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2年間次世代リーダーコミュニティの自走化に取り組んで気づいた「これからの時代」のリーダーシップ

日本企業で新規事業に取り組む次世代リーダーが集まるコミュニティ運営を始めてからちょうど2年になります。2年というのはいい節目です。当初思い描いていたコミュニティ像が少しずつ形になってきた一方、走りながら生まれてきた課題の中に長引くものも出てきました。

日本企業で新規事業にチャレンジする皆さんやコミュニティ立ち上げで同じような課題に直面する皆さんの参考になればと、私たちのこれまでとこれからを語りたいと思います。

語りたいこと
1. どんなコミュニティを作ってきたのか
2. なぜやってるのか
3. どういう風にしていきたいのか
4. 直面している難しさ
5. 運営としての学び
さいごに

1. どんなコミュニティを作ってきたのか

発足した2018年5月時点では名前のないコミュニティでした。運営側として、このコミュニティが世間に受け入れられる自信がなかったのだと思います。その後半年間、お試しの助走期間を経て、このコミュニティを「RELAY(Rising Entrepreneurship and Leadership Acceleration CommunitY)」と名付けました。

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これは、自社の行く末に危機感を持ち、これに抗う意思を持った次世代リーダーを日本企業から募ったコミュニティです。次世代リーダーと言っても、下は20代から上は50代まで。少し男性が多いところは気になるものの、今では70社100人以上が参画する多様な集団になりました。なお、私が所属するSAPが運営母体です。

まずコミュニティの設計で一番大事にしていることは「声の大きい若者の自社への不満のはけ口」にしないことです。そのために、自薦での参加は受けつけず、今現在日本企業で新規事業をリードする経営者からの他薦のみで参加者を募っています。運営の巧拙は別として、集まってくれる参加者の質(パッション、目線、経験、今後のキャリアの期待度)が非常に高いことが私の自慢です。

2. なぜやっているのか

すごくよく聞かれます。社外からも「SAPってITの会社でしょ?」はたまた社内からも「これやってなにかビジネスに繋がるんですか?」はい、自分が運営してなければ、私もそう思うと思います(笑)

まず運営の原則として、金銭的な利益を追求するコミュニティではありません。後述する研修などは一部有料にしているものの、かかった原価を回収する程度です(一応コミュニティの活動の中で収支が折り合うようには気をつけています)。また、SAPの製品を売りつけるためのコミュニティでもないです。

私がこのコミュニティを旗揚げするときに感じていたことは3点ありました。

一つは、こうしたコミュニティが求められていそうだという実感です。私は立場上、シリコンバレーを訪れる日本企業の経営者の方と対話をする機会に恵まれています。土地柄、多くの方々は新しい商品開発や事業企画のリーダーの方々です。そして「なぜ日本企業のイノベーションはうまくいかないのか?」という話題からいろいろな共通項を学んできました。その一つが「次世代の経営人材の育成」です。私は欧米のIT企業でのキャリアですが、押し並べて自身の後進を育てることに対する現業の経営者の主体性や仕組みには、日本と欧米との間に少なからず差があることを実感していました。また、多くの日本企業で幹部候補生として選抜されたリーダーのモノカルチャーなキャリアに憂う経営者の方も少なくありませんでした。変化の激しい事業環境の舵取りをする上で、あまりにも横風に弱いリーダーが多いと。次世代リーダーの育成と横のつながりを代行する事業に対するニーズは高いのでは?というのがRELAYの出発点でした。

次に、SAPという会社なり、私の立場や経験なりが、上で述べた経営者の皆さんの課題解決に役に立てそうだという仮説がありました。まず、SAP自身が上で述べた経営者の後進育成に並々ならぬ労力を割いている会社です。シリコンバレーにSAP Academyという社内大学を設置し、将来の経営者候補を世界中から引っ張ってきて育成しています。また、私自身が一人称で経営者の悩みをお伺いする立場にありましたので、このコミュニティにフィットしそうな方の人選に労を厭わないリーダーを知り得ていたということもあります。質の高い人つなぎ、あるいは「SAPが言うなら預けてみよう」という求心力としてお役に立てるのではないか、とシンプルに思いました。

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なお、上でお金儲けは否定しましたが、それでもSAPのビジネス上、中長期では非常に意義のある活動だと思っています。これは、SAPが日本社会に対して果たしている価値提供の枠組みをかえるというイメージです。将来、コミュニティに所属するリーダーが予定通り出世して日本企業の舵取りを担うことになったとして、SAPがそれに少しでも貢献できていたら素敵ですよね。

最後に、包み隠さずいえば、私の下心もありました。私自身、「誰とはたらくか」は非常に重要なファクターなのですが、自分と同じ世代の優秀な仲間と繋がる機会が仕事になることがとても魅力的でした。これ、始めた当初よりも、運営を継続する上で重要なモチベーションになっています。掛け値なしに「どうやったら彼らのためになるコミュニティになるかな」ということを考えていられるのは、このコミュニティを構成する一人ひとりの素晴らしいリーダーとの繋がりです。

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3. どういう風にしていきたいのか

これもすごく大事な問いです。

運営を継続していく上で、出口を設計しておくことは大事だと思います。このコミュニティが本質的に役に立つコミュニティになる、つまり日本企業の将来のトップリーダーの母集団になることができれば、正直SAPが運営として関わり続ける必要もないと思いますし、それくらいメンバー本意な運営のあり方を進めたいな、と本心で思っています。

そのためにずっと達成したいと思っていることはコミュニティの自走化です。運営があれこれ音頭を取らなくても、仲間うちの思いやコミュニティ自体の方向性に共感したメンバーが運営から手綱を受け取っていく。その中でコミュニティの形が変わっていくことも、私はいといません。必要とされるコミュニティが変化する時代の中で育まれるなら、むしろあるべき姿も変わり続けていくことが自然だと思います。

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また、継続して質の高いリーダーに参画し続けてもらう上で、コミュニティ自身の発信力を高めていくことも重要です。私が究極的にこのコミュニティに託したいことは日本企業のイノベーションの再現性を高めることであり、逆説的にコミュニティに所属していないリーダーにどう影響力を持てるかを考えていく必要があります。ここに参画してくれる個人はあくまでその他大勢の企業内人財の代表であり、一人ひとりがイノベーションのカタリスト(代弁者)として学びを広げてくれる影響力が発揮できたらすごいと思います。まさにこのポストもそうなのですが、こうした思いを持ったコミュニティ運営が成功するかどうか、という観点でいいベンチマークになれればと思います。

4. 直面している難しさ

これはまさに先に述べたことの裏返しなのですが、まだまだ自走化には道半ばです。運営が関与しすぎると運営ありきになってしまう一方で、放置しすぎると離散してしまう、というバランスを掴むのにとても苦労しています。

実は、今年の1月にコミュニティのあり方について大きな方針変更をしました。これまではコミュニティに参画した時期の近い「同期」ごとに縦割りの活動が多かったのですが、あえてこのグループを崩し、100人ひとまとめ、という運営にチャレンジしています。今後コミュニティの母集団が大きくなる上で、「心地よいいつもの仲間」との会話から踏み出すリスクを取らないと、メンバー一人当たりの相対的なコミュニティの価値が薄れていく。ちょうど運営2年を目前にして、このリスクが高まってきたという判断をしました。

コミュニティ発足以降、なるべく運営は裏方の仕事に徹してきたつもりだったのですが、この変更をきっかけに、新しい制度設計や仲間の動機付けなどで前に出る機会が増えてきました。これまでは「運営からもう少し運営のガイドラインを出してほしい」と言われることもあったのが、反対に「運営が前に出るなら自分は少し下がっていてもいいはず」と言われてしまうことも出てきました。常に運営と参加者の程よい距離を探りつつ、行き過ぎたり控え過ぎたりを繰り返しています。この点は、参加者とも丁寧にすり合わせをしていきたいと思っています。

また、冒頭で述べた人選方法の設計とは裏腹に、参画してから長いメンバーから徐々に「課外活動感」が出てきてしまっているのも悩みです。入り口は上司や経営者から「会社の成長のために学んできなさい」と指名されて参画しているはずなのに、彼らに対するアウトプットが不明瞭な状態が続くと、徐々に参加し続ける目的が「自分自身の成長のため」にすり替わっていくことも見えてきました。

これがコロナ禍の状況でさらに顕在化してきた印象です。当初こそ対面での活動を重要視するウェットなコミュニティであるという自負がありましたが、参加者の多くが在宅勤務に切り替わった3月半ば頃からは積極的にオンラインの活動を展開してきました。はじめは時間や場所の制約がなくなり、参加率がいつにもまして高かったのですが、徐々に雑談中心の集まりが成立しづらくなっていることを実感します。それぞれが「気のおけない仲間との課外活動」を求め始めていることもあり、こちらの活動の個々の目的がよりシビアに問われる競争を感じています。

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ただ、この状況はRELAYの意義を再定義するチャンスでもあると見ています。参加者が(特にコロナ環境下で増えた)数ある選択肢の中でどのイベントに参加しようか吟味する時間は相対的に増えている気がしていまして、コミュニティ自体の存在意義によって淘汰が起きていくだろうと予想しています。ここ数年でコミュニティ自体が増え続けていることの反動もあるでしょう。

発足から2年たち、改めていい節目にきたな、と帯を締め直しているところです。

5. 運営としての学び

最後です。

2年間、会社や組織を超えた音頭の取り方のコツを学ばせてもらいました。RELAYは基本的に異なる会社のリーダーの集まりですから、それぞれの会社の常識や政治や事情が入り乱れています。個人も非常にフラットな組織です。逆に言えば、人事権や政治を振りかざして人を動かすのは極めて難しいコミュニティです。運営として、これほどリーダーシップを取りにくい環境はありません。

何度も失敗しました(笑)小手先の交渉術が通用せず、自分のソフトスキルの至らなさを痛感しました。特に、マウントが取りづらい環境でどう人から信じてもらえるか。反対に、打算が成立しづらい環境でどう人を信じて任せることができるか。苦しいですが、旗を掲げること。そして、時にはその旗を取り下げるのを厭わないこと。

引いた目で考えれば、これはまさにこれからの時代のリーダーシップの勉強をさせてもらっているな、と感じています。不確実な時代では、従来のヒエラルキーに基づく固定的なチームではなく、リーダーのビジョンやパッションに共感した人たちによる動的なチームが強い。組織の大小によらず、いっそう旗振り役の「物語」が重要だと思いますし、これからの世界はそういったリーダーシップを発揮すべき局面が増えていくと思います。

さいごに

まだまだ成功談でも失敗談でもないコミュニティ運営の途中経過の物語ですが、こうした過程の共有も含めて、日本企業にイノベーションの文化や体系が根付くための一助になればという思いです。いつか私たちの歩みをベンチマークしてくださる次の世代の方が出てきますように。

RELAYの活動にご興味をもたれた方、特に下記に該当する方、ぜひお気軽にご連絡ください!

・RELAYにご自身の次世代リーダーを送り込みたい企業経営者の方
・RELAYとコラボしたい他コミュニティの方
・RELAYメンバーとコラボしたい日本企業の新規事業担当者の方

twitter: @kakerut
facebook: @kakeru.tsubota
LinkedIn: @kakerut

おことわり:本投稿はあくまで筆者の個人的見解に基づくものであり、筆者が所属する組織の一切の公式な見解を表すものではありません。

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