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#008 『もえぎ草子』(4) ~紙の物語、紙の本~

Radiotalk『架空の本屋ラジオ』
#008 『もえぎ草子』(4) ~紙の物語、紙の本~

『架空の本屋ラジオ』~~~。
たぶん、八回目くらい~~~。
いらっしゃいませ、ごきげんよう、えまこです。
回数ぐらいは覚えていようと思います。はい。

ここまで『もえぎ草子』という物語のご紹介をずっと、してまいりました。
平安時代の厳しい身分差のある社会を、萌黄(もえぎ)ちゃんという12歳の女の子が、紆余曲折を経てどうにか自分の力で生きていこうというふうに前を向きながら、ひたむきに頑張っていく物語です。
ってそういうようなことをお話ししてまいりました。
平安時代の中でも『枕草子』とその著者である清少納言さんが登場するという点も、大変心惹かれる物語です。

そして、萌黄ちゃんとなんだかんだ共にある、影の主人公ともいうべきアイテム、『紙』。
手漉きの和紙ですね、この時代ですと。
物語の、折り返してクライマックスのあたりに近づくと、萌黄ちゃんがこの手漉きの紙を作る工房に訪れまして、紙を作るところを見るっていうような場面が出てきます。
これが最終的に萌黄ちゃんの行く先、選ぶ道を左右する出来事になるんですけれども。

この紙漉きに関して言うと、子どもの頃におもちゃで『紙漉きができるセット』っていうのがうちにありました。
サンタさんが持ってきたんですけど。
ちゃんと、職人さんが使う紙漉きの道具を、ミニチュアにして模したようなセットになっていて、全部プラスチック製ではあるんですけど。

手回し式のミキサーみたいなものと、プラスチックの枠と、それに金属の網が敷いてあって。
最初に手回しミキサーの中に、ボックスティッシュからティッシュをシャッシャッと持ってきて、ちぎって入れる。
水と一緒に入れて、がちゃがちゃミキサーを回すと、紙が水に溶けて、ちょっとトロっとした液体が出来上がるんですね。
これを、網を敷いたプラスチックの枠の中に注ぎ込む。
これで型抜きしたような状態になるんですけど、枠をパッと取ると網の上にはがきサイズの、そのトロっとした液体が残るっていうふうになります。
これが渇くと手で漉いた紙のはがきができますっていう、そういうおもちゃでした。
なかなか、目の付け所の面白いおもちゃだと思いますが。

これを、新聞紙でやったりマンガ雑誌のページとかでやったりもできるんですね。
ティッシュよりは硬い紙なので、液体状にするまでにちょっと時間がかかったりとかはするんですけど。
新聞紙だとインクが黒かったりとか、マンガ雑誌だとページ自体に色がついてたり、あとインクもカラーインクだったりとかするので、仕上がった紙の色が違うんですね。
新聞紙だとちょっとグレーがかった紙になっちゃうので、あんまり可愛げはありませんでした。
でもそういうおもちゃがあって。
紙漉きについてはひととおり体験したことがあるような気分で話を読むことができました。

で、まぁ、水を使う作業なので……私も家では風呂場でやったんですけど。
『もえぎ草子』の本の冒頭に、資料のページというか解説のページがあって。
平安京の地図、簡単な地図とかがちゃんと載っています。
この中で、紙を作る工房『紙屋院』という場所が、平安京の外に描かれています。
水を使う作業っていうことで、紙屋川っていう川が流れていて、このほとりに紙屋院っていうのがあったようですね。

水を使う作業っていうのは、重たいし冷たいし、作中でも冬にやる作業が多いってふうに言及があるので、本当に大変な、重労働だったと思います。
こちとら北海道民ですんで、寒さに関してはちょっと、お任せくださいって感じなんですけれど。
本当に大変な作業だったと思います。
職人さんの手作りの品っていうようなことも、こういう重労働だったっていうことも鑑みますと、その結果出来上がった紙が高価なものだっていうふうになるのは本当に納得のいくところではあります。

ただ、ずっと書かれてきた平安時代の身分差社会っていうものを思うと、エライ人達・身分の高い人たちは、職人さんたちがどんなに苦労して作っていようとそんなことは知ったこっちゃないのかもしれないなっていうような気持ちにもちょっとなったりはします。はい。
あんまり、可愛らしい考え方ではないんですけど。

こうしてこの、紙漉きの工房を見るっていうことがあって、それでやっと萌黄ちゃんの先行き、歩く道に安心感のある希望の道が見えたような気持ちになることができます。
このことが彼女の未来を、一応決定づけるような出来事になるわけです。

このときに、やっと、安心して萌黄ちゃんをお任せすることのできる大人が出てきます。
やっと出てきます。
この出会いがあったことで、「ああ、よかった、もうこれで大丈夫でしょ、いくらなんでももう大丈夫でしょ、安心しておねえさんは萌黄ちゃんをこの人にお任せして本を閉じることができます、ああよかった」っていう気持ちに、やっとなることができました。

やっぱりこの、一人で生きていこうとする、自分の才覚を頼りに何とかしようとするっていう。
この努力ができること、ひたむきさっていうのは萌黄ちゃんの静かな、あんまり目立たないけれど彼女のいいところのひとつなんだろうと思うんですが。
なんかやっぱりこう、もしもの時のために頼れる大人がいてくれることの、周りの人間からする安心感、半端ないですね、はい。
まぁ、彼女はそうやって仲のいい人たちっていうのがいたにせよ、ちょっと孤独の陰がチラチラチラチラずっとしている女の子だったので。
これで、自分でもやりたいことができた、頼れる人も見つかった、心配事が少なくなって、それでなんかこう、ちょっとずつ幸せになっていってくれたらいいなぁっていう気持ちで、最後は彼女とお別れをすることができます。はい。

うーん……この、安心を得るまでがちょっと長い読書でしたね、はい。
だから、萌黄ちゃんと一緒に、一緒に大変な道を歩いてきたね、っていうようなこう、心地よい疲労感のようなものが心のどこかに残っている。
疲労感っていっても印象の悪いものではないんですよ。
ああ~……読んだ~……。
彼女の暮らしてきた、生きてきた、選んできたこの時間を、私は一緒に過ごしてきたぁ~……っていう気持ちになります。はい。

このあと、幸せになってくれたらいいなぁーと願いながら、最終ページをパタッと閉じ。
で、こう、ページをですね、全部引っ掴んで、バラララララッとこう……(ページを高速でパラパラする音)
こう……音聞こえます? ちゃんと入ってるかな。こう……
ダーッとページを、ワーッとめくっていくと。

これハードカバーの本なんですけれど、表紙の硬いいちばん上の紙をこうパラっとめくると、色紙が貼り付けて……一枚遊びの表紙が入ってるんです。
これを『見返し』とか『遊び紙』というふうに呼びます。
で、これをさらにめくると中表紙があって目次があって、というふうになっていったりするんですけど。

この見返しが、このもえぎ草子の場合はちょっと深めの緑なんです。
きれいな色で。
これもしかしたら、萌黄色に近いかもなっていう感じがします。
で、さらにこの緑色のページをもう一枚めくると、ちょっと薄手のピンク色の紙が入ってるんですね。
で、それをめくると中表紙なんですけど。
この、ピンクと緑の色合わせ。
これが、こう読み終わってページをパーっと繰ったときに初めて手の中に現れたんです。
読み始めたときにめくって、それぞれ見ているんですけど、この重なった状態で見たっていうのが、読み終わった直後だったんですね。

これがまぁ、まぁ美しくて。
ちょっとドキッとしました。
これはあの、ブックデザインの仕掛けですね。
『紙が主役級である物語』の、記された紙の本をどうかたちづくるかっていうデザインの仕掛けが、こんな感動を伴って最後にやってきた。
この本の手の中に感じる心地の良い重たさ、この色合わせのちょっと古色蒼然とした感じもある美しさ。
あのね、あれです、ひし餅をちょっと枯れた感じにした色なんですけど、まぁ―美しいですね。
ああ、これは、紙の本で読むからいい、だから紙の本っていいんですよね。

まぁ私、電子書籍のデバイスって持ってないので……
友達に借りてちょっと読んだぐらいしか経験がなくって、電子書籍については何か言えるほど知らないんですけれど。
でもこれは、現物を、もので手に取ってページを一枚いちまいめくって読むっていうことができた、それがすごくよかったなぁっていう感動で最後に閉じることのできた本でした。
こんなに物語と、イラストレーションと、装丁・ブックデザインが調和した本っていうのはなかなかないなぁと思います。はい。

……もう一回続こうかなぁ……
続くっ!

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