食レポ①激辛カップ麺編

 某メーカーの激辛カップ麺を食べた折の話です。

 パッケージには「涙が出るほど辛いです」との謳い文句。恐る恐る一口すすってみましたところ、何だ、意外に大した事はないじゃないかと、続け様に二口三口と掻き込んだのがいけなかった。どうも辛さというやつは、少し遅れてやってくるようです。

 はじめ、前歯の裏側の辺りがヒリっとしたかと思うと、そこから熱を帯びた痛みがじわじわと、まるで傷口に巻いた包帯に赤黒い血液が染み出していくように広がってくるのです。口中はたちまち燃えるような痛みと強烈な渇きで一杯になりました。さらに、辛みを溶かした唾液は歯肉の隙間に入り込み、その痛みは、歯の内側から線香花火を押し当てられているかと思うほど強烈なものでした。
 涙で視界がぼやけ、体が熱くなり、心臓がバクバク脈打って、味を楽しむことはおろか、わたしはもう噛むことすら放棄して、ごろっとした麺の塊を、そのまま喉の奥に押し込んでやりました。

 麺の塊が、食道の内壁に燃えるような痛みを残しながら胃に向かってじわじと落ちていきます。麺の通りすぎた部分は、空気が触れるとヒリヒリ痛みました。たまらず、冷たい水を飲みました。しかし、水は知らん顔で通りすぎて行くばかり。そればかりか、汚れが洗い流されて感覚の鋭さが増したせいか、あるいは期待を裏切られた落胆のせいか、むしろ痛みはひどくなってしまいました。

 麺が胃袋にたどり着きますと、腹の中から、厄介者を押し付けられたことへの非難の声が上がりました。膨張した胃袋は腹を内側から圧迫し、汗と吐き気が止まらず、わたしは椅子から崩れ落ち、ごろんと床に転がりました。全身が燃えるように熱く、渇ききった瞳からは涙も出ませんでした。このまま死ぬのだろうか。内側が燃え尽きて、皮膚だけが残ったわたしの死体を見て、解剖医はさぞ死因の判定に困るだろうと、そんなことを夢想しておりました。熱により衰弱した理性が、潜在的な自己破壊の衝動に白旗を挙げて助けを求めたのでしょうか。

 やがて、少しずつ痛みと痺れが和らいできました。起き上がって時計を見ると、二十分ほど経っていました。残りの麺は、捨てるに忍びなく、一度に口に入れる量を限りなく小さくすれば何とか食べられることが分かりましたので、二時間ほどかけてゆっくり完食しました。その後数時間、口内の痛みと渇き、絶え間ない吐き気に襲われたことは言うまでもありません。

 「涙が出るほど辛いです」は、脅しの文句ではありませんでした。それは、道路標識のように正直で正確な警告だったのです。スーパーに置かれているくらいだから大したことはないだろうと、軽い気持ちでアクセルを踏んだのが大きな間違いでした。

わたしはもう、二度と激辛カップ麺を食べないでしょう。

世の中には、喉元を過ぎても忘れられない熱さがあると知りました。

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