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習慣は、ひとつだけ、超簡単なものを
「習慣にすることは、ひとつにしぼるといいんだよね」
どうすれば生活の中でやらなければいけないことを回せるのか、と聞いたわたしに、友人はそう答えた。
ひとつにしぼる?
それでほんとうにいいのだろうか?
わたしたちにはやることがたくさんある。掃除、日記、散歩、ストレッチ、瞑想、家事、片づけ、読書、面倒なタスクへの着手、やることリストの管理、etc....
そのなかからひとつだけを選ぶ? 選ばれなかったほかのことはどうするんだろう。
わたしは久々に友人と電話で話に花を咲かせていた。
わたしは友人に近況をたずねた。
すると、友人はこの齢でバレエをはじめたというのだ。
そのはなしを聞いて、わたしは苦い記憶を思いだした。
二十歳をすぎたあたりのころ、わたしはテコンドーをはじめた。
声をだしてミットを蹴るのは楽しい。
わたしの向上心はめきめきと育っていった。
熱心に練習に打ちこむわたしを見て、先輩がたはわたしにアドバイスした。
家でストレッチをやったほうがいいよ。
筋トレをやったほうがいいよ。
演舞を覚えたほうがいいよ。
そっか、家でも自主練をやらなきゃいけないんだ。
わたしのやることリストのなかに、自主練のメニューが加わった。
しかし、いそがしい大学生活のなかで、わたしは自主練をする時間がとれなかった。自主練をしていない罪悪感から、練習に行くのがつらくなった。わたしはテコンドーをやめた。
友人がバレエをはじめたと聞いたとき、わたしは心配が先に立った。
友人も、けっしてマメな性格ではない。バレエをやるとなれば、ストレッチも筋トレもポーズの練習も必要だろう。
「練習とか、大変じゃないの?」
「なんとかいい感じに回ってるかな」
「だけど、ストレッチとか、筋トレとか、いろいろやることあるでしょ?」
わたしはそうたずねた。友人は考えて、こう答えた。
「習慣にすることは、ひとつにしぼるといいんだよね」
「ひとつ?でもやることはいっぱいあるでしょ?」
わたしの問いかけにたいし、友人はつづける。
「ひとつつづけるとさ、それにあわせてほかもうまく回るようになるんだよ」
彼女は歌に情熱をもっていた。しかし、それとは裏腹に彼女はこれまで歌う時間をとれていなかった。
そこで彼女は、毎日歌うようにした。それで、彼女の生活はうまく回りだしたのだという。
そんな彼女のはなしに興味をもち、わたしはたずねる。
「でも、優先順位の高いことって、そのときどきで違ったりするじゃん? ひとつっていうのは、状況に応じて変えるの?」
「変えない。とにかく決めたひとつに集中する」
友人はそう言いきった。
たしかに、わたしはあれもこれもやらなきゃと思って、ひとつのことに集中できていなかった。
わたしも習慣をひとつにしぼれば、やるべきことばかりの日々に活路をみいだせるだろうか。
わたしはその友人のはなしを覚えていた。
時がたち、わたしは友人の言っていたことをやってみることにした。
ひとつだけ選んで、習慣にする。
わたしは毎日文章を書くことにした。
ひとりでつづけられる気がしなかったので、わたしは仲間と一緒に行動に移すことにした。
わたしはやる気を出すためにチャットで励まし合うオンラインコミュニティを運営している。そこで、とある仕掛けを作った。
ひとりひとり、毎日やる「絶対に実行できる簡単なタスク」を決めて宣言する。毎日20時になったら通知のメッセージが届く。前の通知から最新の通知がくるまでのあいだに、宣言したことをやったら○のリアクションボタンを押す。宣言したタスクができなかったら×のリアクションボタンを押す。
![](https://assets.st-note.com/img/1717502584900-XL5JGpq4j7.jpg?width=800)
この「絶対に実行できるタスク」というのは、ほんとうに絶対に実行できるちいさなタスクである必要がある。
たとえば、勉強することを習慣化したいなら、「問題集をやる」でもハードルが高いし、「問題を1問解く」でもまだハードルが高い。「問題集を開く」あたりがちょうどいい。
こんなことやって意味あるのか?と思えるようなちいさなタスクがいいのだ。
このちいさなタスクはベビーステップとよばれる。
なぜハードルをそんなにも低く設定するのか。
1を100にするよりも、0を1にすることのほうがもっとも難しいからだ。
わたしは執筆を習慣化したかったので、ベビーステップは
「『ネタ帳を開く』か『1文字書く』か『執筆中の原稿を読む』」
にした。
当初わたしはどこかでベビーステップをやりのがすと思っていた。べつに週に2,3日くらいはやれなくてもよいと思っていた。
このコミュニティでの取り組みがはじまって60日が経過した。わたしは60日間、毎日かかさずベビーステップをやっている。
結局、友人が言ったみたいに、「ひとつつづけるとそれに合わせてほかもうまく回る」なんて魔法みたいなことは起こらなかった。
ほかのことも習慣化しようといろいろな方法を試したが、ダメだった。
しかし、いまのわたしには「執筆だけはかかさずつづけている」という誇りがある。
わたしが設定したベビーステップは超簡単なものだった。しかし、結果としてわたしはたくさんの作品を執筆することができた。それはわたしの自信になった。
「ぜんぜん文章を書けていない」という自責の念が、消えた。
相変わらずできていないことだらけだけど、執筆だけは守りつづけている。
なにもかも積みあげられないというのは、自尊心をゴリゴリ削る。
だから、ひとつだけ、超簡単なものをつづける。
毎日できなくてもいい。
週に4日できれば習慣化できると言われている。
三日坊主も繰り返せば積み重なる。
ひとつだけ、超簡単な習慣をつづけることが、わたしたちを導く一本の糸になる。
いろいろなことを習慣化しなきゃと押しつぶされそうになっているあなたへ。
まずは「ひとつだけ、超簡単なものを」つづけることからはじめてはいかがだろうか。
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