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親の介護は突然やってくる。50息子を救う、介護・家族のパーソナルコーチ

「親の介護がはじまりました。どうしたらいいですか?」

私は介護保険外サービス「わたしの看護師さん」を運営していますが、冒頭のような相談がたびたび、電話やメッセンジャーで届きます。

無理もありません。親の介護は「突然」はじまりますから。介護は「事前準備が大切」と至るところで書かれていたり言われていますが、大抵は準備は「不十分」ですからね...。

今回はある1本の電話から、介護・家族へのパーソナルトレーニングがはじまったお話です。

介護の基本は、ご本人やその周囲の「力を活かす」こと。お風呂に一人で入れない、外出に一人で行けないからといって、日常生活を送る上でのすべての行為をご本人から「取り上げ」て、支えることが介護サービスの目指すべき姿ではありません。

高齢者は増え続け、介護従事者が足りない状況の今こそ、本来の「力を活かす」ことを改めて考える必要があると思います。

看護師さんか介護士さんを派遣して欲しい

「神戸さん、看護師さんか介護士さんを派遣してくれませんか?」

はじまりは、50代を目前に控えた49歳の息子さんからの1本の電話から。

詳しく事情を伺ってみると、「認知症の実父を介護している実母が緊急入院するため、実父の見守りに入ってほしい」ということでした。電話をくれた息子さんはリモートで働くことが可能だったため、親のもとへ帰省している。ただ、初めての介護でもあり、不安のある様子でした。

神戸「お父さんはお体はお元気ですか?一人でできないことは何かありますか?」

息子さん「シャワーの蛇口の操作が1人でできないくらいです。認知症はありますが、散歩に行っても帰ってこれるし、毎日決まった時間に食事をするとか、新聞を読むとか、声掛けさえあればスケジュール通りに生活できています」

神戸「お父さんから、息子さんと二人の生活になることで『困った―』という、声はありましたか?実は、一番不安に思っているのは息子さんじゃないですか?(笑)」

親の介護がはじまるときにありがちなのが、子どもや親戚などまわりの気持ちが先走り、食事の準備や洗濯、買い物、外出、身の回りのあらゆることを介護サービスに頼る。転ばぬ先の杖を盛大に用意してしまうこと。一方で親御さんたちは、知らない人が自宅にあがることに抵抗感を示し、ヘルパー訪問を拒否することは少なくありません。

今回の問い合わせでも、オムツ交換や入浴介助、食事介助をしてほしいとお父さんは希望していないし、実際そこまで身体介護が進んでいる様子ではありませんでした。普段から訪問看護や介護も利用していません。その状況から推測すると、お父さんはご自分の生活の中に他人が入ってくることに動揺する可能性が高いです。

今回は近くに息子さんがいますし、寄り添いたいという思いもある。

神戸「そうであるならば、無理に専門家の訪問を選ばなくてもいいですよ。親御さんの介護に関する悩みや相談に乗って、必要な情報を提供します。私たち看護師がリモートで応援する関わりはいかがですか?」

そうして、リモートでの介護のパーソナルトレーニングがはじまりました。

介護・家族のパーソナルトレーナー

介護のパーソナルトレーニングでは、

・日々の親御さんの様子をMessengerで報告していただく
・気になる様子があれば報告いただき、専門的知見から相談にのる
・お父さんの様子はどうですか?なにか心配なことはありますか?と定期的に問いかける

の3つが主な関わり方。親御さんやご自身がおかれている状況を客観視したり、この先に何が起こるか?予測を立てることで、事前に準備することをサポートします。

– 1日目 –

お父さんは日課の散歩を終えて帰宅。妻が入院でいないことを不安がったりする様子はない。穏やかに就寝。仕事の合間をみながら、お父さんの行動を報告してくれる。

– 2日目 –

留守にしているお母さんに代わり、お父さんが普段はやらないお皿を洗い始める。(これこそ自立支援ではないか...!!)息子さんは在宅ワークを続けている。

そして、3日目に依頼していた訪問看護を息子さんはキャンセル。自分たち家族に必要なのは身体介護ではなく、気づかれた様子。介護に不安を抱えている息子自身の精神的なフォローだと言うことを理解されたようだ。

– 3日目 –

昨夜の報告ならびに、今朝のお父さんの様子をMessengerで報告してくれる。お父さんに仕事に行ってくると説明とメモを残し、出勤するも、お父さんのことが気になって、短時間で仕事を切り上げ帰宅したそう。また、在宅ワーク中も父が発する物音がしないと、心配になり、仕事に集中することが難しかったとのこと。

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今回はお母さんが退院するまでという期間限定の介護だったため、息子さんが親のそばにいることができ、息子さんを支援する人がリモート・遠隔地にいても問題はありませんでした。けれど、お父さんの介護度が重くなったり、長期間に渡る介護になると、父と二人きりで生活し続けられるか不安。外部から介護のプロが入り、父と自分を支えて欲しいという気持ちが湧いてくるに違いないーーと息子さんは振り返って話していました。

お父さんはパソコンで落語の動画を再生し、新聞を隅々までチェック、日中は20000歩のお散歩。年齢は79歳。この年齢にしては十分すぎる認知機能...。

なのにどうして、子どもたちは親の介護を不安がるのでしょうか?

それはもしかすると、親の老い方を知らずに戸惑っているから、なのかもしれません。

親の介護に戸惑う、40代後半の男性たち

最近は、親の介護を男性がする、ということが当たり前の世の中になってきています。

けれど。

男性が介護を担う世の中になってきているのに、当の男性たちにその準備ができていないーーのが現状ではないでしょうか?

親の介護と向き合いはじめる40代後半以上の男性たちは、学校教育では家庭科を受けてこなかったし、(​​高校の家庭科は94年に男女共修になりましたが、それ以前は女子だけが必修でした)家では父親が仕事をしていて、母親が家事や育児、家庭のことを一手に担うのが多数派。親の背中を見てきているので、「まさか自分が親の介護をするなんて」とは思っていなくても当然といえば当然かもしれません。

心の準備ができていないので、いざ親の介護に直面すると戸惑い、動揺してしまいます。

そして危ないのは、介護を自分たち・家族だけで抱え込んでしまうために仕事を辞めて自分を犠牲にしながら介護をする介護離職や、不満やストレスが親御さんへ向かってしまう、高齢者虐待です。

(令和2年度 高齢者虐待防止法に基づく対応状況等に関する調査結果(鳥取県分))

家庭内での高齢者虐待は、夫や息子が過半数を超える統計が出ています。鳥取県のデータですが、夫と息子をあわせて実に63.1%を占めています。要因は様々ですが、ストレス・介護疲れが最たる理由だと指摘されています。

老いていく親に戸惑い、介護のストレスを一手に引き受けてしまう子どもたちへ、親の老い方や介護との向き合い方を伝える必要性があると、強く感じます。

厚生労働省「国民生活基礎調査(H28)」

ご本人・ご家族の潜在能力を引き出す

お母さんも退院された数日後談ーー。

妻の入院を機に初めて行った家事は、今も継続して行っているとのこと。また散歩先から今まで見たことがなかった「スマホでの発信」を妻に行い、「夕飯買って来るが何がいい?」というやり取りをしているようです。

駅への帰り道で散歩帰りのお父さんとすれ違ったとき、キチンと夕飯用の弁当を2つ買っていらっしゃった姿を発見したときは、親の変化に不思議な感情を抱いたそうです。

私自身、この出来事にはとても感激しました。

自分の生活習慣を変えるのは若くても大変です。加えて御年80歳を目前に控えたお父様、認知症もあると聞いていましたので、妻のいない日常生活は不安や負担があったと想像します。

にもかかわらず、病気だった妻を労わらなきゃという愛情や息子さんのサポートにより、日常生活を問題なく送るだけでなく、慣れない家事をし続けることに繋がったのでしょう。

家族ではない看護師から家事やパソコン操作を褒められ、自分は何もできないご隠居さんではないーーと強く自覚されたことも、その行動の後押しに少なからずなったんじゃないかと思います。

突然向き合うこととなった「親の介護」動揺する50代を目前に控えた男性。
この息子の立場である男性をパーソナルトレーナー的に看護師が支えることで、はじめての親の介護に戸惑う気持ちに寄り添い、孤独にならずに父親を見守ることができました。

介護サービスがすべてを取り上げ親御さん自身の「できる力」を奪うのではなく、親御さん自身の潜在的能力を伸ばしつつ、本人たちのペースで生活できるような形をつくっていくこと。家族の状況や希望にあった形をつくることができるのは介護保険外サービスだからできることであり、その場に看護師が居合わせなくても、遠隔で親の介護をサポートすることができる。そんなことが実証できた、親子のお話でした。

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