行動経済学の逆襲 要約⑮
今回は、これまでも登場した「保有効果」に関する具体的な実験のお話です。第16章「マグカップのインスタント保有効果」の要約になります。
【全体の要約】
保有効果に関する実験結果は経済学者から例のように批判を受けたが、その批判をもとにした再実験でも、保有効果は認められた。
保有効果は、変化をきらう「現状維持バイアス」と「損失回避」の2つの側面から説明できる。
1. 保有効果に関する実験と批判
著者は次のような実験を行いました。
被験者を2グループにわける。
Aグループには宝くじを、Bグループには3ドルを渡す。
そして、両グループの全員に一定時間タスクを行ってもらう。
その後、Aグループの人に、宝くじを3ドルで売るかをたずねる。
Bグループには3ドルで宝くじを買うかをたずねる。
結果、Aグループの82%が「宝くじを売らない」と答えたのに、Bグループの38%しか「宝くじを買う」と答えませんでした。
つまり、あらかじめ宝くじを持っていた人たちは、宝くじに3ドル以上の価値を認めたのに対し、宝くじを持っていなかった人は3ドルの価値を認めない傾向にあったのです。
この実験から、「人はすでに持っているものを持ち続けようとする傾向がある」と著者は主張しました。
しかし、この結果は経済学者たちに認められませんでした。
主な批判は、「実験参加者に学習する機会があれば結果が変わってくる」、「買い手と売り手が取引をする市場を想定すれば、このようなふるまいにはならない」といったものでした。
2. 保有効果の追加実験
こうした批判を受けて、著者は次のような実験を行いました。
実験①
44人の被験者にランダムでトークンを渡し、その後交換してもらうという実験。
ただし、トークンの価値は被験者ごとに設定してあり、例えばAさんには「このトークンは10ドルの価値がある」、Bさんは「このトークンは5ドルの価値がある」など、それぞれ伝えられている。
この状態で、44人の被験者のうちランダムな22人にトークンを渡す。その後、トークンを持っている22人に、「6ドルだと売ります/売りません」、「5ドルだと売ります/売りません」のような質問票を渡す。
トークンを持っていない人は、同じようにいくらでトークンを買うかという質問票が配られる。
そして、取引が成立した人同士でトークンの受け渡しを行う。
この実験の結果、当然だが、トークンに高い価値を言い渡された被験者のもとへトークンが集まるという結果になりました。
トークンはランダムに配られているため、評価額の高い22人のうち最初からトークンを持っている人は11人。つまり、残りの11人がトークンの取引を行うので、この実験の平均取引回数は11回となります。
実験②
上記の実験を、トークンを「マグカップ」に変えて行う。ただし、マグカップの価値は各自で決めるものとする。
この実験でも同じように、マグカップに対して評価の高い22人にマグカップがいきわたるような取引が起こり、平均取引回数は11回となるはずです。
しかし、実際の結果は3件となり、予想とは違う結果となりました。
この結果はまさに「保有効果」を示しているといえます。
トークンを用いた実験との比較により、市場を再現しているうえ、同じ被験者に対して繰り返し実験を行ったため、学習もしている状態での実験だといえます。
3. 現状維持バイアス
人は、すでに持っているものに固執する傾向があることがわかりました。この原因の一部は「損失回避」という性質により説明ができますが、もう一つ原因が考えられます。
それが、「現状維持バイアス」です。現状維持バイアスとは、人は変化を妨げる傾向にあるということです。
以上が第16章の要約になります。
次回予告
次回からは、第5部に入ります。次回は、第17章「論争の幕開け」です。
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