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犬を見たかった人

8月某日、炎天下の最中。犬を見たいと急に思い立つ。 

私のモーニングルーティーンはシンプルだ。眠い目をこすりながら生気の無い顔で起きる。
そしてあやつり人形のように冷蔵庫に向かう。開けて閉めるまで3秒、起き抜けに麦芽コーヒーを飲むのだ。飲み慣れた味、まだパッケージに紀文と書いてある頃からの付き合いだ。
そしてパンを食べて、鼻炎薬を飲む。こいつも私が鼻タレ小僧だったときから飲んでいる。
腹ごしらえを済ませると、耐え難い欲求がこみ上げた。

犬が見たいなぁ。

Pさんを引き連れ、私は公園へ旅立った。
少し気分を変えようと、行ったことのない公園にした。夢の島公園だ。
まあ夢の島公園というよりそこに併設されているというドッグランを見に行くつもりだった。

新木場駅を降りると、すぐに湾岸道路が見える。田舎者の私が東京を感じるのは巨大なビル群より首都高や湾岸道路のような巨大な道路を見たときだったりする。

やはり埋立地であるせいか、その他の公園に比べると周囲がかなり無味乾燥な感じがする。

ドッグランへ続くと思われる道は、夢の島公園からどんどん離れていく道だった。
うっそうと樹木が茂る道。この炎天下、日が差さないのは良いことだがなんともジメッとした、トトロに出てくるような道だ。
トトロのような風景はとても素敵だが、リアルに住みたいと思わない私にはなんとも微妙な気持ちになってしまった。
歩けば歩くほど心細くなってゆく。そして体力が奪われていく。

10分以上歩いただろうか。
たどり着いたのは清掃工場の前。え?
暑さと疲労感、そして「あれっコレ道間違えたんでねえか?」という不安。

結論から言えば道も間違えてるわ、そもそもドッグランは定休日!最悪の役満!でも今来た道を戻るしかない。
Pさんは明らかにピリついていた。
当たり前だ。暑い中歩かされて何も成果がありません、なんて。

悲しいかな、そうなるとファニーなことは何一つ言えなくなる。なぜ一人で下見をしにこなかったのか、後悔が渦巻いていた。
Pさんはミミズにビビり散らかして速歩き。もはや私は平謝りである。

なんとか戻ってきた。Pさんは優しいので平静を取り戻していた。いや、虫やミミズにビビって道に怒りを落としただけかもしれない。絶対あの道は二度と通るものか。

ちなみに夢の島公園、植物園もあるらしく出発前に目星をつけていたのだが、これだけ茂った道で嫌な思い(私は自業自得であるが)をしたのだから今さら植物を鑑賞する気になれなかった。

ところが、植物園を抜くと夢の島公園という場所は競技場とバーベキュー場しかない。
つまんなさすぎる!
あと散歩してる犬が全くいない!犬見に来てるんですよこっちは!

(ちなみにあまりに暑すぎるので、公園内にある第五福竜丸展示館に入った。すごく勉強になりました。ここは普通にオススメです。)

すっかり昼過ぎ、(なんだかんだ2、3時間はいた)当然帰ることにした。
帰る前に昼食をとろう、ということで新木場駅のコメダ珈琲に入った。コメダ珈琲は裏切らない。
相変わらず提供されるブツのほとんどがデカい。私はフードメニューの中では比較的小さいサイズであるたまごドッグとカフェオレを頼み、Pさんはミニシロノワールとアイスココアを頼んでいた。

皆さんはご存知なのかわからないが、シロノワールというのはスイーツで、温かいデニッシュの上にソフトクリームを乗せたもの。そしてコメダのアイスココアは冷たいココアの上にソフトクリームを乗せている。
うん、ダブルソフトクリームだね。体が冷え冷えになるね。

こういうとき、私は少しツッコみはするが止めずに静観することにしている。
意見を言うことも大切だが、先回りしたようなことを言うと反感を買うことがある。というか私が反感を持つ人である。
どちらかというと結果は見えているかもしれないけれど、それでも自分の実感をもって納得したいのだ。

たまごドッグはすこぶる美味かった。中濃ソースのような茶色のソースとからしマヨネーズがいいアクセントなのだ。あとバカみたいにたまごフィリングがぎゅうぎゅうに詰められている。これはバカのたまごドッグだ。

Pさんは寒がっていた。知ってる。ホットココアにするべきだったと言っているがこれは仕方ない。アイスココアが飲みたい人はホットココアでは満たされないのだ。


犬を見に行ったはずが、犬を見ることなく終了してしまった。犬を見る人の名折れである。
いや待てよ?たまご「ドッグ」を食べたから犬を見たことになるのでは?

うん、自分を屁理屈で納得させるのは難しい。


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