見出し画像

移住政策担当者に読んでほしい、移住したい人の心理

地方移住が大きくクローズアップされるようになりました。特にずっと東京に人口を奪われ続けてきた地方自治体は、あの手この手で移住者を取り込もうとしています。ふるさと納税の返礼品を工夫して競い合うのと同じような構造が生まれています。

2016年に東京から静岡への移住を経験した私たちは「こんな移住政策ってちょっと残念だよね…」と思う移住政策がありました。今日は移住者の心理を紐解きながら、移住政策に関する提案をまとめたいと思います。

総務省によりますと、東京都の人口の動きは、ことし5月に今の調査方法となった2013年以降、初めて転出が転入を上回り、ことし4月から11月までに1万2000人余りの「転出超過」となっています。

出所:2020年12月30日付 NHKニュース

2021年1月7日。首都圏に発出された、2度目の緊急事態宣言。今後、地方移住のトレンドはますます加速することが予想されています。

1 移住者は、賃貸物件からスタートしたい

地方自治体の移住施策の代表例が「住宅を購入した場合、補助金を出します」というものです。でも、見知らぬ土地での住宅購入はとても高いハードルです。コロナ禍では仕事を変えずに、暮らしだけを移したいという考えの移住希望者も増えています。住宅購入によって定住化を図りたいご担当者の気持ちもよくわかりますが、その土地に良くも悪くも縛りつけてしまう政策で、嫌煙されるかもしれません。

移住者がとる一般的なステップは、
①まず賃貸で生活してみる
②その土地が気に入ったら住宅購入
ではないでしょうか。

そこで移住者を増やすために有効な政策は、住宅購入を補助することではなく、移住者向けの魅力的な賃貸物件を増やすこと、あるいはお試しで暮らしが体験できるような場所を用意することです。私たちが4年前に家族3人で東京から移住するときにも、三島駅(新幹線駅)近くの家族向け物件を探すことに苦戦しました。

ターゲットを子育て世代に絞るのであれば、家族向けの賃貸物件(2LDK以上)の充実を図る必要があります。地方都市で社会問題にもなっている、空き家をリノベーションすれば、一石二鳥の政策となる可能性があります。

2 移住者は、仕事はそのままで住まいだけ変えたい

移住というと「住まいも仕事も人間関係もリセットして、人生を新しくスタート!」といったイメージがあると思います。東京の大企業で働いていた人が、移住先で農業やカフェを始める、といった具合です。

ただ、現在の移住希望者の多くがこのような大転換を求めているわけではありません。コロナ禍でリモートワークが一気に浸透したことによって、仕事(勤務先)を変えずに、住まいや暮らしだけを地方都市に移したいと考えているのです。もちろん、中長期的には住まいだけではなく、移住先で新たなコミュニティに加わることで、新しく仕事を始めるようなことも考えられます。

すると、首都圏へのアクセスの良さを持つ自治体は「仕事を変えずに移住できる」という点において圧倒的に有利です。このアピールポイントを余すことなく伝えていくべきだと考えます。私たちの住む静岡県東部(三島市、長泉町、沼津市等)も、新幹線駅が近くにあるため例外ではありません。実際に新幹線駅から徒歩圏内に家族向け物件を豊富に持つ、静岡県長泉町は、子育て支援政策を充実させることで、近年、静岡県内で最も人口の増加している自治体となっています。

3 移住希望者は保育園への入園が必須条件

移住政策のターゲットは子育て世代。専業主婦世帯よりも圧倒的に多い、共働き世帯の心理に目を向ける必要があります。つまり、移住したはいいけれど、子どもを保育園に預けられない…なんて事態になると、仕事を続けられなくなってしまうのです。いま住んでいる自治体で子どもを保育園に預けられている場合、「退園」は心理的負担でしかありません。

「東京で、やっとの思いで保育園に預けられたのに、それを捨ててまで地方に移住できない…」というのが本音です。首都圏の保活は、地方都市の想像をはるかに越えて、本当にたいへんなのです。

保育園の入園を保証する、というのはとても難しい政策だとは理解しています。ただ、それくらいの気概を持って取り組まなければ、移住者を増やすことはできません!

移住政策が「子育て世代」をターゲットにする理由は、税収の獲得が見込めるから、そして子どもがいることによって長期的な人口増にも貢献してくれるからです。このため、子育て環境や保育環境の充実は移住政策において最も重要なポイントであると考えます。

4 移住希望者は説明会の日まで待ったりしない

移住先を検討するとき、「後悔のない移住をしたい」と考え、家族で話し合いながら複数の移住候補地を検討します。このときのキーワードはオンデマンド。「いま、知りたい」に地方自治体側がもっと答えていく必要があるのです。

静岡県に住んでいると、県内ニュースでたびたび「首都圏移住希望者を対象にしたオンライン説明会が××市で開かれました」と聞きます。しかし頻度は、多くても数か月に1回。あまりにもったいないです。

移住を検討している人が調べたときに、すぐに情報収集できるよう、オンライン説明会はいつでもYouTubeで見られる状態にしておくべきでしょう。この点に対応していない自治体は、相当量を取りこぼしていると考えられます。なぜなら、その自治体の説明会の開催を待っている間に、オンデマンドに対応しているもっと魅力的な自治体が他に現れ、あっという間に移住先が決まってしまうからです。何事もご縁とタイミングですから。

5 移住者は、また移住するかもしれない

移住が暮らし方の選択肢のひとつになってきた現在。移住者がその土地に永住することはない、ということは頭の片隅に置いておくべきでしょう。いま、移住を考えている人たちは、新型コロナウイルスという社会全体の大きな価値観の変化の中で、人生の優先順位を見直しているからです。人生の目的や家族の優先順位が変われば次の場所へ移っていく。これはニューノーマルな価値観として日本に定着する可能性があります。

4年前に東京から静岡にやってきた私たちも、2人の娘の進学を理由に、家族の介護を理由に、現在の土地を去る日が来る可能性があります。そう考えると、移住政策による人口の獲得は、コロナ禍で熱心に取り組むという性質のものではなく、今後もずっと続けていかなくてはならない、地方自治体の任務となるのかもしれません。


新型コロナウイルスの感染拡大の下、移住を検討している人たちの心理をまとめました。各地方自治体で移住政策を担当している方々は、ぜひともターゲットを明確にしたうえで、彼らが何を求めているのかを詳しく知りましょう。そのうえで、どのように予算を使うのか(例:住宅購入の補助金は効果的な使い方ではありません)を整理し、部署横断で移住者を増やす政策(例:待機児童ゼロを目指すのではなく入所率100%を保証する)を打ち出していく必要があります。移住セミナーを開催し、地域の観光名所を紹介するだけでは、全く意味がありません。


夫K「既に継承者がいなくて、祭りや伝統芸能が消え始めているよね。人がいなくなると、商業施設も撤退して、暮らしづらくなり、人は地域ごとに、特定の場所に集まるようになるんだろうね。」

妻A「三嶋大社の大祭りは、100年後も続いていてほしいな。長女も私も、祭女で、夏になると血が騒ぐんだ(笑)」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?