富はパワー

「富はパワーだと思うんだよね」

そう言い放った私に友達がびっくりした顔で振り返ってこう言った。

「果子さぁ、どうしちゃったの?」

「物言わぬ力があるんだよ富には、お金を使うって事よりも、持っているってだけで説得力があるの、だからそんなパワーがある人が彼だと良いよね」

「確かにそう思うけど、急にびっくりしたよ何だからしくない気がする」

彼女とは旅行に行ったり、合コンに一緒に参加したり、失恋した時は慰めてもらったりと私の事をよく知っている親友だから尚更だ。

当時我が家は祖父も祖母も90歳越え、長生きはめでたい事だけれども、年相応に弱ってきていて、急に高熱が上がって通院や、入院したり退院したりの繰り返しで私や弟は自分の家にいても寛ぐのは気がひけるほど、そして家族全員みんな疲れていた。

だけど父親の姉も妹も口々に、当時入所していた施設を退所して家での介護を希望、
家には祖父もいるのだ、
「お母さんはそんなに弱ってません、家に連れて帰って下さい」
何度も何度もそのやり取りの繰り返しだった。
そこは病院系の施設で直ぐに熱が上がって体調が不安定な祖母にとって安心な場所だと思うのに、どうしてわかってもらえないのだろう?まさに口は出すけど金も手も出さないの典型だよ、そう思うと余計に悲しくなってきたのだった。

その頃はいつもこう思っていた。
我が家に沢山のお金とステイタスがあれば、
父が泣く子も黙るほどビッグネームの会社に勤めて職位も高ければ、こんな事言わせないのにって。
だから呪文のように「富はパワーだ」
そう言い続けていた。

祖父も祖母も亡くなり、しばらくたった頃、その通りの彼が私の前にやってきて付き合う事になった。
けれど付き合うのは、しんどかった。
物言わぬ説得力で守ってはもらえたけれども、富はパワーだと強く思っている彼とは価値観が合わなかったのだ。

自分が大切に思う事を同じように相手も大切だと思っていると仲良しでいられる気がする、何かひとつに強く偏り過ぎているのは危ういし、もろい。
やっぱりバランスなのだなぁ、心からそう思う。


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