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文化財たる建築の保存・再利用について


長〜い前書き

こんにちは。ライターの「じゃがいも図鑑」です。

東京オリンピックの開催による好景気(いわゆるオリンピック特需)は、コロナウイルスの世界的な蔓延により期待を大きく下回るものになりましたが、それでもその影響は非常に大きいものでした。

特に影響を受けた分野のひとつが町づくり・建築業界です。新国立競技場をはじめとする五輪関係施設の新設にとどまらず、大量のホテルの新規オープンや銀座SIX、ミヤシタパークなど新たな街のランドマークの登場など凄まじいまでの建設ラッシュが続き、その影響がとても大きいことが分かります。
皆様のまわりでも1つ2つは思い当たるものもあるのではないでしょうか。

目にもとまらぬスピードで更新が進む東京の町ですが、その行く先は必ずしもピカピカの建物にあふれる近未来都市ではありません。
例えば下町情緒あふれる台東区周辺は、近年「東京のブルックリン」と呼ばれる蔵前を中心に、中古物件や倉庫をリノベーションした店舗が増加し人気のエリアとなっています。
また、日本を代表する高級商業地である銀座でも、世界的に著名な建築家ユニットであるHerzog & de Meuronがデザインを担当したリノベーション建築「UNIQLO TOKYO」がオープンするなど、新築だけでなく、古い建物の保存・再利用にも注目が集まっていることがうかがえます。
このように東京は新旧の入り混じる町として、より魅力的に進化を続けています。

ところで、前述のように建物の保存・再利用は町の魅力向上のための非常に有効な手段のひとつですが、一方で歴史的・文化的に価値の高い建築が保存・再利用されることなく、町の更新の流れの中で取り壊されてしまう例も数多くあります。
実際古い建築は、今の使われ方には合わない設計であったり、老朽化のため維持・管理や改修に多額のコストがかかったりと、その保存・再利用には越えなければならない高いハードルがいくつもあるのです。

建築は、絵画や彫刻、小説、映画と同じ文化財です。
建築を愛する筆者個人の意見としては、特に歴史的・文化的に価値の高い建築は可能な限り保存・再利用してほしいと願いますが、前述の通り保存したくてもできないケースがあるのも事実です。
また、名建築と言われているからといって安易に保存を選択するのではなく、様々な角度から本当に保存が合理的なのかを検討したうえで判断することも必要だと思います。
しかし、重要なことは、その町に暮らす人が自分の町に建つ建物に関心を持ち、その保存・再利用の是非の議論に何かしらの形で参加することであり、このプロセスを積み重ねが町全体の魅力を向上につながると私は考えています。

そこでみなさまが自分の住む町、そしてそこに建つ建築に目を向けるきっかけとして、5つの建築をピックアップしてみました。
どれも日本の建築界の巨匠により設計された文化的価値の高い名建築であり、古いながらも様々な形で現在も使用されているものです。
また立地や建物用途から、比較的見に行きやすいもしくは利用する機会があろうものを選んでいます。
(それぞれの建築の住所にGoogle MapのURLをリンクしていますので、合わせてご覧ください)

1.東京文化会館(1961年竣工)

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(写真-WIkipediaより引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/東京文化会館)


設計は前川國男、有名なル・コルビュジエの3人の日本人の弟子の1人です。上野公園の一角に建つ芸術文化施設で、向かいにはコルビュジエ設計の西洋美術館が建っています。コンクリートによる重厚かつダイナミックな庇とその下部のガラスに囲われた透明性の高いロビー空間は、建設当時の「公共建築とはかくあるべし!」をとても分かりやすく表現したデザインです。またコンクリートに映える赤・青・黄の原色を用いた配色にはコルビュジエの影響がみられます。上野公園にはには多くの文化施設・名建築が並んでいますが、上野公園の玄関口に建つにふさわしい名建築です。


https://goo.gl/maps/WFd4ifrqWygCUxA19
東京都台東区上野公園5-45


2.目黒区役所(1966年竣工)

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(写真-WIkipediaより引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/目黒区役所)


設計者は村野藤吾、他には日比谷通りに面して建つ日生劇場を設計しています。外壁の特徴的な繊細な縦格子(ルーバー)が非常に繊細で美しい建物です。またエントランスに設置された柔らかな曲線を持つ庇や村野の得意とする美しい階段なども見どころです。もとは生命保険会社の本社ビルとして設計された建物ですが、この会社が経営破綻した際に目黒区が買取り庁舎にコンバージョンした保存・再利用の事例の中でも珍しいものです。


https://goo.gl/maps/KHBuxgtgiRuHWkSFA
東京都目黒区上目黒2-19-15


3.カトリック目黒教会(1955年竣工)

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(写真-カトリック目黒教会HPより引用:https://tokyo.catholic.jp/archdiocese/church/tokyo/16317/)

設計者はアントニン・レーモンド、戦前戦後にかけて日本で活躍したのチェコ人の建築家で、日本人建築家に大きな影響を与えました。この建築は目黒駅から徒歩3分ほどあの位置に建つ教会建築です。デザインと音響性能などの性能の両立を、徹底した合理化により低コストで実現した傑作です。鉄筋コンクリート打ちっぱなしの静かで重厚な空間に壁面のスリットから象徴的に差し込む光により生み出される陰翳は、モダンでありながらも教会にふさわしい神聖な雰囲気を演出します。


https://goo.gl/maps/Zg2VroyiPCSfTL4F8
東京都品川区上大崎4-6-22


4.中銀カプセルタワー(1972年竣工)

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(写真-wikipediaより引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/中銀カプセルタワービル)


設計者は黒川紀章、他には国立新美術館の設計を担当しています。それまでヨーロッパ・アメリカが中心だった当時の建築界において、日本の存在感を高めた建築運動「メタボリズム」を体現した建築の1つです。壁面の計140個のカプセルは、それぞれが時代の要求の変化などに合わせて取り換えが可能な住居であり、銀座の首都高沿いに建つこの建築の特徴的な外見を生み出しています(なお、実際には竣工以降住宅カプセルが交換されたことは一度もありません)。現在は、一部の部屋にAirbnbで宿泊することが可能です。


https://goo.gl/maps/dmortRRxmNNjTMK88
東京都中央区銀座8-16-10


5.ヒルサイドテラス(1969年:第1期~1998年:第7期竣工)

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(写真-wikipediaより引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒルサイドテラス)

設計者は槇文彦、他には青山に建つスパイラルを設計しています。1969年竣工の第1期から1998年竣工の第7期までで1つの建築群を形成しており、そのすべて槇文彦が設計しています。街路から建物群の間の隙間、そして建物内部へと連続する空間が代官山の町に適したヒューマンスケールで形作られ、都市空間と建築空間の一体感を生み出しています。現在の代官山の町づくりを牽引した建築であり、単体の建築が町全体に影響を与えた代表的な例と言えます。


https://goo.gl/maps/EAvXqeu5bk3D4gQf7
東京都渋谷区猿楽町18-8ほか


ちょっと短い終わりに

建築は、いかに保存・再利用の道が選択されようともそれは飽くまで延命措置に過ぎず、いずれは寿命を迎え取り壊されてしまうものです(もちろん寺社仏閣をはじめとする例外もありますが)。
だからこそ、安易にスクラップアンドビルドを選択するのではなく、保存か建て替えかを丁寧に検討することが重要であり、その姿勢は身の回りにある建築に目を向けてみることから始まると考えます。
今回取り上げたものは有名建築家によるいわゆる名建築ですが、これをきっかけにみなさまの周りに建つ建物に関心を持っていただければ嬉しく思います。

たとえ著名な建築家による建築でなくとも、その町の風景を特徴づけるような素敵な建築は町の至るところにあふれています。まずは今日の帰り道、スマホから顔を上げて、周りを見渡しながら歩いてみてはいかがでしょうか。


もし上記のような建築に興味がわいたら、建築の記録調査および保存のための国際組織であるドコモモ(DOCOMOMO Japan)のホームページもぜひご覧ください。

https://www.docomomojapan.com/registration/


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