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【おすすめマンガ】のんびり気ままに歩くことの幸福 - 『散歩もの』

私はたいして目的も決めず、ふらりと散歩に出るのが好きです。

東京に住んでいた頃は、いつもとは違う道で帰ってみたり、知らない駅で降りて駅前を歩いてみたり、日常的に散歩を楽しんでいました。

この記事を執筆している2020年5月現在、まだコロナ禍が猛威をふるっており、外出に抵抗がある状況です。

そんな中、日常の気分転換や軽い運動として、散歩を習慣にした、もしくは習慣にしようとしている人も増えたのではないかと思います。

そんな散歩を嗜む人におすすめしたいマンガが、『散歩もの』です。


あの大ヒット作品『孤独のグルメ』の久住昌之・谷口ジローのタッグが描く、タイトルの通り”散歩”をテーマにした1巻完結のマンガです。

『孤独のグルメ』の”食事”の部分を”散歩”に置き換えたマンガ、といえばイメージしやすいかもしれません。


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(引用:『散歩もの』 / 扶桑社 / 久住昌之・谷口ジロー p.14)

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主人公は30代半ばの会社員。

(ちなみに、「会社員」・「既婚者」・「酒が飲める」、と『孤独のグルメ』の主人公である井之頭五郎とは真逆のキャラクター造形です)

彼は、ある時は仕事のついでに、ある時は買い物のついでに、ある時は夜中の酔い覚ましに、気ままな散歩を楽しみます。

そして散歩の中で、過去の思い出に浸ったり、遥か未来に思いを馳せたり、そして時には人生について思いを巡らせていくのです。

『孤独のグルメ』と同様、主人公について深く掘り下げるわけではなく、濃厚なドラマや事件があるわけでもなく、ただただ彼の”日常の散歩”が一話完結で描かれます。


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(引用:『散歩もの』 / 扶桑社 / 久住昌之・谷口ジロー p.20)

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『散歩もの』の主人公の散歩風景は、散歩を趣味にする者にとって共感の嵐です。

散歩を愛する人であれば、”初めて歩く道が自分の知っている道と合流した時の高揚感”、"思わぬ名店を見つけた時の喜び"等、一度は経験があるでしょう。

良き散歩というのは、得てして知的好奇心を刺激してきます。

そのせいか、散歩をしている間、頭が冴え渡るような感覚に包まれることも多いような気がします。

散歩中に、過去や未来、仕事の悩み、果ては人生論等、いつの間にか何やら壮大な思考が頭に渦巻いた経験がある人も少なくないはず。

そんな散歩の醍醐味を、このマンガから垣間見ることができます。


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(引用:『散歩もの』 / 扶桑社 / 久住昌之・谷口ジロー p.82)

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このマンガを読むと散歩に出たくなります。そして散歩の中の、一つ一つの小さな発見が楽しくなります。

原作者の久住昌之先生は、本書のあとがきで下記のように述べています。

主人公は、散歩を「意味無く歩くことの楽しみ」と考えている。だからボクもそうして歩くことによって、実際に予期せぬことが起こるのを、毎回のマンガの核にしたいと考えた。 (引用:『散歩もの』 / 扶桑社 / 久住昌之・谷口ジロー p.88)

作中でも、主人公が「自分の好きなようにのんびり歩けることの喜び」を語るシーンがあります。

そう考えると、常に意味や目的を問われ効率化を求められがちな昨今、散歩とは実に贅沢な趣味なのかも。

もしくは、「散歩を楽しむ」ということは、自分が幸福だということを確認できる行為なのかもしれません。


日常で散歩を楽しんでいる方々、これから散歩を習慣にしたいと考えている方々に、一読していただきたい一冊です。

『孤独のグルメ』が読者の食事に対する価値観に影響を与えたように、あなたの散歩の価値観にもちょっと変化を起こすかもしれません。



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