており、私は「新形三十六怪撰 鷺娘」(月岡芳年・画)から鷺娘の白無垢のビジュアルに辿り着きました。この絵に描かれている古典的なビジュアルを基に、打掛け(白無垢の一番上に羽織る着物)を前が大きく開いたシルエットにし中にジャンプスーツを着ることで現代的な新しい概念を表現するビジュアルへと作り替えました。

 このデザインは日本文化論の専攻科目である「伝統文化論」の影響を強く受けています。古典文化についてこの科目で学び浮世絵や歌舞伎に関する知識が増えたことで、古典作品からのアプローチを思いつくことができました。

 また、日本の古典作品には他にも恋愛や結婚をテーマにしたものが存在しますが、 その中でなぜ鷺娘を選んだのかについても伝統文化論で得た知識が役に立ちました。多くの古典恋愛作品は恨みなど相手への負の感情が強いものが多い傾向にあります。例えば、日本神話のイザナギとイザナミの話や「東海道四谷怪談」、「京鹿子娘道成寺」などです。 しかし、今回のテーマでは純粋に女性の恋愛と結婚の関連を表現したかったので、相手の存在や相手への具体的な感情に言及しない鷺娘が最適だと思いました。 ほかの類似作品との比較ができたという点でも「伝統文化論」での学びが活かされたと考えます。               (日本文化学科3年、井上朋美)


3.「ポップカルチャー論(担当教員:水川敬章)」

 日本文化学科の授業の中でも、現代の日本文化を扱うのが「ポップカルチャー論」と「現代文化論」です。アニメや映画などの映像文化、ポピュラー音楽など、身近にある文化現象を、「日本研究」という学問的視座から考えています。
 また、これまでの授業では、アニメクリエイター、TV局の元プロデューサー、音楽評論家の方をお招きし、貴重なお話をうかがう機会を作ってきました。
 以下に続く中家未優さんの実践報告には、「ポップカルチャー論B」でゲストにお招きした音楽評論家 小川真一さんのご講演に触発され、横浜に根付くジャズ文化の継承に深く関わってゆく経緯がまとめられています。
 中家さんの活動の一部は、別の記事(日本文化学科のnote)でも読むことができます。この報告は、その続編とも言えるもので、その後の中家さんの活動が、横浜の地域と文化つなぐようにダイナミックに展開する様子が語られています。


地域の文化活動とコラボして、コミュニティの活性化に寄与する!

 日本文化学科での学びを通して、街に開かれた「学び」を実践した一部を紹介します。

 現在、私は横浜市内の地域活動に積極的に関わっていますが、その地域活動の入り口が、大学の授業で学んだ内容の中にありました。

 2021年後期に受講した講義「ポップカルチャー論B」で、ゲスト講師として登壇された、音楽評論家小川真一さんのお話から、「現存する日本最古のジャズ喫茶」と呼ばれている「ジャズ喫茶ちぐさ」の存在を知り、学生記者として取材に行ったことをきっかけにして、その後、運営スタッフとして少しずつ運営に関わるようになってゆきました。このことは、すでにnoteでお伝えしたところです。この記事はその続編です。

 ジャズ喫茶ちぐさは、横浜の野毛と呼ばれるエリアにあります。1933年に建てられてから途中で何度か一時閉店があったり、運営体制が変わったりしましたが、今年で創業90周年を迎えるという現存する日本最古のジャズ喫茶です。この場所に足繁く通って、勉強した人たち、穐吉敏子、渡辺貞夫、日野皓正などが日本を代表するジャズミュージシャンとして活躍しており、日本固有のジャズ喫茶という文化資産として語られつづけている場所です。

 2013年からは、このお店のオーナーの遺志を引き継ぎ、若手ミュージシャンを発掘するためのコンテストなども行っています。受賞者のアナログレコードとCDの制作を行うことで、ミュージシャンを応援するという事業ですが、制作するときは、アナログレコードのジャケットのイメージを受賞者の方と一緒に考えるところから始めます。写真は一昨年のものですが、昨年は、私もアナログレコードの制作と内部審査に関わりました。

 ちぐさは、現在、新しく「ジャズミュージアムCHIGUSA」として建て替えている最中ですが、このミュージアムの館長が、元カップヌードルミュージアムの館長の筒井之隆さんです。筒井さんは、お兄様の筒井康隆さんと同じく文筆家としての顔をお持ちで、Jazzについて数多くの評論を執筆されています。本コンテストのアナログレコード制作の際に書かれるライナーノーツは、筒井さんが担当されています。私は、筒井さんと一緒にちぐさの運営に携わっているだけでなく、筒井さんから直接に数多くのことを教えていただいています。コンテストの開催やアナログレコードの制作に関わる方々との交流も、私にとっては貴重な学びになっています。

 これまで様々な文化・芸術活動を通じて、社会に「つながり」をもたらすためにはどうしたら良いのかということを考えたいと思ってきました。私が横浜のジャズイベントで演奏した経験があったことなどから、特に、音楽について、鑑賞するだけではない、音楽文化としての可能性を考えたいという関心がありました。授業での学びを通して、これらの関心を捉え直すことで、私の日頃の行動のプロセスを見直すきっかけになりました。「目標」をあらかじめ設定して、それを「達成」するために行動するという流れから、行動のきっかけを自分に関わる文化(過去とのつながり)の中から探るようになりました。そこから、自分の未来が見えてくると考えるようになりました。自己の内側から、大学の授業を通して、身近な文化や社会を知ることが出来るのがこの学科の学問の魅力だとも感じています。

 これらの経験から、野毛地域に限らない横浜の文化活動に触れるため、あらゆる地域活動に赴きました。企画・運営に関わるものもありましたが、参加者側として関わったものもあり、昨年開催された「横浜音祭り2022」では、中国・韓国・日本の学生が集まって一から曲を作るという異文化交流ワークショップに参加しました。コロナの関係で、オンラインでの交流でしたが、歌詞も作成するということもあり、それぞれの国の文化が歌詞に表れるというのがこのワークショップ特有の面白い部分です。

 そして、今年の5月から、山下ふ頭再開発の市民有志による意見交換会に参加しています。山下ふ頭というエリアに、保育士の方、労働者、学生などの様々な立場の人たちが集まり、話し合いを重ねながら、市民の目線で「横浜らしい場所」にすることの提案をしています。

 今、大学では社会教育士という資格を取得しています。この資格は、卒業と同時に、人づくり・地域づくりの専門家として社会教育士という称号を得ることが出来る資格なので、大学生活での経験や学びを土台にして「文化活動と社会、コミュニティのあり方」を今後も考え続けていきたいと考えています。

 大学は、あらゆる「はじまり」をもたらしてくれる場所です。

 講義「ポップカルチャー論B」をきっかけにして、私は大学と常に関わりながら社会との接点を広げていきました。この授業に限らず、あらゆる授業を通して得た知識を企画・提案のエッセンスとして取り込んだり、色々な問題に向き合う時に助けられたりすることも、たくさんあります。情報をどのように受け取り、いかに活かすのかによって、自分の可能性はいくらでも広がります。              (日本文化学科4年、中家未優)

          


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