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【読書感想】『幕末単身赴任 下級武士の食日記 増補版』(著・青木直己)

何年か前から、池波正太郎先生の時代小説にハマったり、歌川国芳の浮世絵展で感動した影響で、江戸時代の文化に関する書籍を読むのが趣味の一つになっています。

特に江戸時代の一般庶民の生活や風習等を紹介する本を好んでいるのですが、今まで読んできたその手の本の中で、一番のお気に入りがこの『幕末単身赴任 下級武士の食日記』 。

2020年で印象に残った本5選で選んだ本でもあります。


時は幕末、江戸に単身赴任していた紀州和歌山藩士・酒井伴四郎が残した日記を読み解く一冊。

酒井伴四郎は下級の武士だったということで、どちらかと言うとその生活は一般庶民に近く、日記の内容が江戸時代の庶民の生活や文化・風習を研究するための貴重な歴史的資料となっています。

本書はタイトルに「増補版」とある通り、文庫化に合わせて新たに発見された資料に関する項目等を追記したものです。

旧版も購入済み&読了しているのですが、改めて増補版を購入して読み返していました。


幕末の江戸で過ごしていた実在の武士、酒井伴四郎。

彼の日記には、日々食べたもの、購入したもの、習い事や観光の記録、そして仕事上の上司に関する愚痴に至るまで、細かく書き残されていたそうです。

酒井伴四郎、現代であればSNSをマメに更新するタイプですかね。

食事の写真を毎日投稿しそう。

江戸時代の文化や時代小説に興味がある身としては、その記載の一つ一つがリアルに感じ取れて面白いのです。

当時を伺うことのできる様々な江戸の街の情景も興味深いですが、それに合わせて酒井伴四郎という人物そのものにも興味が湧いてきます。

ただの歴史書ではなく、ある意味で酒井伴四郎のエッセイを読んでいるような感覚になる。

そこが本書の面白いポイントだと思います。


「食日記」と題されている通り、日記には食に関する記述が多かったようです。

倹約のため、基本は自炊。

ある日はご飯だけを炊いておき、買ってきた総菜で済ませる。

時には外食、一人で蕎麦屋で一杯、仲間と居酒屋で大酔。

観光地に行った際には、倹約を忘れて名物の旨いものを思いっきり楽しむ。

新調した鍋の使い勝手が良くて上機嫌。

ご飯の炊き加減に失敗して凹む。

などなど、現在の単身者とも重なる割と生々しい日々が綴られていて、親近感が湧きます。

武士に自炊のイメージが全く無かったのですが、所謂”参勤交代”の関係で単身赴任していた武士達は割と自炊していたそうで、本書でイメージをひっくり返されました。


そのような感じで、酒井伴四郎を通じて、フィクションではないリアルな江戸の生活を垣間見ることができます。

江戸時代の文化に興味がある方、時代小説や時代劇好きの人には一読を薦めたい一冊です。

ちなみに、グルメ漫画界の巨匠・土山しげる先生の手によって、『勤番グルメ ブシメシ!』としてマンガ化もされているので、そちらもお薦めですよ。



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