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書店員の父が語った、損して得あれ的お金の巡り方の話

元教習所の先生・三上です。
親父は、歴が異常に長いだけのしがない書店員です。

のくせに、なんか妙に人気なんだよねぇ親父(ジェラスィー)。

▲本屋とは関係のない話でしたが、結構コメントいただいた前回。

そろそろネタが枯渇し気味……いや、思い出せばあるか?
な感じなんですが、今日は親父が語ったお金に関するお話を二つほどお届けします。

(1)図書カードの話

就学している間は、金券の代表格じゃないですかね、図書カード。
まとめて購入なさる方は、「おもちゃ買うより本買ってくれた方がマシか……」みたいな意図がスケスケなんですが(笑)、三上はもらって嬉しかったです。
どうでもいいんですが、紫式部の印刷された図書券の方が今も好きです。

成人する前だったと思うんですが、親父にふと尋ねたことがあります。

「図書カードって、どういう仕組みなの?」

ぶっちゃけ、アルバイトの店員だと答えられない方が多い質問じゃないかと思います(私は父の店以外でも書店の経験がありますが、知っている方はいませんでした)。

すると、父はすらすらと答えはじめました。

「図書カードの原価は、定価の5%引きでな」

例えば、1000円の図書カードを、書店は5%引きの950円で仕入れるというわけです。
1000円の場合は、売れると利益が50円という塩梅。

私はあまりの利益率の低さにびっくりしました。「え? 全然利益にならないじゃん、なんでやるの?」

父はニカッと笑いました。

「やる価値はあるね、なぜだと思う?」

この時の私はしばらく考えて、答えられませんでした。

「図書カードを購入してもらうことで、お金が本屋以外で使えない物体に変わるからだよ

私は呆然としました。

「本屋以外で使えないって……大事?」
「大事だろ、1000円は国内ならどこのお店でも使える。
でも、図書カードは国内の書店でしか使えない。
だから本屋は多少損してでも、自分たちの業界でしか使えないこの金券を大事にしているんだよ。
損じゃなくて、価値のある5%だ」

当時は子供だったのでわかりませんでしたが、大人になった今、そしてポイントカードまみれの現在(笑)、その価値がいかに凄いことかわかります。
確かにそうだよねー、お金がよその業界で使われなくなるって凄い仕組みだ。

「損して得あれ、商売の基本だ」

そう締め括る父を見て、私は初めて「そうか、親父は商人だったのか」と気づいたのでした。

(2)他店で本を大人買いしてしまった時の話

三上はムシャクシャすると、何かを一気買いしてしまう時があります。
買うのは大体、画材か本です。

昨年9月、ムシャクシャして1万円を握りしめ、リュックを背負って隣町の書店まで出かけました。
隣町には、県内では幅を利かせているチェーン書店の大きなビルがあり、現在出版・流通している本の7割程度が揃っています。
そこで、ひたすらCGの本やら、デザインの本やらを5冊ほど購入。

突発的ムシャクシャだったため、父親の書店には注文を出していません。
すまん親父……

その1ヶ月後の昨年10月、父と隣町で食事を摂りました。

「そういや、ここR書店あるで、行ったことある?」
「いや、ないな」
「でかいよ」

ビルの規模、各フロアの大雑把な取扱ジャンルを話したところ、父親は「行ってみるか」と答えました。

ちなみに父は、休みの日は必ず地元の書店(競合他社)を3軒は梯子していて、私もついて回っていました。
そのせいか、父親曰く、私も棚に関しては目があるそうです(私は自覚がないのですが、「○○書店の棚がつまんねえ! 規模でかいんだからもっと面白くできるだろう!!」とか怒ると、父はニヤニヤして「外れちゃいないな」とよく言います)。

父を案内しながら例のR書店を巡り、親父に白状しました。

「すまん、この間ムシャクシャして、ここで1万散財した」

親父は笑っていました。

「ほぉー、お前本屋で散財したか、いいことだ!」

ぽかんとする私に対して、父は相変わらず笑顔です。

「いいんだ、どこの本屋でも、本屋にお金が巡ってくれれば、もうそれだけで」

その言葉を聞いて、どんな勢いでこの業界が崩れているのかを実感しました。
脳裏に浮かんだのは、北極の陸のような氷が溶けて、縦に裂けて海に沈んでいく場面。

ちなみにこの後、親父は私にどの本を買ったのかを尋ねて、売り場で中身をちゃっかり確認していました。
さすが商人、ただじゃ転びません。

店を出る頃、父は私に言いました。

「お前が客注で頼んだ本、大体もう1冊頼んで店の棚に突っ込んでおくんだよね」

なんでだろう? と思っていると、父はこう答えました。

「お前が頼む実用書、大体他のお客さんにも売れるんだ」

意外な話でしたが、こんな形で役に立っているのなら、まぁよかったかな、と思いました。

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