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【読書】『一日に一字学べば…』(著・桐竹勘十郎)

 2023年4月25日(火)、桐竹勘十郎著(聞き書き・樋渡優子)の本『一日に一字学べば…』を読み終わりました。三世桐竹勘十郎さんは、1953年大阪市生まれ、人形浄瑠璃「文楽」の人形遣いです。
 以下、メモを残したいと思います。

■本の題名について

 本書名の「一日に一字学べば」という言葉は、文楽『菅原伝授手習鑑』に出て来る「一日に一字学べば、三百六十字の教え」という言葉から取られたそうです。「一日に一字ずつでもこつこつ勉強すれば、一年に三百六十字覚えられる」という教えで、勘十郎さんの座右の銘でもあると、本の帯に書いてありました。

■全体を通して

 私は初め「文楽の世界にもう少し詳しくなりたい」と思い、この本を読み始めました。しかし、結果的には桐竹さんが語る文楽の世界と、自分の職場や仕事の進め方とをだぶらせながら読む部分が多かったと思います。
 実際、写真には写っていませんが、帯の裏表紙側に「いまに受け継がれる日本人の仕事の流儀」と書かれています。読後に「なるほど!」と思いました。
追記:人間学を学ぶ月刊誌『致知』などにも、桐竹勘十郎さんは取り上げられているようです。(2023年2月号)

■心に残った部分の引用

①仕事面で活かしたいこと

 若い内は縮こまらず大胆に動いた方が良いのでは(良かったのでは)と思いました。また、これからの時代、ますますそうなるでしょうが、「自分で考える人間」になることが必要であると感じました。

うちの親父は人形遣いになった私に、「もっと人形を動かせ」、「限界を覚えるために、めいっぱい動かしてみろ」、「縮こまってはいかん」とよく注意した。どうせ何をやっても叱られるのだ、同じ叱られるのなら、躊躇して中途半端に出すより、思い切り出して怒られたほうがいい、と言うのである。そうしなければ、いつまでたっても、こわごわ人形を遣うようになるからと……。

本書28ページ

師匠方の教えをひとことで言えば、「自分で考えなさい」、これに尽きるのだろう。舞台の上での失敗については勿論、口で注意されるけれども、それ以外のことで普段から“言われ癖”をつけると、そのうち、言われなければできない人間になってしまう。

本書31ページ

 次の言葉を読んで、(ⅰ)師匠ではなくとも良いと思ったら別の人の真似をしてもよいこと、に加え、(ⅱ)職場ではそれぞれのバックグラウンド・持ち味が違うこと、(ⅲ)真似をするのではなく、主体的に行動する人に強みを感じる時があること、など考えさせられました。

入門して早い時期に、師匠は言われた。「わしのやり方はお前にはできへん。一所懸命、教えてもええ、でも、教えてもできへんから、お前はお前のものを探さなあかん」と。

本書184ページ

②人形の遣い方について

 人形の遣い方については色々と記載がありました。まず、以下の文で、『壇浦兜軍記』の「阿古屋琴責の段」で、阿古夜に琴などを弾かせ、取り調べを行う重忠の人形を思い出しました。動かずにじっと阿古夜を見つめ、取り調べを行うのです。(他の演目・場面でも、周りの人形が動かないときは結構あります。)

人形はじつは“動かない”のが一番しんどいし、難しい。じっとしているときの難しさは、人形を動かす以上の難しさだが、じーっと人形を持っている間も、人形遣いは人形に命を吹き込み続けている。それをしなければ人形が息をしなくなり、人形が死んでしまう……。

本書29ページ

 次に、以下の文で、手足の長い人形や桶などを持つ人形が目に浮かびました。人形遣いの体から離して、伸びやかに人形を遣ったり、見得を切ったりする方がきれいに見えるように思います。『女殺油地獄』の与兵衛の人形は、手足が長かったように思いました。(違うかな?)

重いものはなるだけ、体に近づけて持とうとされると思う。それが普通。だが、“普通”ではきれいに見えないのが人形で、人間の生理に逆らい、体から離して遣うほどきれいに見える。

本書135ページ

 最後に、人形・三人遣いのチームプレーやバランスについて書かれていたことのうち、一つだけ引用します。

これが日本なら、「あの人が上手やから、自分は足いっとくか」とか「あの人はしっかりしてるな」と無言のうちに、あれこれ遠慮や配慮をして、何となく三人の役どころが良い具合に落ち着くのだが……。

本書23ページ

③字幕について

 初心者の私は、床本や字幕を追いがちです。以下の言葉が心に残りました。

これ(舞台への“字幕”の導入)に反対の声を上げたのは、人形遣いだった。お客さんの目が字幕に行くと、人形を見るほうはお留守になる。せっかく何十年も修行して、やっと役をもたして貰って舞台に出ているのだ。少しでも長く人形を見て欲しい。

本書157ページ

■三島由紀夫について

 桐竹勘十郎さんが、国立劇場の裏手の階段で三島由紀夫さんと思しき人を見かけたことや、三島由紀夫が手掛けた『椿説弓張月』『鰯売恋曳網』について、書かれていました。
 文楽人形では、殺したり、殺されたり、亡くなったりする役が多くあります。桐竹勘十郎さんをはじめとする人形遣いの方々、そして三島由紀夫さんの「死生観」とはどのようなものだろうか?少し頭をよぎりました。(こんな短い文章であっさりと書いてしまって、すみません。)
 でも、人形遣いの方々が、どんな気持ちで人形を扱われるのか、もう少し知ってみたいです。

■最後に、『夏祭浪花鑑』について

 ここの部分は詳しく書きませんが、桐竹勘十郎さんの思い出深い作品として『夏祭浪花鑑』が挙げられていました。
 今年5月の国立劇場や、7、8月の国立文楽劇場で上演されるようなので、観に行けたらと思います。

本日は以上です。
引用が多くなり、バランスが難しいと思いつつ。もっと文章力を磨かないといけないな、とも思いつつ。

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