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【読書】美しき鐘の声 平家物語

 2024年1月30日(火)、本『美しき鐘の声 平家物語(一)~(三)』を読了しました。記録に残すとともに、紹介したいと思います。

■本書について

 『美しき鐘の声 平家物語』は、1万年堂出版から出されている意訳の『平家物語』です。
 著者は木村耕一さん、イラストは黒澤葵さん。
 全三巻で、重要と思われる場面を、木村さんが「意訳」しています。場面によっては「原文」がついていました。
 各巻にそれぞれ副題がついています。(一)諸行無常の響きあり、(二)春の夜の夢のごとし、(三)風の前の塵に同じ。これは、言うまでもありませんが、原典冒頭からの引用です。

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵におなじ。

『平家物語』の冒頭より

 字も大きめで読みやすく、各巻3時間位で読み終えることが出来ました。以下、それぞれの巻の範囲と感想を記載してみようと思います。

 なお、原典『平家物語』の構成は、通常十二巻で、覚一本ではそれに灌頂巻を加えます。

■(一巻)諸行無常の響きあり

(1)範囲→原典の巻一から巻三前半まで

(原典の)巻一から巻三の前半まで、清盛の横暴に始まり、鹿谷事件の顛末を語る。

東京堂出版『平家物語を知る事典』21頁

著名な「祇園精舎」から始まる巻一は、清盛の父忠盛の昇殿から清盛の出世、そして一門の栄華にいたるまでを、巻のわずか五分の一程度の紙数で、きわめて簡潔に記すだけである。それ以降は平家の滅亡に向かって物語がつづられることになる。

三省堂『平家物語ハンドブック』8頁

(2)感想

 私は完全に誤解していました。『平家物語』の前半は、平清盛のサクセスストーリーが描かれると思っていたのです。基本的に平家の滅びを描いた物語でした。
 (木村耕一さんの)一巻目では、清盛に捨てられる白拍子「祇王」の話や、鬼界が島に流罪になった「俊寛」の話が語られ、感慨深く読むことが出来ました。

■(二巻)春の夜の夢のごとし

(1)範囲→原典の巻三後半から巻六まで

(原典の巻三)後半で、清盛の嫡男重盛が死に、それを契機に清盛がクーデターを起こして大臣を流し、後白河院を幽閉する挙に出る。
巻四が、源頼政が反旗をひるがえした以仁王事件。巻五では、京から福原(神戸)への強引な遷都と頼朝の挙兵、富士川合戦や東大寺・興福寺の焼き討ちが語られる。巻六では、異常な熱病による清盛の死が描かれる。

東京堂出版『平家物語を知る事典』21頁を多少加工

清盛の死は巻六に記載されるが、ここまでがいわば物語の前半である。

三省堂『平家物語ハンドブック』9頁を多少加工

(2)感想

老いて子を失うは、枯木の枝なきにことならず。
(年老いてから、子を亡くすのは、枯れ木に枝がないのと同じである。いかに寂しいか、分かるか。)

平清盛の歌。巻第三『法印問答』より。

 原典の巻三後半にて、清盛は嫡男の重盛を亡くします。子を先に亡くす清盛の心情はいかばかりだったでしょうか。重盛は、父・清盛を諫める役割を担ってきた人物であったこともあり、平家一門にとっても転換点の一つだったようです。
 また、巻六では、清盛自身の人柄について書かれている部分がありました。煩悩深く、悪行を重ねる人物として描かれているようですが、ここは、『諸行無常、盛者必衰』という主題と合わせて捉える必要があるように思いました。

■(三巻)風の前の塵に同じ

(1)範囲→巻七から灌頂巻まで

(原典の)巻七から巻九の前半までは倶利伽羅峠の戦い等を含む木曽義仲の話。巻九の後半に一谷の合戦。巻十は重衡、維盛の最期。巻十一は屋島の戦い、壇ノ浦の戦い。巻十二は義経の都落等の戦後譚。そして、灌頂巻では建礼門院(平徳子)の往生が描かれる。

東京堂出版『平家物語を知る事典』21頁を参考にした

(巻七以降の)後半は平家の亡びへの道程が加速度を増して語られることになる。

三省堂『平家物語ハンドブック』9頁

(2)感想

 個人的には、この意訳本の三巻目が一番面白かったです。上記したように、平家滅亡に向けて話は加速していきます。
 私は、本を読むとき、個々のストーリーに一喜一憂してしまうタイプです。しかし、今回、登場人物それぞれの最期の場面を読みながら、軍記物語を読む上で「立派な大将とは何か」といった、偉人伝を読むような視点も大切であることを改めて感じました。
 笛や和歌を嗜む平家の優雅さも、評価する一つの視点のように思えます。軟弱さと捉えることも出来るかもしれませんが。

■最後に

 今回、本書(『美しき鐘の声 平家物語』)を読み、『平家物語』の大まかなストーリーを追うことが出来ました。加えて、以下の2冊を参考文献としてあげておきます。

  • 東京堂出版『平家物語を知る事典』

  • 三省堂『平家物語ハンドブック』

 これらの本には、ストーリー以外にも、成立や背景、主要登場人物の紹介、能や歌舞伎・文楽など他の芸能との関係などが記載されています。
 こうした本を片手に、もう少し難しめの『平家物語』に挑戦してみるのも面白いかもしれません。こつこつ挑戦していきたいと思います

 本日はここまでにしたいと思います。最後までお読み頂きありがとうございました。
 写真は「鐘」で検索し、--- ✂カセットboy✂ ---さんの画像を使用させて頂きました。こちらもありがとうございました。

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