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カバンに想い出。(超短編小説#16)

つり革を掴みながら
外をポーッと眺めていると
湘南新宿ラインはあっというまに渋谷だった。

名前も勤務先も知らない人たちと
肩を並べて同じ棚に荷物を置いて
同じ駅で降りる。

そんな
『今日初めて会った同級生と行く修学旅行』
みたいなものに
ぼくたちは毎日参加しているのかもしれない。


大好きだった彼女と
たくさん待ち合わせして
たくさん遊んで
たくさんごはんを食べて
たくさん体を重ねて
たくさんキスをして

また明日ねと
姿が見えなくなるまで手振った渋谷。


降りるたびに彼女がどこかにいそうで
なんとなくそわそわしてしまう渋谷。

こんなに街の映り方が違うのは
隣にいる人が違うからなのか。


街というのは場所を表現しているのではなくて
人を表現しているのかもしれない。


みんなそれぞれの場所に向けて
それぞれの想い出と切なさを
きっとカバンにしまって生きている。


自然体で渋谷に足を運べる日は
きっとまだ遠い向こうにあるみたい。

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