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【進化心理学】進撃の巨人主人公エレンから読み解く人生幸福学 「世界を目指す」その前に Part.1

(※3月9日ジークとミカサに関して加筆しました)

ある海外精神科医が配信で「大志を抱くな」と言っていたのを聞いて、我々の幸福に「世界の大きさ」がどれだけ関わっているかということを進撃の巨人のエレンを例に考察してみました。

なぜエレンなのかというと、現代を生きる我々と、彼の「幸福論」(結果的に論になっただけで彼に選択の余地はあまりなかったけれども、価値観なども含めて)と被る部分があると個人的に思ったからです。


エレンの生き方とそのフェーズに例えて「幸福論」(我々が可能な限り幸せに生存する方法)を考えてみようと思います。思ったより長くなりましたのでPartごとに分けていきます。


ネタバレなので進撃の巨人既読者向けですが、見ていない方は最後まで言っちゃいますので、気にする人は読むか何かしてください。


エレンの人生の縮図というと私の解釈ではこう。


エレン10歳、鳥籠(壁)の中で与えられた運命に満足して生きる家畜のような人類を軽蔑し、外の世界を探求することを夢見る。約束された安全と安心な暮らし。でもそれって本当の幸せか?俺にとってはそうじゃない。生きている気がしない。自由とは戦って初めて手に入るものであるべきだ。と言う個人的な幸福論

「何か起きねえかなあ」フェーズ


エレン10歳、壁が破られ考えた通り巨人が中へ入ってくる。驚きはするものの、周囲の人と違い完全に不意打ちではない。予想していた、いやどこかで望んでいた展開ですらある?(平和で快適で退屈な日常を過ごす人にありがちな世界破壊願望

母親が食われ絶望。巨人の駆逐を決意する。


15歳。調査兵団での暮らし。かなりハードでも乗り越えられないレベルではない挑戦が毎日あり、(これやりがいのある人生を送るにためにかなり重要)衣食住を共にする仲間たちに囲まれ幸せ。これがエレンの人生の幸福絶頂期だと私は考える。

巨人の力を目覚めさせる。新たな挑戦。

壁で穴を防ぐ。兵団にも認められ、社会的に自己肯定感が回復する。アルミンやミカサだけでなく自分も何者かでありたいという欲望。自己実現段階。幸せレベルの拡張。

アニ、ベルトルト、ライナーの裏切り。兄のように信頼していたライナーには特に失望が強い。エレンの「幸せ」基盤を揺るがすため、怒りで対処。

三期

なんやかんやあり自分への信頼を取り戻す。これも全て仲間のため。エレンの拡張世界。

ヒストリアとの接触により未来の記憶が送られる。確定した未来、仲間の死、夢もクソもない外の世界とエレンの選択を見る。

絶望する。幸せ期の終了。


19歳

未来の記憶通りに動き、自分のできる最善の選択をする。人類の8割を踏み潰す。仕方なかったってやつだ…と同時にちょっとやりたかった自分もいる。だって自分の期待を裏切ってこれだけガッカリさせたんだし。少しくらい破滅を願うのは、多分みんなちょっとはある。特にエレンの記憶は父親の記憶とも繋がって、そこは彼の生きた世界でもある。第一話の世界破滅願望。それをするのがたまたま自分だっただけで、元々こんな世界は一回壊れた方が自分が一瞬幸せになる(ここが大事)よなと言う意識があった。

もちろんこれはエレンの行動の多分一割未満にもすぎない(いっても1%くらい)。


エレンの幸せと幸せ基準は、

ミカサアルミン(家族)第一層

>=

調査兵団の仲間達(幸せ絶頂期をくれた人々)

>>

パラディス(生まれ育った場所、アイデンティティの土壌としての恩)

>>

そのほかの世界

で出来ている。

本来ならばエレンの幸せはおそらくアルミンと未知なる世界を冒険し(ミカサもおそらくついてくるか、帰った時に結婚する)ミカサと結婚する、とかで段階を踏み終了していたはずだった。

そこに予想とは大きく違う拡張世界が現れて、さらには変えようのない運命まで知ってしまった。

この未来を知る能力というのは、ファンタジーであまりピンと来ないかもしれない。
私たちの世界だと、世界がある程度予想できるような範囲で絶望的だと理解するというあたりに落ち着くかもしれない。どう見ても自分や自分の仲間、そして生まれてくる新しい世代にとって悪い方向に向かっており、その流れは加速を辿る一方である。

どうだろうか?

こんな心理が今世の中には溢れてなくもない……のではないか。

第四期のエレンは正直言って表情のそれが鬱っぽく見える。いやぽい、ではない。鬱なのだ。

現代の人でさえこんな悲観的主観を抱えていれば鬱になる。


一期の少年時代のエレンでさえ、暇を持て余してはいたもののここまで鬱ではなかった。

もちろん、自分の未来を知った後の彼の幸福度は人生最低ラインに近い。


でもなぜか?

この大元の原因は何か?


それは彼が世界を知ったからである。

彼の知覚する世界が広がり、彼が全力を尽くそうとも手の追えない運命を悟ったから。

さらには、彼が決められた枠組みの中で与えられただけの自由を追い求める籠の中の鳥であった。

人は選択する自由がないと鬱になるのはさまざまな実験で知られている(だが選択肢が多すぎても脳のエネルギーが枯渇し疲れ時には鬱になるクソゲー)。

だから彼は彼の見せかけの自由意志の範囲内で自由にしてみたし、彼が幸せになれないならせめて仲間だけでも長生きできるような選択肢を選んだ。


その点で言えば、彼の最終的な選択はかなりの及第点だったと言わざるを得ない。

これはもちろん人類8割の事実に対してではない。

彼の幸せの枠組みとは、いや、本来人の幸せの枠組みとは、それほどまでに狭いものだからだ。


我々の肉体及び脳はこの大グローバル時代、SNS時代に適応できるように進化していない。肉体のアップデート、つまり進化には本来何億年という時間がかかるからだ。

我々の脳はいまだに部族社会で暮らしていた頃の状態で、一生に顔と名前が一致して認識できる人間の数はおよそ150人。


ミカサアルミン(家族)第一層

>=

調査兵団の仲間達(幸せ絶頂期をくれた人々)

>>

パラディス(生まれ育った場所、アイデンティティの土壌としての恩)

>>


これでもう150人でいっぱいいっぱいなのである。


また、途中でエレンの兄であることが判明したジークにも言及したい。


ジークと(表面上)懇意になる最終決戦近くだが、エレンは彼を堂々と裏切る。もうなんの叙情酌量もなく、はっきりと。

それはまあ、そうなるよねという感じではあるが、他にこんなことを思った人はいないだろうか。


あれ、なんかエレン実の兄に冷たくない?


ジークがエレンに対して、他の人間には見せないような情けや肉親の愛情らしきものをかけるのに対して、エレンは超ドライである。

それもそのはず、ジークは別にエレンの幸福絶頂期を共に過ごした大切な仲間ではないからである。SNSがないこの時代(世界?)、生まれ育った肉体的な距離と精神的な距離は比例する。肉体から離れれば離れるほど、心理的にも距離が生まれる。

ジークはだめ。ジークは家族そのものからの愛に飢えているしあいつ誰も大切な人がいない。だからエレンに先を越されたし、エレンの望みしか叶わない。(戦いは『優しい方』が負ける法則。ジークはエレンにとって『(都合の)良い人』になった)
ジークかわいそうなのはそれはそう。信奉者はいても心から気に掛ける、懐に入れるミカサやアルミンみたいな人がクサバーさんいない。
あいつこそモテても友達いないタイプだよ。
でもそれはなぜかというと元々結構内向的なタイプであることに加え巨人不妊化計画というマーレをも裏切る壮大な計画があったからで、クサバーさんの家族の実例もあり誰も巻き込むことができなかったから。
巻き込んだらその人達捕まるか(祖父母)楽園送りにされちゃう…

なので本来ジークは祖父母や父母、エレンやクサバーさん達に見せるような、愛情深い人間。大義のためには大きく間違えることができる人間で……ジョン・レノン?


話はエレンに戻る。
エレンにとって目に入れても可愛くない(内側に入れるタイプ)家族であるミカサアルミン、肌のほんの外側にある同期、共に戦った仲間達ーーーこれがエレンの世界であり、幸せの根源である。


これをもっとわかりやすくしたのがミカサである。

ミカサに対して信仰心的な重い憧憬を向けていたルイーゼという女の子がいた。かつて彼女に命を助けられ、ミカサに憧れ兵団に入り、戦闘中再び助けてくれたミカサを拝んでいる間に致命傷を負った。

そんな彼女だが、最後のセリフはフレームアウトしそうなレベルでミカサに聞いてもらえなかった。

ここは多くの視聴者が思ったはずだ。


あれ、なんかミカサルイーゼに対して冷たくない?


と。

ミカサはエレンよりさらに幸福の振れ幅と世界が狭い。彼女も彼女なりに上司や調査兵団には敬意があるが、自分の班に対してそこまでの思い入れはない。彼女にとって、世界とはまずエレンとアルミン>>超えられない壁>同期


以上である。
以上であるのだが、流石に目の前で無実の子どもを殺すエレンはどうにかしてるよと思うのは人間として当然である。その頃のエレンは考えていることもわからなかった。

ただ本来ミカサとはエレンよりさらに狭量で、彼のそばにいるためならなんでもするキレッキレの刃であったため、第四期で人類の敵になったエレンを殺りに行く(本人は乗り気ではない)のはブレッブレとまではいかないが、アルミンと同様なんか日和ったような気がして、かたや覚悟ガンギマリマンのエレン派になった読者視聴者も多いのではないだろうか。

(刃物は理由関係なく鈍ったらナマクラ)


ミカサの優先度の順序に関しては本人がはっきりと明言していた。エレンがライナーベルトルトにさらわれた際のユミル(同期の方)に対しての攻撃で、ヒストリアに対してである。
エレンに真の危機が迫っている時、彼女の心には余裕がない。優先度(第一層幸福世界以降の人間に対してどう接するか)が明確に存在し、友人である同期といえど斬る。

これが刃物として輝いていた頃のミカサである。

これに対して美しい…と感じる人間もいや間違っているよと言う人間もどちらもいるだろう。でもエレン側に立っている視聴者からすれば、これほど頼もしい援軍はいない。

唯一幸せゾーン外の人間に対して冷たくないのはアルミンである。(アルミンもパラディスの鈍い一般人に対してはかなり冷たい「視点」を持っている)


これは本来の争いを好まない穏やかな性格、知的さもあるが、彼の豊かな「想像力」が貢献していると私は考える。


Part2 【進化心理学】進撃の巨人から読み解く人生幸福学〜 『世界を救う教』に同期がはまった 〜 に続く。

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