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バス 버스 ポス

 韓国に着いたとき──ああ、韓国に帰ってきたなと感じる瞬間が幾つかあります。その内の一つがバスに乗ったときです。
 騎馬民族の血がそうさせるのか、韓国人の車の運転は日本と比べ、かなり荒っぽいです。急発進、急停車、いきなりの進路変更、割り込みも多く、クラクションの音も大きく(改造するらしいです)、車に乗るといつもひやひやします。

 近年バスレーンが整備され(一般車両は進入禁止です)非常に便利になりました。日本のパスモやスイカのような電子マネーのシステムも日本よりいち早く整備され、ソウル市では地下鉄と共有で割引も受けられ、非常に使いやすいです。

 ただ、乗るのは一苦労。停留所はあるのですが、バスの本数が多く、定時運行をしているわけでもないので、いつ目的のバス(大体番号で覚えています)が来るのか分からない。そして何台も一辺に到着するので、目的のバスまで駆け足で移動し乗り込みます。

 走行中は手すりや吊革にしっかり掴まらないと大変です。昔は運転手(韓国語では運転技師様と言います)がラジカセを持ち込んで、演歌を大音量で流したりもしていました。そんなBGMを背景に遊園地のアトラクションのようなスリルを味わい目的地へ到着です。

 荷物を持って立っていると、座っている人が、荷物を持ってくれることがあります。これは電車などでもそうなのですが、お互い様というか、儒教的精神の発露というか、慣習というのか――初めて経験した時は驚きました。最近はかなり少なくなったようですが……。

 韓国のバスを自由自在に乗りこなせるようになると、ああ、自分も韓国に馴染んだな……と実感します。


 韓国留学中──もう20年近い昔のことですが、その頃はソウル市の郊外の城南(ソンナム)市というところに住んでいました。地下鉄もまだなく(今はあります)、移動手段はバスが中心でした。
 妻の実家はソウル市の北部にあり、遊びに行くときは良才(ヤンジェ)というソウル南部の駅まで、城南市からバスを使っていました。

 市内のバスと比べて距離が長く、当然かなりの速度でバスは走っています。ある日の帰り道、疲れた体でバスに座り、揺れられていたとき、交差点を速度を落とさずにバスが曲がりました。慌てて座席の前の手すりを掴んで、私は事なきを得ましたが、前の方に座っていたおばさん(アジュマ)が座席から転がり落ち、反対側の座席にぶつかりました。

 あまりの出来事に固まっていると、おばさんは何事もなかったかのように立ち上がり、座席に戻りました。周りの乗客もいつものことのような雰囲気で、特に運転手に抗議するというようなことも見られませんでした。

 韓国でバスに乗るたび、いつも思い出す遥か昔の思い出です。

第13回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞して自衛隊ミステリー『深山の桜』で作家デビューしました。 プロフィールはウェブサイトにてご確認ください。 https://kamiya-masanari.com/Profile.html 皆様のご声援が何よりも励みになります!