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Education breeds confidence. Confidence breeds hope. Hope breeds peace-2

夫アルゴの教師生活の話の続き。その1はこちら。

多くのアメリカの教師たちは、自腹でクラスのセッティングをする。これは夫アルゴが実際に教師になって知ったことだが、最低限のもの、例えば机とか椅子とか、コンピューターだとかは学区から支給されるが、備品。例えば、ノート、筆記用具、ポスターや本、ファイルもろもろは、自腹。200ドルまでは学校や学区から支援金がでるものの、最近は、SNSを使い、寄付を募る先生方も多くいる。あと税金の控除で250ドルまでは還ってくる。

こちらのYoutubeビデオをご覧いただきたい。とにかく手間暇・お金(しかも自腹)かかるのである。


夫アルゴの場合。私の職場が引っ越しする際に大量に廃棄するオフィスの備品を元ボスの厚意で大量にもらっていた。「使ってないもの、新品のものばかりだし、捨てるしかないなら持ってって」てなものである。紙とかフォルダーとかもろもろ。パンデミックにより、これまで紙の書類が大幅に削減され、ほぼ電子処理になったためたくさんの備品が不要になったのだ。そこに、前の学校の同僚たちが使っていたものや、件の近所に住むおば(買い物中毒)からもわんさか物資を頂いたもので、教室設定のための出費は約200ドル程度で済んだ。よかった。(ただし、後から買い足したゲームだのもろもろは除く。ひどい!)

私により整理整頓されたアルゴ備品ロッカー

私自身、日本の中学、高校の教員免許を持っていたし(多分もう失効)こちらでは短大、大学の教室で教鞭をとったこともあるが、No Thank youである。人に教えることに向いていないし、この夫のようにクラスルームセッティングで大はしゃぎというような気持ちにもなれない。

そんなこんなでえらい張り切りボーイであった夫アルゴ。当初は、生徒12人(特別支援のクラスなので少数なのだ)問題児クラスの方の特別支援クラスであると通知された。が、実際に始まってみたら、5人。張り切りボーイは大層、がっかりしていた。

だがむしろ、学区内でも手のつけられない生徒たちが集められる教室なのである。少なければ少ないほうがいいのでは、と私は思ったが、夫アルゴいわく

「学校にね、来る子、行かせる親はまだいいんだよ。マシなんだ。問題なのは、そんな当たり前のことすらできない子供やさせない親。問題行動の多い生徒っていうのは、ほぼほぼ家庭環境が酷い。虐待されてたり、親が薬中だったりね。だから、名前が名簿にあるのに、学校に来ないことになった生徒たちが心配なんだよ。学校に来さえくれば、どんな子供でも俺は彼らに必要なことを教えてあげられるのに」

となんだかとても立派なことを言っていて、私は感動した。知らんうちにこの人はなんだかすごくセンセイっぽくなっているのだなぁ。

この人は付き合った当初から大層な暴れん坊で、10代の頃なんて手がつけられなかったらしいし、私が知る20代の彼なんて本当に最悪だった。暴れん坊将軍である。将軍どころか大将軍。ひどい。今でも思うけど、私は一体何を思ってこの男とずっと一緒にいるのかと真顔で考えるし、本人(夫アルゴ)からも、なぜ?とよく聞かれる。 ほんと、なんでだろ(真顔)

ともあれ。夫アルゴの受け持ちは、12〜13歳のクラス。これがまぁ、大変らしい。

How are you today? How was your weekend?(今日はどう?週末はどうだった?)と尋ねれば、I come in to make your week miserable にやりと笑って「おめぇの一週間を散々なものにするために学校に来た」と答えられたり、Fワードは日常。うざい、うるせぇ、あっちいけ、と言われ、デブだの、ダサいだの、聞いていて気の毒になるくらいに罵詈雑言を投げつけられている。さすが問題児クラス。これ、クラスを脱走したり、居眠りをしっぱなしだったりだとか、生徒同士で喧嘩をするだとか、そんな問題行動プラス、の言動。ひどい。

流石の夫アルゴも日によっては打ちのめされている。Suck my Dxxkなどと言われたら「舐めるちんこもないやろがい!ガキが!毛が生えてから言え!」と私なら激怒して、殴ってしまうところである(暴力・セクハラ・即クビ案件)。普段は短気で怒りっぽい夫アルゴであるが、大した忍耐であると感心するばかりである

はい、先生にあげる、と殊勝なことを言われ差し出された絵。アップルジュースの絵なのだが下にMr. Algo sucks「アルゴ先生最悪」と書かれている作品。ぶは。

いきなりクラスの床に寝転がり、眠り始める生徒(そして一日中寝ている)や他の生徒のランチに唾をかける生徒。学区内で一番、悪いクラスなのだという。ちなみに1日中寝ている生徒は、13歳なのに夫アルゴより背が高く、そして太っている。ゆーて、夫アルゴ、182センチ、体重120キロくらいやぞ(驚)学校に登校するだけで疲れるのだという。ひぃっ。

床だぞ!教室の床になんのためらいもなく横になって寝るってどんな環境で暮らしてたらそんなことできるわけ?しかもずっと寝てる。でかいから動かすこともできないし、登校すらしないことのほうが多いんだぞ、あいつ」としばらくの間、夫アルゴは怒り狂っていた。親に連絡をするもスルー。連絡がとれないんだそうだ。

最近の子供はぁ、なんていうとすごい年寄りみたいだけど。我々が幼い頃を違ってネットだの携帯だのあるからクラスルーム管理も大変なのだという。そんな中、ここでようやく説明できるよ!その1で、夫アルゴが持ち込んでいるゲームや楽器の話(遅っ)

夫アルゴは、Positive Behavioral Interventions and Supports (PBIS) という制度をとっている。平たくいえば、ご褒美制度である。良き行いをしたり、大人しく授業を受けたり、課題をこなしたりするとチケットをもらえ、そのチケットの枚数に応じてご褒美をもらえるというもの。

Positive Behavioral Interventions and Supports (PBIS) is an evidence-based three-tiered framework to improve and integrate all of the data, systems, and practices affecting student outcomes every day. PBIS creates schools where all students succeed. 

Positive Behavioral Interventions and Supports (PBIS) は、毎日の生徒の成果に影響を与えるすべてのデータ、システム、および実践を改善および統合するための、エビデンスに基づく 3 層のフレームワークです。 PBIS は、すべての生徒が成功する学校を作ります。

https://www.pbis.org

賛否両論は存在する。子供をエサでつるみたいでよくない!とか、そもそも真面目な生徒にはなんの特もない、とか、報酬がなければ何もやらない子供を作る、とか。逆に、引用文にある通り、日常生活が目に見えて向上するというメリットも存在する。

ご褒美設定のためのチャート。

これが、夫アルゴのクラスでは効果が出ているのだという。なんせ夫アルゴが担任になるまではロクに授業が行われることもなく、文字通りの野放し生徒たち。日本の学年でいえば、小学校5〜6年生なのだが生徒たちの読解力、ボキャブラリー、算数、数学のレベルは小2レベルに達していればマシな方なのだ。そもそも机に座って勉強する、ということをしてこなかった子どもたちなのである。

というわけで、その1に書いたゲームだの楽器だのはご褒美で、クラス全員(5人しかいないが、全員が揃うことが稀)が良き1週間を過ごせたら、ご褒美は金曜日午後のクラスはゲーム大会。音楽セッション大会。と、そのようなことをしているらしい。

そんなもん学校に持って行って怒られんのけ?と聞いてみたら、「いや、むしろ、俺が担任になって子どもたちがまともにクラスに来るようになり、きちんとカリキュラムを終わらせているし、成果を上げているので別に何も言われん」と夫アルゴはケロリとして言う。ほ〜ん。やりたい放題だな。

みんながみんなとは言わないが、夫アルゴのクラスの生徒さんというのは例えば薬中の親を持つ生徒、モーテル住まい(普通の家の家賃を払えない)、精神的なものや性的な虐待を受けている生徒、ネグレクトされている生徒、ドラッグディーラーやギャングしか周りにいない生徒。大人の注意が引きたくてわざと暴れたり、暴言を吐く。

先日は、「やい!アルゴ先生!いいか、俺のお父さんがジェイルから出てきたら、おまえなんかぶっとばされるんだぞ!俺のお父さんは有名ギャングなんだぞ」と言われたと笑っていた。

「いやまぁ、それでお前の親父はジェイルに逆戻りだけどな?ハハハ。てか、よく聞きな。有名ギャングだなんて別に誇ることでもないし、ジェイルに入れられるってことは,しでかしたってことだろ?ジェイルに行きたくなきゃちゃんと勉強しな」と答えたらしい。夫が正論を言っているという事実に驚く妻なのである。

話を聞いているとやるせない気持ちにならざるを得ない環境で暮らしている生徒が多い。親を呼び出したら、母親が「私ねぇ、ストリッパーなんだけど(誰も聞いてねぇよぉぉ)子供にそんな生活させたくないじゃん?」と言われ、ほほぅと思っていたら「でもまぁ、稼げるし、お金は大事だからねぇ。うちの子も年頃になったら……(おぃぃぃぃぃ)」というようなことを言って絶句したこともあるらしい。

「だから、学校ってそういう子らにとっては逃げ場だったり、唯一、子供らしくいられる場所なんだよ。プレステとかスイッチとか買えない、触ったことのない生徒だっている。ベースやキーボードに一生縁のない子もいる。本だって、チェスだってそう。ご飯を食べられない子もいれば、何日もシャワーを浴びてないようなおっそろしく不衛生な子だっている。巨大生徒なんてあからさまにネグレクトされてる子供じゃん。学校も、先生らもただ手に負えないっていうだけで、これまで授業してこなかったって言うけど。俺は教師なんだよ。ジェイルの看守じゃぁない。ベビーシッターでもない。俺は、教えることが仕事なの。だから、先生って仕事の役割を果たすためなら、それが即物的とか、モノでつるとか、そういうのはどうでもいい。あの子たちに勉強したい、学校にいきたいって動機を与えるのが俺の義務であり、責任なんだよ」と夫アルゴは言い、そして続けた。

「わかる?俺の同級、Special Educationにいた同世代、どうよ?薬中、ギャング、刑務所、殺されたり、殺したり。そんなんばっかよ。俺がそうならなかったのは単にラッキーだったから。そしてあんたに会ったからだけど、でもそんなもんなのよ。俺、同級生で大学、大学院でた人、知らないもん。

俺ね、初日に生徒たちにいったんだよね。うざいとか言われまくっても、ずっと彼らに関わるって。親に連絡し続けるって。1日だけ、忙しさにかまけて連絡できなかった日、俺の生徒は死んだわけじゃん。俺はこれからの人生で、あのときみたいな後悔は二度としたくないし、絶対に、例えばどんなに酷い生徒でも、絶対に死んでほしくないし、諦めたり、拗ねたりせずに生きてほしいんだよね」なんだそうだ。

ちなみに巨大生徒は、ここのところ、真面目に毎日学校に来て、床で寝ることはやめたそうだ。先週、「チケット50枚集めたらさ、ご褒美、ラザニアにしてくれない?」と持ちかけ、まんまと50枚達成したらしい。「次の50枚は Baked Ziti(マカロニにミートソースとチーズかけて焼いたもの)にして」とのこと。さすがデブなのだぜ。ちなみにチケット50枚はバスケットボール、ルービックキューブセットが普通の褒章。

「最近じゃ、毎日、学校に来て子ガモみたいにずっと俺の後をついてくるよ。巨体だけど、Sweetest Thingだよ」と夫アルゴは言っている。巨大生徒の話を聞くたびに私はサウスパークのカートマン(デブの性格の悪いキャラ)を思い出してしまう。る〜る〜る〜Mr.アルゴ、チャーチシューズ(教会に行くときの靴=ダサい)、る〜る〜る〜アルゴ、でぶでぶで〜ぶ(お前がwww言うなwww)る〜る〜る〜などと、夫アルゴが持っていったベースを弾くフリをしながら即興の歌を歌っている姿なぞは確かに可愛らしかった。歌の内容は酷いけど。

と、いうことでタイトル。

Education breeds confidence. Confidence breeds hope. Hope breeds peace  - 教育は自信を育む。 自信は希望を生む。 そして、希望は平和を生む

夫アルゴ。教師1年目、40歳。願わくはできるだけ多くの生徒たちに自信だとか、希望だとかを与え続けてほしいなぁなんてことを思う妻なのである。

もうゲームは買わないけどね(真顔)

End

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過去の夫アルゴのもろもろ。
*インターン中に受け持ち生徒が亡くなった話。*

*院、卒業のときの話*


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