マガジンのカバー画像

指先いらずのおかきもの

6
大きなスマホならスクロールすらいらない。 そんなおかきものたち。
運営しているクリエイター

記事一覧

一月二三日

 去年を朝日の裏側に、置いてきて二三日。
 夜は回るのが早くなって、雨を目にする時間が増えて、寒さは足早に空を駆ける。
 暗く、うるさく、冷たい夜。肌を擦って灯る熱を、この胸に抱き締める。
 明日、死んでいてはくれないか。この夜がいつまでも朝を拒んではくれないか。あの雨がとめどなく世界を溺れさせてはくれないか。その寒さが私の鼓動を絞めてはくれないか。
 お望みだらけの俺をきっと、振り払うように朝が

もっとみる

幸せのイメージ

 幸せは小さく分けて冷凍保存。イメージとしては製氷器。手のひらで小さく溶けゆくのを見るのも、熱く煮えたぎった心のコップにひとつまみするのも良い。
 あまりに保存が長すぎると、凍らせていたことを忘れてしまうから。1日1個、必ず使うようにしている。使いすぎたってまだまだある。ただ、入れすぎては日常が薄まってしまう。
 過剰摂取とその後の希薄化に揺られながら、待望のやおいうどんに手を付ける。
 今日は少

もっとみる

冬の夜はミントの味がする。
三日月、ベランダ、室外機。履けないサンダルほっぽいて、あたためた牛乳に一口。夜空に向かって吐息をぽつり。
君と話した夜のミント、知らない味に知ったかぶり。あの日と同じ三日月で、感じるのは揺れる室外機だけで。
冬の夜はミントの味。
1人の夜は、なんの味。

友とは人生を豊かにするけれど、
友とは人生に必須な訳ではない。

ただ、泣くのはいつも、友の事。

朝に寄る

 月はまだいるか。なんて考えて捨てる夜。
 早とちりの秋雨か、門限破りの梅雨なのか。分かるのは明日、いやもう今日か。
 きっと夜を巡って,来る朝には雨だろう。

 雲の向こうにまだ、あの月は居るだろうか。

             ……みたいな。

 そんな空想の予定を入れてみる。お蕎麦と髭剃りの間が良い。
 意味の有無は問わないで、人は無意味に意味を持たせられる生物なんだから。
 無意味含めて

もっとみる

軽剥

薄く,軽やかに。私から剥がれていく。
それは、爪痕を残すための白い爪とか。
または、自分を守っていた卵の殻とか。
時の流れに振り落とされた、幼さとか。
心の中で細々と輝いていた、未来とか。
大人になれなかった僕が、剥がれたか。
はたまた大人になる私が、剥いだのか。
考えている間に、それは白く色褪せる。
前は何色だったのか、分からなくなる。
色を探して、考えていた意味を失くす。
何をきっかけに考えた

もっとみる