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Having someone to love – is a family.【2】

【前回のあらすじ】夫アルゴの生誕40周年を祝うサプライズパーティをしようと近所に住む叔母が計画したものの、前日になっても全然、なんの用意もできていない彼女に代わり、準備をした私。いよいよ当日。叔母が呼んでしまった30人の人々が集まりパーティが始まる。前回のお話しコチラ☟☟

土曜日。パーティ当日。
起き抜けから夫アルゴは物思いに沈み、微妙な感じ。私なんぞは慣れ切っているものの、この男は躁鬱の診断を受けているし、本人、無自覚で感情のふり幅がおっそろしく激しいのである。

その1に書いた唐突に名乗り出た父親らしき人物、および、課題でどうしても見なければならない自分のクラス動画で亡くなった生徒さんの姿をみた、これがかなりの尾を引いているのであろう。どちらも重すぎであり、非常にセンシティブな事案であるので、私もなんとも言葉をかけづらい。

昨夜のうちから「この週末で休暇も最後だし、イースターのディナーをやっていないから、近所のおば宅で明日は4時からディナーだから行くよ」と言い含めていた。だが、そこに来客3名。

……ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

ここで、いくばくかの注釈をいれねばならない。夫アルゴはマジックザギャザリングというカードにうつつを抜かしている。これはカードゲームであるのだが、恐ろしくディープなオタク世界であり、プレミアカードは1枚5000ドル(50万円相当)とかレアカードを巡る殺人事件なぞが起こるほどに沼な趣味なのである。基本的には手持ちのカードを出し合って強さを競うものなのであるが、このWikiの頁をご覧いただければ、それがどれほどの沼なのかご理解いただけると思う。学校の仕事、院、課題に日々、追われる夫アルゴにとって、最近はカード仲間とカードプレイをすることは唯一のストレス発散方法なのである。

来客はそのカード仲間たちであり、普通であれば、これで夫アルゴの機嫌も直る!と喜ぶところだが、だが。まず、朝の9時である。小学生かよ!いや、小学生ですら土曜の朝9時に友達んチに集合!なんてやらないと思う。9時て。せめて10時じゃない?さらに、だ。カードをやり始めると、何時間も白熱するのである。9時開始、7時終了とかザラ。しかも、興が乗ったり、勢いが付き始めると、カードショップに行くこともある。そして行ったら夜中まで帰らない。

……ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

私は震えた。いつもであれば、私について回るアルゴがいないのをこれ幸いに家の事をしたり、自分の事をしたりするわけだが、これはまずい。なんせ、4時にはいかねばならぬのだ。いらっしゃい、とニコニコとオタクどもを招き入れ、夫アルゴに「いい、今日は3時半までよ!4時にはおばさんちだから」と念を押したものの、信用ならない。本人はハイハイと生返事で、すでにカードの体制に入っている。

更に、今回の親族大集合には思い入れというか。2月におじが突然死してから、最初の親族イベントだったため、私はどうしても成功して欲しかったのである。去年の12月、親族大集合のクリスマスがコロナのため中止になり、それを仕切っていた亡くなった叔父の娘(アルゴの従妹)はそのことを大層悔やんでいるのである。その上、叔父が突然死したタイミングで、その1に書いた叔父も同時期に心臓発作を起こし、死線をさまよっていた。そんなこんなの後の初イベである。そら成功して欲しい。

おじ・おばにとってそもそもSpecialな存在であるアルゴの40歳の誕生日。しかも親族で初、男性の院卒業、というのはものすごく大きな意味を持つのである。

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案の定、カードに熱中し、機嫌も上がり気味になってきた夫アルゴ。そのすきに私は、ちょっと買い物いってくるわと言って、近所のおば宅へ出向いた。近所のおば以外はみな、しっかりした普通の大人なので、安心していた。やってきたおば達4人のうち、2人は飾り付けなどを買いに出かけており、残された2人のおば達は、部屋のセッティングに勤しんでいた。彼女たちはこちらについてすぐにケーキや他のものの購入も済ませていた。よかった。

ここにきて、ようやく私は安堵し、本来の「とにかく当日に夫アルゴを会場に連れていくことだけ」のミッションに集中できる。ちなみに近所のおばは、フェイスブックに熱中していた。なんかしなさいよ(溜息)近所のおばは、5人姉妹の1番年下であり、10人きょうだいの下から2番目であるので、おっそろしいほどに「末っ子気質」というやつなのだがそれにしてもあんまりだ。

あ、ちなみに亡きママを入れて5人の姉妹、なのだが。大都会叔母の連れ合いは女性なので、現在でも5人姉妹なのである。こんな感じ☟
◆長女: 元ミリタリーおば(沖縄に住んでたこともある)
◆次女:この前、おじをなくしたおば(元モデル)
◆三女:亡きママ
◆四女:大都会キャリア女性の叔母
(◆ 四女の連れ合いのおば:元警察官)
◆五女:近所のおば。

私にはもう一つのミッションがあった。それはパンを焼くこと。これは、私からアルゴのために集まってくれた皆へのサプライズなのだ。こういった家族行事の時、突然死したおじは、自慢のパンを焼いていた。叔父はそれを門外不出のレシピであるとしていた。私は亡くなった叔父にしつこく付きまとい、そのレシピを聞き出していたため、叔父の代わりに叔父のレシピとコツでパンを焼くことを決めていた。

帰宅すると夫アルゴとオタクどもは相変わらずカードに熱中している。しめしめ。私はキッチンで30人分のパン作りに励んだ。汗水たらし、オーブン、フル回転。隣のダイニングからはオタクどものエキサイトしきった声が響く。パーティ開始まであと5時間。

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パンの二次発酵が終わるころ合いを見て、夫アルゴに「そろそろ準備しな。あと30分くらいで家でるよ」と言いに行こうとしたら、夫アルゴはカードで惨敗して、怒り狂っていた。

……ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

オタクどもに解散を告げ、焼きあがったパンをいそいそと包み、犬たちの準備をして、もう出かけるだけの体制の私の横で、アルゴはよれよれのTシャツに、履き古したパジャマズボン姿で、ゴゴゴゴゴゴゴゴ……のままである。そして案の定。「行きたくない」と言い出す。最悪だ!何いってんだ!カードに負けたくらいでうだうだすんなし!

ちなみに大量のパンだが、ここでも私はコソコソしなければならなかった。なんせ30人分である。焼きあがったものから、フォイルに包み、キッチンの裏口からこっそりとパンを車に積み込んだのである。

ううう、ここでもういっそのことすべての秘密をぶちまけてしまいたい。そうすればせめて普通の服に着替えるだろうし、機嫌も直り、おばの家に行くというだろう。だが言えない。こんなヂレンマはじめてよ!ううう。

私は、ここで「いや!ほら!行くよ。ディナー準備しているって言ってたし、犬たちも行きたがってるし、焼いたパンもさめちゃうし。あ、ほら、煙草、切れかけてるし、買わなくちゃじゃん?さっと行って、さっと買えればいいじゃん!」と無理やりに説得し、ブツブツ言い続けるアルゴを車に乗せた。おばの家までは車で10分程である。私は車の中から、おばにメールし(近所のおばではない、しっかりもののおば)に10分ほどでつくので!とお知らせした。

そこに、だ。ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

近所の叔母が電話してきた。なんでよ!!!めっちゃ苦労してんの!秘密を秘密であるために!もうすぐ行くっていってんじゃん!あと3分じゃん(焦)阿呆なの?!しかも私のスマフォが車に接続されていたため、電話は車のスピーカーに直通。うううう。無視しようとしたが、アルゴが出てしまった。

スピーカーに響くおばの能天気な声「ねぇ、来るなら途中で氷買ってきてくれる?」背後にはざわざわノイズ。カイジのざわ……ざわ……ではなく、もうあからさまに沢山の人が集まってる声。

ぎゃぁぁぁぁぁ。氷て!おばの家には冷蔵庫が2つある上に、製氷機(マシーン)まで無駄にあるのに、なんでよ!てか、そんなに人が集まってんなら、誰か買い出しに行かせろや!!なんで!いまの!このタイミングよ!!

絶対、バレたわ、これ。何してかしちゃってくれてんのよ。私は慌てて電話を切った。アルゴはいぶかしい目をしたものの、大層な不機嫌ヅラで、不意に

「こんな寸前に氷とか言ってるくらいだし、どうせいつもの通り、ディナーの準備できてなくて、結局、2時間待ちとかさせられるんだから、ちょっとカードストアに行こう」などと言いだした。

……ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

幸い、人が集まっていることはバレてはいないようだ。だが……おばよ!(叫)アルゴの言葉はもっともなのだ。待ち合わせをしても時間には必ず遅れる。2時間前の嘘の集合時間を教えてもそっからさらに2時間遅れる。ディナーあるから来てと言われていけば、3時間以上待たされる。すぐそこにいるから!もうあなたの家に着くから!といって6時間後に登場。こんなことをザラに、日常的にしでかしているおばなのだ。うううう。まさかの際の際、大間際での大ピンチ。

「い、いや!犬たちもいるし!もうすぐそこだし、とにかく行こう!顔だけだして、それから犬たちおいて、カードストア行こう!」

懇願状態である。もうほんっとに頼むよ!私の1週間の苦労とこの大量のパン!ね!努力は報われるべきなの!ねぇぇぇぇ。ストレスと緊張マックス。もうほんっとに頼むから!と心の中で叫び続ける私の想いが届いたのか、アルゴはしぶしぶおばの家へとハンドルを切った。

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それからは、普通の「サプラーーーーイズ!」である。不機嫌な顔のままのアルゴが家の中に入り、みんながHappy Birthday! 風船だとかもろもろで飾り立てられた部屋と、ずらっと並んだ食事。

夫アルゴは「え、え……えぇぇぇぇ」と叫んで、しゃがみこんで泣き出した。その周りを我が家の犬3匹に、妹犬ミラも混ざって、尻尾をふりながらぐるぐる回る。

「こんな誕生日、誕生パーティなんで初めてだ!人生初だよ!ありがとう」とおいおいと泣きながら、私をぎゅうぎゅうと抱きしめた。「いやいや、計画したんはおばさんたちだから、そっちにお礼して」と言い、無事にパーティが始まった、というわけなのである。

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で、タイトルと引用。

Having a place to go – is a home. Having someone to love – is a family. Having both – is a blessing. [Donna Hedges]

行く場所がある–それが家です。 愛する人を持つことーそれが家族です。 両方を持つことーそれが祝福です。

神経をすり減らし、ストレスマックスの1週間を過ごした私であったが、完全なサプライズのままパーティは行われ、みんなが大喜び。大成功。前回が悲しいことでの大集合であったので、今回はおめでたいことで集まれ、みんなが笑顔で大層、にぎやかに過ごせたので、それはそれは良きものであった

私のサプライズ。亡き叔父レシピのパンも喜ばれ、アッという間になくなった。これまではこんな時、必ずイベントにいて、大笑いしながら皮肉を言いまくる叔父がいないのは、寂しくて。それはその場にいた全員が同じ気持ちだったけれど、やはり家族というのは良きものです。で、引用の文。

私は実の親に10年以上、絶縁されていて自分の親族付き合いを同じ間だけ断つことになったのだけど、それでも日本から離れた国で暮らしつつ、あまり寂しさを感じなかったのは、この大層にぎやかな、たまには面倒で、たまには大いなるカルチャーショックを感じる親族たちに囲まれ、かわいがられ、大事にされ、Having someone to love – is a family そんな風に思える場所、つまりはHaving a place to go – is a homeがある。

Having both – is a blessing. どっちも持っている私と夫アルゴは大層、大層、幸福であるのだ、としみじみと思えたそんなパーティでした。

おじの門外不出レシピのディナーロール。これをx6焼いた。
おじの門外不出レシピ2のパン。これをx3焼いた。
リンゴ(父)、真ん中:ミラ(末っ子)、我らが大五郎。気まぐれまめこさんは写真撮影の気分ではなかったらしい。ミラはサイズもお顔もまめこさんそっくりのカワイコちゃん。
バースデーケーキ。蝋燭は40本プラス、幸運のためにもう1本。





と、思うやろ?私もそう思いたかったよね!わいのわいのでパーティ終了。イトコ家族や友人たちは帰宅。4人のおば達+心臓発作をおこした叔父だけがもう1泊。

で、翌日、我々は朝っぱらの4時に起こされる。ええ、ええ、ドラマですよ。心臓発作を起こした叔父の様子がおかしく、今すぐ病院に来て!だから!私‼言ったやんけ!今回は欠席にしろと!!!!

……ゴゴゴゴゴゴゴゴ……

幸い、叔父。今回は死線をさまようようなことではなかったが、ただいま入院中。くっ。





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