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学生インターン②一巡り、人めぐりの旅


秘境のスイス?

前々から行ってみようと思いながら忘れていた場所があることを思い出して、Sさんと一緒に訪れてみた。鬱蒼としたくねくねの山道を登りきると、突然小さな集落が現れる。一番手前のお宅の玄関で、おばさんたちが何やら雑談をしている様子。緊張しつつも声をかけたあと、それぞれの自己紹介をして、その輪に混ぜてもらう。とにかく暑い日だったことを覚えているのだが、玄関開けたらすぐ居間!という風通し抜群の住宅構造で、時々吹きぬけてゆく風が、とても気持ちよかった。

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途中でお米の配達にやってきたおじさんも登場して、みんなでひたすら世間話をする。なんてことない会話がとても愛おしい。なんでもないことでも「会って話す」というのは、やっぱり大切なことなのだ。この家の主のTさん、趣味は野良仕事と料理。この時にいただいた漬物の数々の美味しさは、なんとも忘れがたい。軒下に吊ってあるたくさんの玉ねぎ(自家栽培)に、なんともいえない郷愁を感じた。Sさんもその光景になにか感じたものがあるのか、熱心に写真を撮っていた。

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Sさんに言わせると、この集落の風景は「スイスっぽい」のだそう。秘境のスイス。こういうユニークな彼女の感性がとても新鮮で、毎日毎日いろんな話をしては、笑っていたなあ。

糸を織るひと

次に訪ねたのは、移住して十数年になる糸織り職人のKさん。この方にはしょちゅうお世話になっていて、草木染めを体験させていただいたり、行くたびに悩み相談をさせていただいたりしていた。Sさんは住まいの外観からすでに心を掴まれたようで「ジブリっぽい!私もこんな家に住みたい……!」と呟いていた。家の中には立派な糸織機が鎮座しており、この風景だけで一枚の絵のよう。あっという間に打ち解けて、今までに織った作品の数々を拝見しながら、日々、どんなふうに暮らしているのかを丁寧に聞き取った。

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Kさんが体現している山暮らしのかたちに、私は以前から憧れを抱いており、今回あらためて彼女の「暮らし」に対する哲学や想いを聞き、ますますその憧れは強くなった。一般的には「仕事がない」のが田舎暮らしに踏み切れない大半の理由だそうだが、やはり「自分で仕事をつくる」という意気込みやハングリー精神も必要なのではないだろうか。「なにもない」といわれる田舎には、まだまだ大きな可能性と余白が眠っていると私は思っているし、人と人との関係性の中から小さな仕事(なりわい)が生まれるのも、また事実。

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実は、この時にSさんが撮影した写真の数枚が、帰国後に応募した海外の写真コンペで立派な賞をいただいたそうだ。報告を聞いたときは本当にうれしくて、まるで孫の成長に目を細めるおばあちゃんのような心境になってしまった。(離れているのは、10歳+αくらいではあるけれど)

こうして、村を一巡りしながら人をめぐる短い旅が始まった。村に暮らす人々がそれぞれに持っているであろう「暮らしの哲学」のようなものを見聞きするのが、ますます楽しみになった。



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