記録(1/5 - 1/10)

「うまく言葉を結べないタイミング」がときどき訪れる。
「言葉にしておかなければ、考えていたはずのことを忘れてしまいそうで、しかし、無理に言葉にしようとして自分の思いとは異なるものが表出してしまうことは避けたく、それが旋回してうまく言葉を結べないタイミング」のことである。

そういうときによく、小さいころに没頭したゲームのことを思い出す。矢印キーでプレイヤーキャラクターを進ませるとき、壁に行き当たるとそれ以上進行方向へ行けないはずなのに、キャラクターが足踏みを続けるのがとても不思議だった(足を動かさずに静止すればいいのにと思っていた)。
その足踏みを、自分がしているような気分になるのだ。

そうなる原因はわからないが、どうあれ状態を記録してみようと思う。

土地

1月5日にアメリカ・ニュージャージー州に来た。
この土地自体に目的があったわけではなく、居住地を変えることに意味があった。
どうもひとつの場所にずっと住むというのが性に合わないようで、反対に、新しい土地、とりわけ新しい国に行くことは私自身を掻き立てた。

現地の人との印象的なやりとりが2度ほどあったので、書き留めておく。

①タクシー運転手と
空港からホテルに向かう6kmの道のりをタクシーに委ねた。
運賃は配車時点で事前に決まっていたので、走り出したタクシーのメーターにびくびくすることがなくてよかった(正確には、車内にメーターらしきものは見当たらなかった)。
運転手の男性は終始フランス語と思われる言葉で電話口の女性と楽しそうに話をしていて、その放って置かれている感じに、「ああ、別の国に来たのだな」と思った。

一方通行ばかりの入り組んだ道を縫ってホテルの前に到着し、運賃とチップを求められたときのやりとり。

(運=運転手)
運: 「22.25ドルとチップね」
私: (相場より高めに30ドル渡す)「Thank you. The change is for you.」
運: (とてもそっけない感じで)「Ok.」 
私: (チップが少なかったかと不安になる)「Is that enough for you? 」
運: 「Well, チップにenoughということはないんだよ、君がチップをくれて、僕は嬉しい。君がもっとくれれば、僕はもっと嬉しい。それだけ」

それまで、チップには相場があると思っていたのだが(その考えは今も変わっていないが)、彼とのやりとりによって、「上限はないのかもしれない(=良いサービスには、相場に関係なくたっぷりのチップでお礼するものなのかもしれない)」と思わされて、新鮮だった。

そういうサービスを受けることが、今後あるだろうか。

②スーパーの店員さんと
近くのスーパーで朝ごはん用の買い物をしたときのこと。
ヨーグルトを求めて陳列棚を見ていると、「32 fl oz」と書かれた巨大な容器が5種類ほど並んでいた。調べると「約0.95リットル」とのことで、まあ怖がるほどの大きさではないなと胸をなでおろしたが、口に合わなかった場合にその塊を棄てることになるのは避けたかった。しかし、どれも緑に青に白の似通ったパッケージで、決め手に欠ける。
そのうちの1種類に「Low Fat [低脂肪]」という表記を見つけ、万が一美味しくなくても、青汁を飲むような気持ちで、と心に誓って購入を決めた。

レジ付近でどの列に並ぼうかと迷っていたとき、目配せで誘導してくれた明るい店員さんとのやりとり。

(店=店員さん)
私: 「Hi. 」(商品とエコバッグを差し出す)
店: 「Oh, this is my favorite yogurt! [これ私の推しヨーグルトなんよ]」
私: 「Good to hear. It's first time for me [ほんと? わたしこれ初めてで]」
店: 「Yeah really good one. [めっちゃウマいよ]」
私: 「Cool. Thanks [いいね。ありがとう]」
店: 「Enjoy it! [楽しんで]」

なんだかこのやりとりでたいへん心がすくわれた。
勝手に会話が始まり、コミュニケーションが取れたのが嬉しかった。
それまでは、「25セントでビニール袋いる?」みたいな必要最低限の問いかけで、まあそれは構わないのだけれど、感情の起伏のないやりとりだった。
しかし、このときは、いきなり話しかけられた短時間にその人のスキに触れられたのがよかった。
そして、彼女の推しヨーグルトはとても美味しかった。

自分のスペースをオープンにしていたいし、私に対してオープンにしてくれる人がいるならリーチしたいと思う。

生活

新しい環境で過ごしてみて、自分の生活に大事なものごとが見えてきたような気がするので、メモ程度に。

①食べ物を無駄にしたくない
先程のスーパーのくだりで、ヨーグルトを1つ選ぶのに5分程悩み続けた自分を思い返して、たった400円の買い物にする逡巡ではなかろうと可笑しくなった。しかし、食べ物を無駄にしたくないという気持ちが根底にあるのだと気づいた。
年々食べられるものが増えてきているので、「無駄にしない」ことを軸に、こちらにいる間にいろいろ挑戦してみたい。

余談だが、こちらの食品は賞味期限が長い。ヨーグルトは1か月、2リットルの牛乳は2か月もある。多湿の日本とは保存可能条件が全然違うのだろうと想像された。

②自然にふれる
気分がくさくさしたとき、自然にふれるといいことがわかった(*仕事やプライベートで心が晴れないときの様子を「気分がくさくさする」と表現している)。
抽象的な話になるが、くさくさしていとき、悩みや不満や不安などの中心に自分が置かれていることが多い。しかし、自分だけでは解決できないこともしばしばあるので(解決手段が他者または未来にあるなどのため)、自分ばかりが責任や負い目を感じる必要はなかったりする。それなのに感情をコントロールできないという時に、自然にふれるのが効果てきめんであった、ということを書きたい。

着替えて、靴を履き、エレベーターに乗って、外へ出る。目的地を決めずに歩き始めると、雲がゆっくりと動いているのが分かり、鴨が着水する音を聞き、野良猫と目を合わせ、川面がなびく様子に足を止める。
そのように過ごしているうち、悩みや不満や不安が自分を取り巻いているのではなく、自分は単に大きな自然の小さな一部であったと思い出す。
そうして靄が薄まっていく。

今週のしいたけ

いつからだったか、もう何年も、しいたけ占いを読んでいる。
今もこれまでも、占いの類を自分に供給するときは「共感できるところのみを信じ、それ以外は忘れる」という大ざっぱさだったが、しいたけ占いはその共感できるところが多い。

しかし、さっと読んで終わることが多かったので、この場ですこし考える時間を持ってみようと思う。今週の要点は以下。

今は「課題を明確にしていくチャンス」に恵まれています。なので、もしできたら、「今、何が難しいと感じている?」と自問自答なんかもしてみて。

(VOGUE GIRL|1/10〜1/16のしいたけ占い)

Q. 「今、何が難しいと感じている?」
A. 「食欲を我慢すること」

状況:
(以前は1日2食だったが)1日3食。1回の食事の時間がこころなしか長い。間食もする。

背景:
自炊が増え、常に「次のごはん何にしよう」が頭の中にあるので、空腹時も満腹時も食事のことばかり考えている。
しかし、同じ問いをキープして脳のキャパシティを占有するのが我慢ならない性格のため、以下のようなループが起こる。

①問い「次のごはん何にしよう」→②感情(早く答えを出したい)
③回答「〇〇にしよう」→④感情(答え出た!早く作ってしまいたい)
⑤行動「作ろう」→⑥感情(作った!早く食べてしまいたい)
⑦行動「食べよう」→⑧感情(あ、次のごはん決めなきゃ…→①へ)

よって、常に食べている。

食べる量は同じでも、食べる時間帯をコントロールしたいと思っている。
ひとまずここでは、課題が顕在化してよかった。

また、気が向いたら書いてみたい。

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今週始めたこと

空のグラデーションを採集する

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本文は以上です。
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#創作大賞2022 に関して

本記事を1作目とし、1〜4作目までの連作として投稿いたします。

1.『記録(1/5 - 1/10)
2.『記録(1/11 - 1/15)
3.『記録(1/16 - 1/21)
4.『記録(1/22 - 1/31)


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