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【マンガ感想】『ぱらのま』4巻 (著・kashmir)

お気楽な気持ちで旅行に行きづらい状況になってしまった昨今、旅行好きの皆さんは様々な代替手段で旅行欲を鎮めていることでしょう。

私も気楽な一人旅や、特に大きな目的も無い街歩きが好きなのですが、今はなんやかんやで実現が難しい。

そのような中、旅行気分を味わえるマンガとして愛読している『ぱらのま』の最新4巻が発売されたので早速購入しました。

以前も感想を書きましたが、本当に自分の旅行に対する価値観のストライクゾーンど真ん中を突いてくる、最高の旅行マンガです。


前置きとして改めて説明しておくと、『ぱらのま』は白泉社のコミック誌『楽園』で連載中のkashmir先生による旅行マンガです。

『楽園』は、これまた私が大ファンであるpanpanya先生のマンガも連載されているという偉大なる書籍。

楽園編集部には足を向けて寝られません。

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(引用:『ぱらのま』 4巻 / 白泉社 / kashmir / p.27)

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1~4巻の公式紹介文を引用すると、

「残念なお姉さん」と共に巡るオトナ力無駄に発揮な鉄道小旅行の数々。「乗り鉄」「撮り鉄」等、鉄道好きも様々ですが彼女は素直に「旅鉄」です。(1巻)
「残念なお姉さん」と共に巡るオトナ力無駄に発揮な鉄道中心の公共交通機関を駆使しての小旅行の数々。思い立てばその日こそいい日、旅立ち。(2巻)
18きっぷあるあるから人類の夢・温泉巡り、思いがけない「聖地巡礼」から株主優待使っての突発小旅行まで、公共交通機関を駆使して楽しむ旅満載。(3巻)
女の子がぷらっと気ままにひとり旅なお話を読み切り形式のエッセイ風味コミックで綴る大人気シリーズ(4巻)

という感じ。

内容は上記の通りなので、この紹介文で何かしら自身の感性に訴えるものがある人であれば、もう何も言わずに『ぱらのま』を読みましょう。

こんな雑文を読んでいる場合ではない!

メインは公共交通機関(主に鉄道)を駆使した旅ですが、旅行とまではいかないような都内の有名スポット巡りや、ちょっとしたお出掛け等もある、総じてゆるく楽しめる旅行マンガです。


今巻では山陰地方へ旅行に行ったり、東京の歴史スポットや坂道を巡ったり。

その他にも、一之江駅→二重橋駅→三田駅・・・と数字駅を辿って、ICカードの履歴印字でうまいこと数字を並べるチャレンジなんかも。

2巻でも、GPSで都内に五芒星を描くチャレンジをやってましたね。

普通の旅行マンガで山陰地方となれば、大体は超有名スポットである出雲大社がメインになりそうなところですが、そこは『ぱらのま』。

出雲大社にも寄りますが、それよりも旧大社駅の描写が印象に残ります。

この旧大社駅の描写に限らず、本作は全体的に旅行描写がどことなく詩情的で秀逸なのです。

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(引用:『ぱらのま』 4巻 / 白泉社 / kashmir / p.74)

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そして、主人公の独特な価値観や視点を通じて出てくるモノローグが、読んでいてとにかく楽しい。

純粋に「自分も旅行に行きたい」と思わせる魅力があります。

この手の旅行モノでは、”主人公(の価値観)に共感できるか?"という点が気持ちよく読めるかどうかの分水嶺ですが、その点で私はばっちり共感できますね。

今巻で特にグッと来たモノローグの一つが、「旅行先の知らない街の夜を歩く」シーンのモノローグ。

これが実にエモい・・・

知らない街角の散策を愛好する人であれば、この感覚は何となく分かるのではないでしょうか。

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(引用:『ぱらのま』 4巻 / 白泉社 / kashmir / p.36)

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もう一つ、印象に残っているシーンは、「旅行の帰途」について掘り下げた、いつもとちょっと毛色の違う短編。

帰りの電車、景色が見慣れたものに変わっていく、最寄り駅が近付いてくる感覚、無意識に最適解の行動になってしまう家路、そして体が日常に戻る・・・

帰途における心の機微が丁寧に描かれていて、たいへん心に刺さります。

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(引用:『ぱらのま』 4巻 / 白泉社 / kashmir / p.133)

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その他、東京の坂道を巡る回も、たいへん良いですね。

こちらでは一人での旅ではなく、3巻で知り合った学生さんと一緒に東京都内の坂道巡りに出掛けます。

ここはモノローグではなく、二人の会話劇で話が進みので、またちょっと印象が違う感じ。

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(引用:『ぱらのま』 4巻 / 白泉社 / kashmir / p.100)

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ここで語られる”坂道の良さとは?”という会話が、素晴らしいのです。

良い坂道というのは、その道沿いで暮らす人達が醸し出す生活感、街としての調和が”美しさ”に繋がっているんですよね。

その辺りの坂道の魅力については、以前に感想を書いた散歩マンガ『散歩もの』でも描かれていました。

作者のハイレベルな画力と合わさって、読後は東京の坂道巡りに出掛けたくなる逸品です。

東京に住んでいた頃、本作のような感じで東京の坂道を堪能しておくべきだった、と今更ながらに後悔しています・・・


ということで、今巻も「旅に出たい!」と思わせる素敵な旅行マンガに仕上がっていて大満足です。

他にも、緻密な背景や独特な台詞回し、主人公(公式曰く”残念なお姉さん”)がとにかくカワイイ!、などなど語り切れない魅力があります。

いずれ気兼ねなく旅に出られるようになったら、本作を参考にして諸国漫遊したいものです。


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