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【前編】Life Quest~釜石で〇〇する人たちの多様な生き方~第7歩目「ホースセラピー」×黍原 豊

本記事は、岩手県釜石市で人生を探求し生き方を自分でつくることに挑戦し、様々な活動に取り組むゲストの生き方に迫っていくイベント型オンライン番組『Life Quest』の内容のアーカイブ記事になります。       
今回は、2020年8月24日に実施された第7歩目「ホースセラピー」に取り組む黍原 豊さんをご紹介します。実際の放送については、こちらよりご覧ください。

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ゲストプロフィール:黍原豊/愛知県出身
一般社団法人三陸駒舎 理事、現場総括責任者
2001年岩手大学農学部修了。在学中は、山村集落に通い詰めたり、クマの追跡調査など、大学よりも山で多くの時間を過ごし、岩手の魅力にどっぷりとハマる。就職活動は全くしないまま、卒業後は岩手に残ることだけを決める。NPO法人岩手子ども環境研究所、県立児童館いわて子どもの森を経て、2013年4月から今年5月まで、釜援隊として復興まちづくりに携わる。釜石で活動する中で、地域固有の文化再生と継続的な子ども支援の必要性を感じ、三陸駒舎を設立。

わたしの「ホースセラピー」


なぜホースセラピーをやっているのか

黍原)最初に釜石に来たのは2013年でした。まだその時は、仮設住宅がたくさんあって、子どもたちの居場所づくりのお手伝いをしていました。そこで出会った子供たちが仮設住宅で大きな音が出せないなどの状況で、感情を押さえ込む子が多くいました。本当に大変な状況で子どもたちは日々過ごしているんだというのが最初に持った思いでした。

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黍原)岩手県の教育委員会が子どもたちの心の状況を調査しているんですが、岩手沿岸でトラウマ反応のある小中高生の割合を調査してみると、約7人に1人がトラウマ反応があるということが分かりました。

黍原)子どもたちが安心して過ごせる場所を、どうしたら作れるかと考えている時に、に出会ったのが「馬」でした。たまたま、知り合いの知り合いが馬の活動をしていて、仮設住宅に馬を連れていったのが最初です。そこで、馬と子どもたちが出会うと、子どもたちが本当に開放されて元気になっていく様子が分かったんです。これは大人が子どもの心のケアをするよりも、馬にやってもらった方が効果があるというのを感じました。


黍原)さらに、地域を馬に乗りながら散策をしたんですが、その時に地域の方が「懐かしいね」と言ってくれたんです。もともと馬とともに暮らしていたのが当たり前だった、という歴史があって、馬が来れば地域の人の過去の記憶が蘇って、地域の文化を復活させて伝承させていくことができるんだと思いました。

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黍原)このように、馬が心のケアになるということと、地域に馬と暮らす文化があるということ、持続可能な地域形成、コミュニティビジネスという点でホースセラピーをやっていこうと決めました。
そうして地域で馬と暮らしていた古民家を見つけて修繕し、2016年の4月にホースセラピーを開始しました。

ホースセラピーを紐解く 

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黍原)まずは馬の暮らしから説明していくと、馬は他の草食動物と違い、ツノや牙を持っていません。そのため「走って逃げる」という性質があります。馬は安心・安全を求めて生活しています。


黍原)次に、馬は人を覚えません。そのため、馬は初めての人でもきちんと関わればきちんと返してくれ、誰とでも平等に接することができるという特徴があります。そのような理由から、初めて来た子どもでも適切に関わることができます。


黍原)最後に僕たちは馬を中心に考えています。子どもと関わるときは「こうなってほしい」というような願いにとらわれてしまうと、どうしても「枠」みたいなものができてしまいます。しかし馬が先生であれば、馬に任せることで子どもたちが自発的に成長することができます


ホースセラピーの3つの効果

黍原)そして僕たちがやっているものは「馬の暮らし型セラピー」というもので、そこで馬と一緒に暮らすことは「からだ」「脳・感覚」「こころ」の三つに効果があるといわれています。

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黍原)まず、からだへの効果では「擬似歩行」というものがあります。馬が歩くと馬の背中は動きます。そうすると、乗っている人の骨盤が背中の動きに合わせて動きます。それは、人がとてもきれいに歩行した時と同じ動きであると言われています。馬に乗ることで歩き方が改善され、実際にリハビリテーションにも活用されています。


黍原)次に、脳・感覚という部分では「七感をひらく」「意味のある活動」の2つの効果があります。

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黍原)人間には五感と体の中の情報である前庭覚・固有覚の二覚があります。前庭覚とは体の傾きやスピード感など三半規管で感じ取るもので、固有覚とは筋肉の動きの情報です。馬との活動では、いろいろな感覚を取り入れることで感覚の統合ができます。「七感をひらく」とは、いろいろな情報を脳で処理し、適切にアウトプットすることで脳がうまく使えるようになるということです。

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黍原)馬と歩く練習など機能的な訓練ばかりやっても子どもたちはしんどいと感じてしまいます。ですが、馬を中心に活動をすることで、苦手なことに対しても「馬に乗りたい」という気持ちで努力することができます。馬との生活を通じた「意味のある活動」を中心に提供していくということで、できることの幅も広がります

黍原)最後に、こころという部分では「心でのコミュニケーション」「マインドフルネス」「自らの主体化」の3つの効果があります。

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黍原)空気を読めるというのは馬の持つすごい特徴です。先に馬は安全、快適を求めるという性質があると述べましたが、馬は群れで暮らす中で危険察知をして情報伝達をすることができます。馬は耳や目がよく、相手の感情を感じ取る脳の部位であるミラーニューロンも発達しているとも言われています。そのため、人が心からあたたかく馬に接すると、馬もそれを感じて返してくれるという特徴があります。

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黍原)馬は、先に「人を覚えない」とも述べましたが、過去を引きずりません。例えば、午前中うまく馬に接することができなくても、午後やり方を変えれば馬の反応も変わります。子どもたちはいろいろなことを試す中で失敗もした方がいいと言われていますが、ホースセラピーでは「マインドフルネス」を馬を通じて実践できるというのがとてもいいと思います。

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黍原)そして、ケアされる側からケアする主体に回るということです。どうしても「セラピー」というとケアしてもらうという受け身のイメージが強いと思います。しかし、馬に餌をあげて食べてくれると、そこで「馬から自分は必要とされている」「自分は役に立つ存在」という感覚を感じ取ることができ、自己有用感・自尊心などを馬と関わる中で育んでいくことができます。それに馬と一緒に歩くときであっても、こちらが合図を送らないと馬は歩いてくれないので、主体性を身に付けることもできます

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黍原)このように、からだ、脳・感覚、こころの3つの効果が合わさってセラピーが進んでいます。リハビリテーションやこころのケアという面はすごく効果が認められていて、アメリカやドイツでは保険が適用されています。
子どもたちと馬と一緒に過ごしていると、逆に大人の方が癒されているなあと感じます

戸塚)ホースセラピーについて動画を交えながら、贅沢すぎるほどお話頂いて、とても説得力がありました。ありがとうございました。写真にあった子どもたちの笑顔は、馬が受け入れてくれるというスタンスだからなんですね!

黍原)はい、本当に馬に委ねて活動できるので、僕自身も気持ちが楽です。子どもに「何かしてあげなくちゃ」というような気負いがありません。そういう部分では関わっている大人も解放されます。

戸塚)前半に、ホースセラピーについてなど取り組みの紹介をしていただきましたが、後半はそこに至るまでの黍原さんの人生などを深掘っていきたいと思います。

ー後編では、黍原さんご自身の人生について探求してきます!

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