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「すべての費目にチャントした名前がついている家計簿をつけている人は、無責任な金銭を費やさなくなります」---明治時代の雑誌から

 羽仁もと子は雑誌『家庭之友』(『婦人之友』の前身)を創刊した翌年の1904年(明治37年)に、家計簿を考案・発行しました。1年の全収入から、食費、衣服費、住居家具費・・と各費目ごとに支出予算を立て、使った日に予算から差し引きし、ひと月、1年の収支を把握する、というスタイルは、現在、婦人之友社から発行している家計簿やクラウド家計簿kakei+カケイプラスに受け継がれています。
 雑誌の読者を中心に、ひろまった家計簿。ところが、「さあ、家計簿をつけよう」と、手に取っても、次々に「これでいいの?」と疑問がでてくるのは令和も明治も同じようで、当時の『家庭之友』をひもとくと、読者より寄せられた質問に回答する「家政問答」と銘打った連載が目をひきます。

 『家庭之友』創刊の明治36年の第3号から毎号に掲載されている、この「家政問答」。当初は、使用人の休ませ方や主人ひとりだけ御馳走を食べるのは?といった質問があったものの、次第に家計に関する質問ばかりとなっていきます。回答者は識者の名や「記者」と書かれており、『家庭之友』明治37年11月発行号からは、回答者欄には羽仁もと子の名が書かれるように。
 その前の8月発行号には「出産前記」、9月発行号に「出産日記」、という記事もあります。明治6年生まれの羽仁もと子の、妊娠、出産、そして乳飲み子を抱えながらの仕事ぶりがうかがえます。

 さて、今回は、『家庭之友』明治37年5月発行号に掲載の「家政問答」から問答を一つご紹介します。言葉遣いは、読みやすいように現代仮名遣いにかえています。


問 年中貧乏で御座います


私どもの家族は、夫婦に、十歳と七歳の男の子、三歳の女の子で、1カ月の収入を次のようにしております。しかし、年中貧乏で御座います。どうぞ悪い所をお直し下さいますよう願います。なお、冬期はこのほかに、2円ずつの薪がいります。


答  雑費という費目があると、ツイくだらぬ費やしをしてしまう傾向になりやすいのです。


 大体において最もよい割りあて方だと思います。ただ、この頃になって心付きましたのは、雑費という費目を家計簿の中に置きますと、あれも雑費これも雑費と、ツイくだらぬ費やしを意とせぬような傾きになりやすいということです。それで、郵税とか交際費とか、湯銭とか判然とした方がよいと思います。
 一寸ちょっと考えますと、名目などはどうでもよいと思いますけれど、すべての費目にチャントした名前が付いておりますと、例えば無駄なお菓子を買うとか、多少にかかわらず必要以外の散財をした時に、つけ方に困ります。これはごく些細なことでありますが、自然このようなことが刺激となって、チャントした家計簿をつけている人は、自ずと無責任な金銭を費やさぬことになります。それが、雑費などという曖昧な費目があると、目的の確かでなかった費用を、何とも思わずにそこに書き込んで平気でいるようになるかと思います
     家庭之友第2巻第2号(明治37年5月発行)「家政問答」より


まとめ

 家計簿をつけている人なら、「これは何費?」と考え込んだ経験は誰でもあるでしょう。何費かと迷ったり困ったりすることが刺激となり無責任な金銭の費やし方がなくなる、と聞くと、記帳で悩むことも家計上手に近づくために必要なんだ!と、なんだか勇気がわいてきます。婦人之友社の今の家計簿にも雑費という費目はなく、支出費目は税金・社会保険料をふくめて16の費目にわかれています。

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