春の広葉樹の収穫
林業用語に『藪漕ぎ』という言葉があります。
山中の道無き道を進むときに腰鉈で藪を払いながら進む時のことを山師達はそう呼びます。
私の蒸留用の集材現場は今は誰も作業していない作業道の先なので道脇の草が日光を求めて覆い被さる様に道側に繁茂して道が半分くらい埋まり始めています。
私はそんな道草を分けつつ尖った大きな落石を軽トラのタイヤで踏まないように慎重に慎重に進みます。
そして、目当ての樹を見つけると車を降りて腰鉈で藪を払いながらそこまで向かいます。
宮崎の短い春が終わりかけている今現在。緑が勢いを増して山では『やった!夏が来るぞ!!繁栄場所の確保だ!!ワー!!!』って言いながら植物がやいのやいのと新芽だの花だの付けて勢いよく張り出して来ている時期。
私は先ずこの時期に一回目の広葉樹の収穫をします。そして、収穫させてもらう代わりにその木の成長を妨げるライバルとなる木を鉈で斬ったり、絡んでいる蔦を切って締め付け部分を解いたりします。鉈で伐る樹は割り箸ほどの太さから最大で私の腕くらいの太さのものまであります。すんなり切れるものから蔦のようにビヨビヨしていていて鉈の刃がかかり難い物やしなりが斬り難い方向へ向いていて細くても中々切れない植物など色々なものがあります。ウツギやニワトコなどは比較的に斬り易いですが繁茂するその数と勢いが凄まじい。更に斬り落とした後の切り口が目に刺さらないかの最新の注意を払いつつ作業をしければなりません。これが結構気を使います。
こうして一日中鉈を振り回し歩くので次の日は腕の付け根の脇の部分が酷く痛み、寝返りを打つのにも唸り声を上げながら…という程です。
写真にあるカナクギノキを収穫するのに間違いなくこの10倍は細い木や蔦を切ります。山から降りる頃には分厚い布地のツナギも難なく突き通す鋭い薔薇や野苺の棘などで身体中が擦り傷だらけです。時には粘土質のツルツルとよく滑る斜面から滑り落ちて気がつくと身体に大きなアザが出来てるなども度々。
でも今はまだミツバチ以外の蜂と藪蚊とダニが居ないだけ有難いです。九州は熊も居ないので更に有難いです。
そんなこんなして収穫して来たこの葉っぱを今度は薪火で蒸留します。
でも蒸留のその前には鉈を使って枝から葉っぱを切り離す作業をします。
一日中、危険な山道を運転しながら、全身を眼にして一種類の樹を探し回る。(その集中の仕方は一流の美術館で絵画や彫刻を見る時と同じくらい)藪漕ぎをして歩いたその後、下山してからのこの作業は集中力が途切れた私には地味にキツい。
でも、収穫したその日の内に処理してあげないとダメだからやる。
山の仕事と藪漕ぎは切っても切り離せないものなのです。
でも、このキツイ作業の先にあるものが見えているので私はこの作業も乗り越えられるのです。
つづく
※林業界でよく聞く話しですが、真夏のこの藪漕ぎのように草を刈り続ける”下草がり”という作業があります。この作業を経験した後に多くの若者がその辛さに負けて離脱していくそうです。真夏の炎天下でのこの作業は通常、熱中症の危険を避けるため夜明け前の空が明るくなり始めた時間から始めて一番暑くなる14時前には終了するそうです。
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