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シャーマニズムIII : 共感と理想、そして過去

V.W.Pも春猿火もよく知らない友達が好きな曲として挙げた中に『残火』や『フリーフォール』の名前を見つけたことがある。自分はただそれにいいねと頷くだけだったが、内心はとても嬉しかった。 自分はもはや春猿火やV.W.Pの曲を文脈や思い入れなしに聴くことはできない。だが何も知らない友達が不意にYoutubeで彼女たちの楽曲を耳にして素朴に好きだと感じてくれたとき、自分は彼女たちの歌がただそれ単体で純粋に人の心を掴む魅力を持っていることを再確認できる。 『シャーマニズムIII』

    • 罪と楽園 : 情熱が残る離別

      『罪と楽園』が終わったあと、自分の中には良い映画を観終わった感動と同じような感覚が渦巻いていた。それと同時にこう考える、このライブを観てそんな受け止め方をしている自分には、きっと彼女たちについて何か書く資格は無いと。 資格なんて無いまま無責任に通りすがりの人間として書こう。 『罪と楽園』は別れの舞台としてあまりにも綺麗だった。 第一印象かつてライブ『Albemuth』を観たとき、明透に対してはその天真爛漫さの背後に隠れた聡明さに驚きつつ好感を抱いた。特にメタ認知の領域、つ

      • 神椿代々木決戦2024 : 再起動される物語

        時代の趨勢はともかく、小さな個々の出来事は偶然の結果だ。 花譜がバーチャルシンガーという姿を得たことも、理芽が才能を見出されたことも、春猿火やヰ世界情緒、幸祜がV.W.Pとして世に出たことも、言ってしまえば偶然だ。出来事のタイミングが少しずれただけでも、普通の学生として過ごしていたり、別のグループだったり、別の姿だったり、さまざまな異なる未来が当然のようにあり得た。 一方で現在の形はただ偶然が集まったものではない。それぞれの意志で根気強く丁寧に編まれ続けてきたものだ。もし

        • ヰ世界情緒4周年:ファンでなし

          届いてからそのまま棚の上に並べていたアルバム『運命』を取り出して、カバーアートのヰ世界情緒を眺めてからそっと蓋を開ける。 アクリルキーホルダー、トークイベントの抽選券と順番に取り出していくと目当てのものが顔を出した。アーティストによる寄稿文だ。それを丁寧に広げて最初から最後まで、5人のコメントを読み終えるとまた丁寧に折りたたんで全て元通りに箱の中に戻す。 グッズは取り出さない。抽選券の要項を読まない。本体であるCDに至っては再生する装置が部屋に存在しない。おそらくこのアル

        シャーマニズムIII : 共感と理想、そして過去

        マガジン

        • V.W.P
          9本

        記事

          Anima Ⅱ : 余白、そしてパッション

          Anima IIが始まる少し前から落ち着きなく自宅のプロジェクターとスピーカーをPCに接続し直して出力調整をしていた。最後に音量調整していると待機ムービーから『ARCADIA』が流れ、ふと『Anima』のことを思い出した。 ヰ世界情緒の1stライブである『Anima』はリアルタイムで観ていない。当時はライブを観るという行為が頭の中に選択肢として存在しなかった。アーティストの活動を追うという概念もない。YouTubeでなんとなく曲を探して、気に入ったらマーキングして、作業しな

          Anima Ⅱ : 余白、そしてパッション

          prompt αU: 月は見えているか

          あと5年もすればもはやこの時代の感覚は想像できなくなるかもしれない。近未来に起こるとされる不確かな予言だった「シンギュラリティ」という言葉が、あまりに加速度的な技術の進歩によってにわかに現実味を帯びた時代、それが今だ。 ドッグイヤーと呼ばれるIT分野の中ですら未経験の速度で世界が変わっていくことに対する不安と期待が入り混じっている。そんな激動の時代の前夜にエンターテイメントの未来を垣間見よう、『prompt αU(アルファユー)』だ。 ちょっとした前提KAMITSUBAK

          prompt αU: 月は見えているか

          ヰ世界情緒3周年:十二番目の魔女はいるか

          よどみに浮かぶ泡沫はかつ消えてかつ結びて……人の営みはいずれ終わりまた始まる。どんな舞台にもいずれ幕が引かれ灯りの消える時が来るだろう。個人的な感覚だが、ヰ世界情緒の言葉から時おりそうした「終わりがあることの意識」の匂いがする。 さて、三周年という節目に対して公式企画に参加して盛り上げるだとか、素直に祝福を贈ることもせず、遅れて何か書いたと思えばこんな不吉な書き出しなので眉を顰める読み手もいるだろう。まるで『眠り姫』で祝宴の最中に王女の死を予言しに来た十三番目の魔女のような

          ヰ世界情緒3周年:十二番目の魔女はいるか

          ヰ世界情緒展: 熾火は燃えているか

          「ヰ世界情緒」はキャラクターとしての名前というより、彼女が作ろうとする世界観やそのプロジェクトに対して授けられた名前だと思うことがある。人名らしからぬ言葉の響きも理由の一つだが、彼女は「ヰ世界情緒」をしばしば「私」ではなく、他のクリエイターと共創していく作品『ヰ世界情緒』として語っているように聞こえるからだ。 過去のnoteで何度かKAMITSUBAKI STUDIOのような高度に分業化された形態ではバーチャルシンガーは「企画やクリエイターからエンチャント(創作)される"外

          ヰ世界情緒展: 熾火は燃えているか

          不可解参狂: 成長の物語

          不可解参狂が終わって三日間があっという間に経った。自分の手首にはまだ赤いラバーバンドが付けっぱなしで、現地から帰ったら見ようと思っていたアーカイブ配信も見れていない。自分の中では余韻が落ち着きなく渦巻いていて、あの武道館から日常までの帰路の途中にまだいる。整理がつかないまま、熱が冷めないままの感想をいったん書き留めておきたい。 ちょっとした用で渋谷まで歩いた時、スクランブル交差点で不可解参狂の壁面広告を見た。唐突に実感したのは「遠さ」だった。およそ3年前、花譜の曲が自分のプ

          不可解参狂: 成長の物語

          V.W.P系譜曲: 虚構へ正対する

          ついに系譜曲(魔女シリーズ)第5曲目『共鳴』オリジナルMVが公開された。系譜曲の中では珍しく「楽しさ」「可愛さ」に振られたこの曲はMVでも5人の笑顔が眩しい。名曲揃いの系譜曲の中でもこの曲が好き、と挙げる人は多いだろう。 今年4月に行われたV.W.P 1st one live『魔女集会』の終盤で、また『現象』のV.W.Pパートの最初でこの曲に胸を打たれたことはまだ記憶に新しい。こうして『共鳴』を耳にすることであのライブ『現象』を思い出すと、この系譜曲シリーズが、そしてV.W

          V.W.P系譜曲: 虚構へ正対する