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金曜日のラーメン

昨日は金曜日。

とはいってもいつもとは少しちがった金曜日で、パートナーがお食事に出かけていた。家に帰っても誰もいない。そんでもってその日はなんだか疲れたと思って、ラーメンでも一人で食べに行くことにした。

ひとりラーメンなぞ、いつぶりであろうか。二人組でさえなかなかラーメンは食べに行かないもので、お店に入るときに少しだけドギマギした。

通い慣れたラーメン屋、とまではいかないが、以前一度行ったことのある近くのラーメン屋。昨今は、全部機械での注文である。当たり前になったものだと思いながら、お札を吸い込む機械と対峙。金曜日というだけでチャーシュー丼もつけようとい気持ちになる。人間は、とことん感情の生き物だ。

食券を手にするなり、店員さんが近づいてくる。さすがに食券の確認をする作業は人間の役割らしい。コロナ対策で区切られたカウンター席に座る。お客さんは他にも何人かいて、みんなスマホを手にしながらラーメンをすすっている。はたしてどれほどのラーメンの味を認識しながら食べられているのだろうか。これまた時代だなと思いながら、僕もじっとラーメンを待った。

***

待つこと10分ほど。

チャーシュー丼が先に出てきた。

僕はラーメンと同時に出てくることを想定していたのだが、このお店はセットの丼が先に出てくるらしい。これは何か意図があってのことだろうか。僕はお店からの「丼を先に口にしなさい。」というメッセージだととりあえず考え、一口食べた。塩気が身に染みた。

つづいてラーメンが出てきた。

だいたいスープからいただく。これまた塩気が身に沁みて、味噌のコクがさらに食欲をそそる。麺は太めで食べ応えがあった。しっかりと噛み砕かねば、後々後悔するタイプの麺だった。なので意識して噛んだ。たまにチャーシュー丼も織り交ぜた。この時から、スープは全部飲み干そうと決めていた。疲れていたのだなあと、今更に思う。

丹精込めて作られたラーメンである。スマホをいじりながら食べるのは、お店へのリスペクトを欠く行為である。僕は黙々と食べた。それがマナーであると考えたからだ。

とはいえ、黙々と食べるのはいいのだが、コロナ対策のおかげで僕の席の周りはプラスチックの壁やビニールで囲われていた。厨房の風景というのがカウンター席に座ったときの醍醐味であるが、これもなかなか叶わない時代である。かろうじて透けて見える店員さんくらいがいいところである。それでも、彼らはマスクをしているので表情が全く見えない。

不思議な時代になったものだ。

***

カウンター席から見える風景もつまらなくなってしまった、今時のラーメン屋。誰のせいでもなく、時代のせいである。仕方なく、僕の感覚は耳のほうに行く。

何から音楽を店内で流しているのかはわからないが、いつぞやの時代の『勇気100%』が流れていた。今になって調べてみたところ、おそらく光GENJIが歌うバージョンであった。聴き慣れた一番の歌詞を聴き慣れない二番の歌詞を耳にしながら、残りのラーメンを平らげた。

ふと、玄関の方に目が行く。扉は開け放たれていて、車がさっそうといく。もう春なのである。そんな春にひとりラーメン屋に。それも大阪の喧騒のど真ん中にあることを思うと、なんだかへんな感覚であった。


ラーメンをすすりながらこの『勇気100%』を耳にして、また頑張ろうと腰をあげる人もいるのだろう。


そんなことを考えながら、僕も元気をもらった気がして、また自転車で春のまどろっこしい風をきって走るのであった。

2023.03.11
書きかけの手帖

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