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東京都知事選:東京一極集中に対して、維新は都知事選の今、「大阪都構想」を問題提起すべきだったのではないか?

東京都知事選。激しい選挙戦から一歩引いて、こんな話はいかがでしょうか?

日本維新の会の馬場伸幸代表は、6月9日配信のネット番組で、「地方を自立させる議論をもう1回惹起(じゃっき)するためとして、「大阪都構想」の是非を問う3回目の住民投票の実施に意欲を見せた。

過去の住民投票の投票権が大阪市民に限られていた点についても触れて、「(都構想が実現すれば)大阪府と市の税金を一緒に使っていこうということ。だから府民の皆さん方にも聞くべきだ」と主張し、住民投票について定める大都市地域特別区設置法(大都市法)の改正にも言及した。

ところが、6月11日に馬場代表は「具体的なことを決めているわけではない」と述べて、早期の実現を目指しているわけではないとの考えを示した。

あれあれ、残念なことだというのが正直な感想だ。

東京都知事選の時期に、維新が「大阪都構想」をぶち上げたら非常におもしろかったのにと思ったからだ。

都知事選では、「東京一極集中の是正」が争点の1つになっている。有力候補の1人・石丸伸二・前安芸高田市長が「東京の弱体化」を主張し、小池百合子現・東京都知事が「東京のパワーは国力に直接かかわる」と反論している。

「大阪都構想」は、東京からの分散を図った際の地方のあり方への1つの方法論となるわけで、議論を俎上に乗せてほしかったものだ。

もちろん、維新側にはそれができない事情がある。そもそも、都知事選に候補者を立てていない。一説には、石丸氏を支援しようとしたのだが、「完全無党派」を貫く石丸氏に断られたという。

候補者を立てずに、場外から論戦を挑むようなことは選挙のルール違反だ。

また、維新の党内でも、音喜多駿政調会長など「非大阪議員」から「大阪都構想」へ再々挑戦に異論があるという。現状、馬場代表の私的な考えにすぎないのだ。

だが、維新が大阪都構想をいつか実現したいならば、惜しい機会を逸したと思うのだ。そもそも、ルールをきっちり守るだけならば、政治家はいらない、役人だけでやればいいのだ。場外からでも、ガンガン論戦を挑んだらよかったと思う。それができないのが、維新が大人しい普通の政党になってしまったというか、「第二自民党」を揶揄されるところだろう。

私は、「大阪都構想」がこれまで実現しなかった理由は、その構想自体が「しょぼいもの」であったからだ。少なくとも大阪市民にもその外部にもそうみえたために、特に大阪の外では全く理解を得られず、不人気だったことにある。

知っている人もいるだろうが、私はかつて、大阪都構想を「しょぼい」といって、橋下徹さんを怒らせた。だが、最初は私のことを「バカ学者」といい、「バカ学者」から教わる「バカ学生」と「バカ大学」と罵声を浴びせてきた。

だが、後に「バカ学生」と「バカ大学」は撤回されて、私に対する呼び方も「バカ学者」から「上久保氏」に変わった。

私が2週間沈黙の後、冷静に返したからであるが、その後、私が論じたことを、自分の意見のようにTVで話されていた。例えば「大阪を国際金融都市に」という私の提案を、最初は「バカ学者の机上の空論」と言ったが、後に「大阪がシンガポールになるんですよ」と話してましたからね(笑)。

それはいいんです。橋下さんは、その後も私の書いたものをよく読まれたようで、それがうかがえる発言がTV等で多々あった。本質は、勉強家なのだなと感心した。

それはともかく、私が大阪都構想を「しょぼい」と評価した理由は、構想が例えば「水道局」や「卸売市場」などなどの、大阪市と大阪府の「二重行政」を1つにして、その際、「市」と「府」より上の行政区分が「都」なので、「大阪都」と称するだけという、いかにも「お役所仕事的な構想にすぎなかったのだ。

そのため、例えば東京都にある「国」の政治行政機関のどれを大阪で引き受けるとか、東京が災害や他国の攻撃で破壊された際などの安全保障上のバックアップ機能をどう構築するかとかの、大阪を「副首都」とする構想が練り上げられていなかった。

まあ、構想がまったくなかったわけではないのだろうが、当時の安倍晋三政権と構想についてすり合わせがあったわけではなく、上記の法律上、「大阪市の住民投票」だったので、国家の安全保障の話を問えないということもあっただろう。

いずれにせよ、ただの二重行政を解消するテクニカルな話に終始していた。そのため、大阪市外には支持が広がることはなかった。特に、「天皇はんは東京にお遊びにいかれてるだけ」「日本の首都は京都」という人も少なくない京都「府」では、「なんで自分らを抜かして、大阪が都と名乗るんや?」という怒りが充満する。奈良だって、納得いかないだろう。

大阪が「都」と名乗ることには、日本全国どこも「聞いていない。勝手にやるな」という話になった。そんな空気は、敏感な大阪人はすぐに感じる。そもそも、大阪は巨人嫌いの阪神タイガースだ。「反東京」の気風はあるが、都になりたいとは思っていない人たちだ。

ということで、2度の住民投票は、大阪市民の過半数の支持を得るに至らなかった。

私は、大阪都構想を実現したいならば、「副首都機能」をしっかり練り上げた、国家のグランドデザインを描く構想にすることが重要だと思う。それを、大阪市民だけではなく、全国民に問い、支持を得ることだ。その時初めて、大阪の住民投票でも勝利することができると考える。

東京都知事選の「東京一極集中是正」の議論は、石丸氏でさえ「それは国が考えること」と発言している。つまり、一極集中の是正が必要というが、それが是正されたことの受け皿の構想はまったく議論されていないのだ。

今回の東京都知事選が非常に注目を集める選挙となることは、ずっと前からわかっていた。ここに焦点を当てて、結党の理念であるはずの「地方主権」で大きな構想をぶつけられなかった、維新の会の限界を感じる。

いや、維新の会だけではない。すべての政党、政治家が日常の些末なことに右往左往するだけで、今後の日本のあり方を構想する力をなくしていることを、残念に思う。

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