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かもがわ出版メルマガ2022年Vo.138

『18世紀の産業革命以降200年間で大気中の二酸化炭素濃度は35ppm増加し、1958年の時点で315ppmとなった。30年後の1990年頃には350ppmを突破し、約30年間で35ppm増加した。2018年には410ppmを突破し、30年に満たない間に60ppm増加している。』
 
地球温暖化に伴う環境の激変と人類の未来について考えると絶望的な気分になる。
これ以上の気候変動を食い止めるためには、行動様式・テクノロジー・イノベーション・ガバナンス・価値観といった人類のほぼすべての項目において根本的な変換が必要だろう。
しかし過去30年間にわたる気候変動への取り組みは、グローバルにはほとんど成功していないし、資本主義が大勢を占め、紛争が頻発する世界の現状を考えるに、そんなことはとてもできそうにないと思えるからだ。
SDGsはすぐれた努力指針だが、日常生活の中でその端っこをちょっとつまむことで、自分に偽りの折り合いをつける。こんな個人のちっぽけな取り組みで気候変動などとめられるわけがないと思いながら。 
つまるところ、数十年という短いタイムリミットのなかでは、あるていど科学技術が発展したとしても、今の生活水準を維持しながら気候変動を回避することは不可能、ということなのだろう。
 
今月刊行された『気候変動と子どもたち』は、気候変動の問題と現在の取り組みの経過についての解説にはじまり、持続可能な生活を「着るもの」「食べるもの」「使うもの」「住居」「移動」といった項目ごとに考察し、「教育と学習」「生産と消費」「車社会」「労働」といった分野での社会変革の課題などを挙げ、その先にある目指すべき社会の輪郭を描く384頁にわたる大作だ。 
環境の専門家ではない著者が世界中の文献を網羅し、あらゆる問題を突き詰め、考えられる限りの課題を列挙した、気候変動における入門書兼教科書と言える。
専門家でないが故に、より広範囲な課題について体系的にまとめ、平易に解説することに成功しているのが特徴だ。 
 
著者である丸山さんは、里山にある120年以上前に建てられた古民家で、スマホなし、冷蔵庫なし、クルマなしの生活を送っている。
とはいえ本人は、一人ひとりがエコ生活を心がけるだけで気候危機を解決できるとは思っていない。にもかかわらず、そのような不便ともいえる生活を送るのは、もちろんしないよりした方がマシという思いもあるが、環境負荷を減らした持続可能な暮らしとはどのようなものか「試している」という感覚があるからだ。そして、そうした実際の生活を通して、感じたり考えたりしながら本書は編まれた。
そういった意味では、この本は、京都教育大学准教授という立場で子どもに関わる研究を生業にしてきた著者による、子どもたちの未来を守るために何ができるのかをまとめた、個人的な決意表明と言える。 
 
ネイティブ・アメリカンの諺にこんなものがある。
「人は祖先から大地を継承するのではない。未来の子どもたちから借りているのだ」
 
自分のこととして諦めるのではなく、未来の子どもたちのために、いま一度環境問題について根本的に考えなくては、もしそう思う人がいたら、ぜひ本書を開いてみてほしい。

本書の詳しい紹介が掲載されています。ご興味のある方はそちらもご覧ください。

【新刊案内】

●慎重で謙虚な、ときに弱気にさえ見える支援方法論
ひきこもり支援者として生きて 長期・高年齢ひきこもり「支援方法論」の探索
竹中 哲夫 本体価格1,800円
50数年にわたり児童福祉の現場から不登校の子どもやひきこもる人の支援の実践と研究に携わってきた著者が辿り着いた支援方法論。

●この国の行方を語る
新聞記者のち財界人 リーダーたちと考えた国の行方
萩尾 千里 本体価格2,000円
記者として富士・八幡製鉄合併を特報、財界に転じて開発プロジェクトや幹部人事を画策した著者が舞台裏を明かし、国の課題を探る。

【重版情報】

●国語と社会、家庭科を、教科横断的に学べる1冊
古典がおいしい!平安時代のスイーツ
前川 佳代・宍戸 香美 本体価格2,500円
枕草子のけずり氷、源氏物語のつばきもち…古典に登場するスイーツの再現レシピを、その古典作品の内容とともに紹介します。

●いま一番わかりやすい憲法入門書
檻の中のライオン 憲法がわかる46のおはなし
楾 大樹 本体価格1,300円
憲法は権力をしばるもの。憲法を「檻」に、権力を「ライオン」にたとえ、イラストで解説。立憲主義がわかる憲法の入門書。

【総合ランキング】

保育・教育書 第1位
●特集 オンラインで変わる子ども世界
子ども白書2022
日本子どもを守る会 本体価格2,800円
コロナ禍で加速するオンライン化。子どもたちの発達と生活にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。20人余の専門性ある編集委員が、「子どもの権利」を保障するという視点に立ち、多角的な切り口で迫ります。

人文・社会 第1位
●ウクライナ危機は新たな冷戦の序曲か
平和を創る道の探求 ウクライナ危機の「糾弾」「制裁」を超えて
孫崎 享 本体価格1,600円

ウクライナ危機の本質に迫り、和解の道を探る。そこから新世界秩序を展望し、台湾、尖閣、北朝鮮など、日本の平和への道筋を示す。

【編集より】

『復帰50年 沖縄子ども白書2022』刊行にあたって
2020年秋から企画・準備された本書は、執筆者・写真提供者総勢45人。多彩で多分野にわたる方々のお力添えに恵まれて実現しました。上記7人の編集委員の信頼性の高いネットワーキングにより、復帰50年の節目に、沖縄で子どもに関わる方々の総力をあげた市民による「白書」として仕上げることができました。沖縄の子どもたちの今を見つめ、これからのしあわせに生かす手がかりとして、広くご活用いただくことを願って出版されました。
2017年には、県の独自調査により、子どもの貧困率29.9%という衝撃のもと『沖縄子どもの貧困白書』が編まれました。このときには、沖縄の子どもたちのありったけの困難、貧困や排除を数値で示す、ということが大きなテーマでした。しかし、そんななかにも、みずからの人権について声をあげる若者が生まれていることが、希望であり感動でした。
 今回の復帰50年企画で深く心に残ったことは、より長い時間尺のなかで、今の沖縄の抱える困難の多くは、沖縄戦にさかのぼる、ということでした。その後の77年もの時間を沖縄の「おんな・子どもたち」は、声を発することも難しいまま、ひたすら生きてきたということです。その生きてきたという事実が尊い――そう全国のみなさんに伝えたい。そして、沖縄県内には、その「おんな・子どもたち」のことを自分事(じぶんごと)として、自分の仕事(しごと)として、真摯に取り組んでいる方々がこんなにもいらっしゃるのです。
 忘れてならないのは、沖縄がむき出しの国家権力の暴力にさらされ続け、そういった地域・社会・家族のなかで、「おんな・子どもたち」が痛めつけられてきたことです。
 本書を手に、沖縄の「おんな・子どもたち」から、日本社会を見てみてください。
 第2次世界大戦後の日本社会が置き去りにしてきた問題が、この本には詰まっています。しかし、本書は、それを沖縄の、子どもの実践現場の闘いで変えてきた記録でもあります。
本書は、沖縄のみならず日本全国の、子ども・若者、おんな・子どもに関わるすべての方に託する「希望と宣言の書」です。
 「希望と宣言の書」――上間陽子さんの巻頭言からいただいたこの言葉を全国のみなさんに共有していただき、「復帰50年」が新たなスタートの年となることを祈ります。