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ばあちゃんの恋バナ

亜弥の実家は広大な土地を持つ地主だ、
代々稲作を中心に専業農家を営んでいたけれど、おじいさんの代でメロン農家に転向、
周囲は転向に大反対だったそうだ。


会社の同僚の彼女とは馬があい、よく家にお邪魔していた、家族だけでなく他の人も使ってメロン農家を経営している家は人の出入りも多く、招き入れる事に慣れているため大層居心地よく過ごさせてもらったものです。


私は彼女のおばあちゃんが大好きで、行くと必ずおしゃべりをした、話をしている時もメロンにシールを貼ったり、出荷する箱にゴム印を押したり、細かい作業をしながら、


「私でも役立つ事があるうちは、有り難く働くよ、給料なしのただ働きだけどねー」


「迷惑かけるとみんなが大変だから身体のためにも、背筋をシャンと伸ばしてな」


カラカラと笑いながら話すばあちゃんの話は、優しい気持ちにさせてくれる、頭の回転が速く気が利いて、出しゃばらない、そんなだからみんなから慕われてる。
色白で鼻筋が通った横顔は美人な同僚にそっくりだ。


ある日、話題は恋愛の話に、
ばあちゃんの恋バナを聞いてみたくなった。


「亜弥のばあちゃんって、若い頃モテたでしょ?恋愛の話聞きたい!」


手紙をもらったり、待ち伏せされたり、
そのせいで同性に意地悪された事もあったらしい。


「やっぱりモテてるじゃん、すごいねー」


「昔は親の言う事は絶対で逆らえなかったから、好きな人はいたけどこの家に嫁に来たんだよ」


何でも、おじいさんが美人なばあちゃんの事を気に入ってしまい話をどんどん進めてしまったらしい。
そんなおじいさんだから仕事にも積極的で新しい事を取り入れたがり、又農家のイメージを変えて、単価の高い作物を作りたかったそう。


「メロンってかっこえーだろ?周りに作っとる農家もなかったから早いもん勝ちだ」


やり手なおじいさんのおかげで、たいそう儲かったらしい。美味しいメロンを求めて有名な果物屋さんが直に仕入れに来るほど、
今だってガレージには高級外車が並んでる。
ばあちゃんも恩恵はうけていて、小ざっぱりした髪型とセンスの良い服、
一般の人が思い描く農家の人のイメージとは違っていた。


ひとしきり色々な話を聞いた後、最後にばあちゃんはこう言った。


「私は本当はおじいさんの事好きじゃなかった」


「えーっ!今さらそれ言うんだ」


「丸顔はタイプじゃなかったよ、グイグイ進める人は苦手、人の意見に耳を傾けてない人だったからね我慢するしかない、本当に嫌だった」


「大好きな人がいたけど仕方ない、その人は細面の顔で優しくて素敵だったよ」


「うそだー亜弥ばあちゃん、しかも仏壇の前でそれ言うの、素敵だったってうっとりした顔で言わないでよ もおー」


「天国までは聞こえないから、大丈夫」


えーっ、何それ!
面白すぎる、事もなげに平然と話すから余計におかしくて笑いに笑った、お腹を抱えて大爆笑。


「みんなこの話をすると笑うなあ、でも好きじゃないもんは、好きじゃないから仕方ない、けど何とかなるもんだわ」


亡くなってから随分と経つと聞いたけど…
確か17回忌とかって言ってたはず、
そうか、そうなんだね。
人にはその人なりの歴史がある、
家業が繁盛するように努力した夫を支える妻。

メロン農家になる事やその決断生き方を含めて、おじいちゃんのやってる事は終始一貫している、垢抜けてセンスの良い事や物が好き、カッコイイじゃん。
大変な事もあっただろうけどきっと良い二人だったんだと私は思う。

戦後の日本を支えた世代は、スケールがデカイよその懐の深さが私を惹きつけるのだろう、ついつい話がしたくなってしまう謎はそこだ!多分ね。


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