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タイと台湾:二カ国に留学した大学5年生の話

「大学生活のうち、2回留学に行くことって可能なんだろうか」

こんな突拍子もないことを考える人は、そもそも多くはないと思う。
しかし、なぜだか私はこれを考え、実行に移してしまった。
私は、大学3年生でタイに一年間留学をし、大学4年生の冬から半年間台湾に留学した。
こういう経験をする人もなかなかいないかもしれないと思い、今回改めて記事にすることにした。

2回留学をするに至った背景や、実際二つの留学に違いはあったかなどについて記述する。


なぜ2回も留学を?


そもそもなぜこういうことをしたか、である。
私自身、当初は2回も留学をしようと思っていたわけではないし、狙っていたわけでもない。割と成り行きで決めたと言ってもいい。

そもそもの始まりは、大学3年生の頃、コロナ渦で留学に制限がかかった頃にまで遡る。

私は、アジア地域への関心から、台湾留学を最初に考えていた。
ところが、台湾はかなり厳しい入境制限が課せられており、出願をする時点では、行けるか行けないか実際かなり怪しかった(現に、台湾に出願した学生は、留学自体は出来たものの、予定より2ヶ月ほど遅れての入境+一週間のホテル隔離付きであった)。
この時、私はリスクも考慮して、タイに出願先を変更した。
実際、タイに行ったことは成功であったし、一年間タイに過ごせて本当によかった。しかし、タイでの留学も終わりに差し掛かってきたあたりで、私は、もう「留学生活」というものが終わりを迎えることをどうしようもなく悲しくなっていた。

せっかくこんなに世界は広いと知ったのに、帰ったら就職活動をしなければならないのか?それってなんだか勿体無いし、広い世界から急に狭く暗い日本社会に閉じ込められるようで嫌だ、と拒否反応を起こしてしまった。

そこで私は閃いてしまったのだ。

「待てよ、これもう一回交換留学で台湾に行くとか出来ないだろうか?」と。

そう思いついてからは早かった。
タイでの留学を経てフットワークが軽くなり、不可能なことなんてない、と信じられないくらいオープンマインドになっていた私は、すぐさま親と、留学オフィスに確認をとり、出願準備を始めた。

学校の協定で行く留学なので、もしかしたら一人一回までとか決まっているかもしれないと思ったが、確認したところそんなルールはないようであった。IELTSも、期限は切れていたがタイで受け直してしまえば、出願書類も簡単に揃った。

そもそも、私は人と違うことをするのが大好きだし私のモットーのようなものでもあるので、2回留学という「前人未到の試み(!)」をするというのは私の美学にも叶った決定であった。

就職活動のことだけは気がかりであったので、私の大学で開催された合同企業説明会に参加していた企業(名前は忘れたが、そこそこの大手メーカーだった気がする)の人事さんに、「あのう、2回留学したことで例えば2年留年したら、就活マイナスになりますか?」と質問してみた。そうしたら、意外にも「ああ、いいじゃないですか。2年くらい大丈夫ですよ。むしろそういうチャレンジをしたいと思う人を僕たちも採用したいと思いますからね」とあっさりアドバイスされた。このことも2回留学を決意した決め手の一つだった。
まあ考ええてみれば、「1浪人・1休学」とか、「1留年・1休学」とかする学生は世の中にいくらでもいるわけで、それが「2留年」になったところで大したマイナスにはならないのかもしれない。むしろ、留学という一応正当な理由で留年しているのなら計画留年というわけであるし、おそらく大丈夫なのだろう(と思いたい)。

こうして、特に大きな障害もなく、あれよあれよという間に二度目の留学が決まってしまった。

タイと台湾の違い


この二つの留学は、大きく質が異なっており、多くのギャップを感じた。
これだけで一つの記事ができてしまうそうなので、詳しいことは別記事で話したいが、まず、雰囲気も授業も全く異なっていた。
まず、タイのタマサート大学は、日本で言うところのおそらく早慶みたいな印象で、お金持ちの家の子どもが多く通い、自由で割と余裕いっぱい、オープンなキャンパスだった。みんな、大学には授業をもちろん受けにはくるのだが、友達に会いにくる、適当に図書館で勉強しにくる、みたいな軽いノリで、都心部と近いこともあって学校と外との境界があまりない印象だった。
実際、大学は地域にも開かれていて、明らかに外部のおじいちゃんや子どもたちがよく食堂で屯していた。

授業は、所属した学部の展開する科目の中から選択し、基本全て英語開講である。
対人関係については、とにかく人と人との関係がフラットに見えた。
もちろんずっと仲良しグループというのはタイにもあるし、むしろ仲良しグループの絆は結構強固である。
とはいえ、留学生である私のことをどのグループもオープンに歓迎してくれ、「わたしたちのグループとカラオケ行きましょうよ〜」とか、「エマ〜こっちきて一緒に授業受けようよ!」とか、割とグループにゲストを受け入れる姿勢が強かった。
実際のところあまり付き合いがなかったとしても、「私たち仲良いよね?」というノリさえ作っておけば比較的遊びにも行きやすかった。

一方、台湾で私が留学していた国立政治大学は、多くの日本の国立大学と雰囲気がかなり近い。
大学は、文字通り「授業を受けにくる場所」であり、タマサートにはあまり部活動がなかったのとは対照的に、部活やサークル活動が活発で、どの学生も何かしらのクラブに所属している。交換留学生でも、お茶クラブとかサッカー部とかに所属している。

だから、交友関係も、同じ部活などを基準に広がることが多いように見える。タマサートでは、授業の遠足で話しかけられて仲良くなるとか、食堂で友達とご飯を食べている時にその友達の友達が声をかけてきて3人で食べるうちに仲良くなる、とか、不確定要素が絡んで交友関係が広がっていたが、台湾の政治大学は学生活動が中心に堅実に交友関係が広がっていくのだと思う。
あとは、留学生なら同じ学生寮に住んでいる場合に特に仲良くなりやすい。

どちらかと言えば台湾の方が日本の大学のイメージに近いと思う。
それぞれに良さがあるし、授業や友達作りに関しては、2-3ヶ月くらいしてようやくわかってきた。

タイ留学を終えた時には、当然私はタイのことしか知らなかったわけだが、台湾を経験して、「ああ、留学って一言で言ってもどこに行くかによって全然雰囲気って違うんだな」と「留学」という言葉の広さを実感した。

2回留学を経験してよかったところ


まず、やはり海外留学の勝手がわかっているので、あまりあたふたせずに落ち着いて手続きができるのはいいところだと思う。
どのくらいのタイミングでビザを取ればいい、どういう場所には近づかない方がいい、生活にはいつ頃から慣れ始める、こういったことが肌感覚でわかるのは、スムーズでいいと思う。

また、当然タイと台湾、タイ語と中国語の二言語を学習できるし、若いうちにさまざまな国の文化を体験できるのも貴重だ。大学の数年間で学習できる言語には当然限りがあるが、留学すれば、その国の言語は学ばざるを得ない。その時間ができて、生きた言語を習得できるのはとても良いと感じた。

また、タイを一回経験すると、タイのことにかなり詳しくなる。
そういった経験は、台湾に留学しているタイ人とあった時に真価を発揮する。台湾の国立政治大学には、かなりのタイ人が留学に来ており、タイ人と話す機会は意外にも多い。そんなとき、相手にとっては、異国の地で、異国から来た留学生が自分の国のことをよく知り、自分の国の言語を話してくれるわけであるから、それだけで会話のネタになる。

最初の留学が一番活きているなと感じるのはやはりそういうタイミングであるなと思う。

では、次は私から見て、2回交換留学をするのはおすすめなのか、についてお話しする。

正直、2回留学っておすすめ?


結論、正直そこまでおすすめはしない。

「ここまで書いといて何だよ」と思われるかもしれないが、誤解しないでほしいのは、私が言っているのは「大学時代に2回交換留学をするのはおすすめしない」ということである。理由は大きく分けて二つある。

1. 大学時代に2回留学するくらいなら、もっと他に良い選択肢があるから。

正直、これが一番大きな理由である。
大学時代に2回留学するというのは、もちろんかけがえのない経験にはなる。しかし、それならいっそのこと学士で1回、大学院で1回留学とか、いっそ海外大学院に進学するという道もある。
同じ大学に2年も余分に学費を払って、「学士」しか学位をもらえないなら、大学院に進んで、海外で過ごしつつ「修士」の学位をもらう方がいいのではないかと思う。
結果として2回留学したことにはどちらも変わりはない。
私からみれば、どうせなら大学院に進んだ方がいいんじゃないかと思う。
当時の私は「大学院」に行くことにあまり興味がなかったし、自分が学問を続けるビジョンも思い浮かばなかったのだが、意外と海外大学院を選択する学生というのは一定数いる。
こればっかりはその時の自分の心情や、ご縁もあるので仕方なかったかとは思う。
ただ、今当時の私に何か助言ができるのだとしたら、この辺りの情報ももう少し調べるように、とはいうと思う。

2. 前の留学経験が楽しいほど、それと後の留学を比べてしまう。

これに関しては個人差もあると思うが、割とこれも大きな理由である。
私の場合、如何せん最初のタイ留学が楽しすぎた。

自分の生きてきた世界がまるでちっぽけに感じるほどの大きな出会い、全く違う文化、初めての留学ならではのワクワク、刺激。
タイで得たものはあまりにも大きかった。

タイと他の国を比較しないでおこう、と心に決めてはいたが、それでもついつい台湾留学中に、タイと台湾を比べて、タイに戻りたいと思うことがあった。

「タイならあんなにたくさんの友達ができていたのに」
「タイの学食はあんなに安くて美味しかったのに」
「タイならバイクタクシーでどこにでも行けたのに」
「タイならスタッフさんとの距離ももっと近くて楽しかったのに」・・・

台湾が初めての留学である子たちは、自分なりに情報を集めて前向きに、刺激にあふれた生活を送れるかもしれない。しかし私は「私の前の留学はよかった」みたいに、まるでおじさまたちが「僕たちの時代はよかった」というみたいなひねくれた心情で最初の二ヶ月くらいは過ごしてしまった。
私は、端的に言えば、タイと同じような経験を台湾に求めすぎてしまった。
台湾は台湾の良さがある、と考えを改めるのに時間がかかってしまったのである。

留学だから、当然うまくいかないことはある。
そんな時に、初めての留学なら、何とかしようと思えるのだが、前に留学を経験してしまうと「前はよかったのに」と後ろ向きな気分になってしまいかねない。ましてや、同じ「大学学部」への留学なのだから、余計に比較してしまう。2回目の留学をするならば、私のような考えになってしまう可能性を見越して、「前の留学を引き摺らないように!」ということを強く意識しておいた方が良いかもしれない。

最後に

いろいろなことをお話ししたが、総じて私が言いたいのは、迷っているならやってみよう、何事も経験である、というところである。

実際、私も台湾留学に来たからこそ、知れたことも多いし、台湾に来なければ出会えなかった人々がたくさんいる。
2回の交換留学をお奨めしないとはいったものの、それも、私が2回交換留学をやってみたからこそわかったことだ。
やってみなければきっと絶対にわからなかった。

人生において一番大切なものは、「出会う人」だと思う。
人との出会いはお金では代えられないし、できるだけ多くの人と話し、出会うことで人生は開けると思う。
留学に行けば、ほぼ間違いなく、そこでしか出会えない人たちに出会えるので、お金や時間を払ってでもやってみる価値は絶対にある。

ただ、その時に、盲目的に「留学に行けば何かが変わる!」と思わず、自分が留学に何を期待しているのか、自分の希望を叶えるのに、交換留学が最適なのか、他に方法はないのか、視野を大きく広げ、選択肢を多く持ってほしい。

2回の交換留学を経て、やはりどこに行っても、その留学を素敵なものにできるのかどうかは、自分自身が何をするかによっても変わると思った。

その国を理解しようという謙虚な姿勢と、その土地に適応しようと試みること、これは間違いなく、どこに何回留学に行っても、大事だと考える。



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