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母への嘘

僕は母に、6年間ずっと嘘をつき続けています。

6年前、うつ病で休職し、その後退職し、職を転々としながら無職、職業訓練校で学び、そして昨年ようやく条件の良い仕事に就けたのにまた休職・・・。

その間ずっと、83歳の母には「今日も仕事疲れたよぉ」と嘘をついています。

私が一人暮らしを始めてから20年以上が過ぎ、母と父、そしてニートの弟は実家の借家から立ち退きで追い出され、幸運にも、低所得層向けの都営住宅に当選して今は安い賃料で生活しています。もう、私には帰る家がありません。弟とは犬猿の仲で、奇しくも私と同じく精神疾患で精神障害者です。

弟は、大検からW大の政治学科に進学したけれど、統合失調症で精神に異常をきたし、一時期は東京都により措置入院をしていたこともありました。退院後は完全に引き籠り、障害基礎年金をもらいながら自宅でゲーム三昧という完全なパラサイト・ニートになってしまったのです。

そんな母に、まさか自分も精神病になった、仕事を休んでいる、無職になった、そんな事を言うことはできません。

母は10年くらい前までは、私が購入した自宅に週1ペースでやって来ては「掃除していない!」「洗濯物していない!」と怒りながらも家事をしてくれ、料理を作ってくれていました。しかし、高齢になり、もう私の家までくる体力が無いとの事で、この10年ほどは電話でのやり取りしかしていません。私から母の家に行こうと思った事はありません。父や弟と会いたくなかったからです。そのかわり、月に何度か、母に電話をかけて、一時間ほど会話をするのが恒例となりました。時には欲しがっている食べ物を通販で購入して贈ってあげるなど、そこそこ親孝行らしい事をしています。

しかし、休職中も、無職の時も、精神病になってからも、私はずっと『働いている』と嘘を母につき続けています。母からすれば、弟の事だけで頭痛の種で、8050問題で悩む中、長男だけは自立してちゃんとした社会人として生きている、というのは唯一の救いなのかもしれません。

母との電話での会話の中で、母は、「ごめんねぇ、あんたには何もしてあげられなくて・・・」と。いや、それは違うんです、お母さん・・・。

本来なら、僕が父母を養わなければいけないのに、本当に自分が情けないと思いますが、正直自分を養うだけで精一杯なのが実情です。こちらこそごめんなさい・・・。結婚もできず、孫を見せてあげる事もできず、本当にごめんなさい・・・。

母との会話の中では、僕は精一杯「ちゃんと働く立派な社会人」を演じ続けてます。その嘘をつく事が、僕が母に出来る唯一の「親孝行」なのです。



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