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ベジ議連第8回・第9回リポート

 2024年3月25日、衆議院第一議員会館にてベジ議連(正式名称は「ベジタリアン/ヴィーガン関連制度推進のための議員連盟」)の第9回総会が行われました。※これまでの議連のリポートはリンクからご覧ください(第1回第2回第3回第4回第5回第6回第7回)。


 

第8回ベジ議連

 2022年11月29日に開催された第8回総会についても、以下、簡略にリポートします。主な議題はこの総会の前月に施行されたベジタリアン・ヴィーガンJAS規格の説明や今後の活用についてで、「インバウンド復活を見越した広報の充実」「認証を取得した事業者へのフォロー」「一次原料、二次原料など基準が明確にわかるようにしてほしい」等が議論されました。その他、「欧州発カーボンプライシング・カーボンクレジット制度における菜食の位置付けと可能性最大化」に関する報告と提案(Grinoの運営会社であるRed Yellow And Green(株)代表取締役・細井優氏)が行われ、環境省からは「脱炭素につながる国民運動」として展開中の「ゼロカーボンアクション30」にある「食ロスをなくそう」のアクション#19「旬の食材、地元の食材でつくった菜食を取り入れた健康な食生活」が紹介されました。ただ、アクション#19の説明を見ると、「菜食」と気候危機の関係についてはカーボンフットプリントの視点のみが目立たない形で紹介されているだけで、物足りない印象です。


第9回総会出席者

ベジ議連役員(出席議員は太字)

会長:山口俊一衆議院議員(自民党)、副会長:岸本周平衆議院議員(国民民主党)・杉本和巳衆議院議員(日本維新の会)、事務局長:松原仁衆議院議員(立憲民主党)

第9回総会出席議員(順不同)

串田誠一参議院議員(日本維新の会)、篠原孝衆議院議員(立憲民主党)、山本左近衆議院議員(自民党)、上田清司参議院議員(無所属)

第9回総会出席関連団体・事業者(順不同・敬称略)

室谷真由美(特定非営利活動法人 日本ヴィーガン協会代表)、三宅久美子(一般社団法人 日本ヴィーガン協会代表)、ナディア・マケックニー(東京ヴィーガン 共同代表)、エスケル・ヘルニモ(ベジプロジェクトジャパン渉外担当)、小城徳勇(ミートフリーマンデー・オールジャパン代表)、山中安澄(ARTREV. Creative Studio代表)、利根川正則(㈱グローバル・メディア代表)、いけやれいこ(日本ベジタリアン協会副代表)※Zoom参加、富永俊一郎(特定非営利活動法人 日本ヴィーガン協会理事)※Zoom参加、高橋有希(Animal Alliance Asia代表)※Zoom参加

行政側出席者

農林水産省(大臣官房新事業・食品産業部食品製造課基準認証室 進藤友寛室長、栗原秀夫課長補佐当)、観光庁参事官(外客受入担当付 長坂亮主査、岡本敬太主査)、文部科学省(初等中等教育局健康教育・食育課 橿原哲哉企画官)、経済産業省(通商政策局貿易振興課 村上慧係長、中小企業庁経営支援部創業・新事業促進課海外展開支援室 依田靖統括係長)、消費者庁(食品表示 企画課規格第一係 田中健係長、野尻恵多食品表示調査官)、東京都庁(産業労働局観光部 事業調整担当課 藤本仁和課長、受入環境担当課 石渡康鷹課長)

ベジタリアン・ヴィーガンJAS認証の現状

 2022年10月に施行された国家規格、ベジタリアン・ヴィーガンJASは2024年3月21日時点、加工食品で2事業者、飲食店等で3事業者が認証を取得しています(いずれも、ベジタリアン・ヴィーガンJAS登録認証機関である日本ベジタリアン協会による)。加工食品のベジタリアン・ヴィーガンJAS認証取得第一号の(株)小杉食品は、商品(ヴィーガンとろーり昆布たれ付納豆)のパッケージにJASマークを入れ、「VEGAN」の文字を大きくしたことで取り扱いが少しずつ増えているそうです。

 一方、5事業者しか認証を取得していないというのは、少ないと言わざるを得ません。これには海外も含めた消費者にベジ・ヴィーガンJAS規格の認知が進んでいないため、認証取得の効果を実感しにくい難しさもあると思われます。農水省は、国内向けにセミナーや展示会での説明、海外向けにYouTube農水省Facebook等での英語による発信を行っているとのことですが、認証取得事業者を増やすためには、情報のさらなる周知が求められます。インバウンド対応としてはもちろん、加工食品では海外展開に向けてのアドバンテージとして活用できるよう、行政からの後押しも求められるでしょう。

 ベジタリアン・ヴィーガンJAS登録認証機関である特定非営利活動法人日本ヴィーガン協会・室谷氏からは「問い合わせは来ているが、今回のJASは海外向けの日本食として需要が高い日本酒・ワインが対象外なのが残念」という意見がありました。これはJASを所管する法律(日本農林規格等に関する法律)第二条において、酒類はJASで定めることができない旨規定されていることが理由です。有機JASで令和4年10月1日から酒類の認証が可能になったという前例があり、ベジタリアン・ヴィーガンJASでも今後検討してほしい事案と言えます。

 ベジタリアン・ヴィーガンJAS取得のメリットとしては、事業者のエシカルな取り組みのアピールも挙げられます。受託運営している内閣府職員食堂で飲食店等のベジタリアン・ヴィーガンJAS認証取得第一号の(株)ニッコクトラスト「大規模な設備投資の必要もなく食材を変えるだけで環境問題への取り組みができ、食べる方へもそういった食を選択できる機会を与えられます」とコメントしています。

 なお、東京都及び(公財)東京観光財団は都内飲食事業者(東京都多言語メニュー作成支援ウェブサイト「EAT東京」の「外国語メニューがある飲食店検索サイト」の掲載店舗であることが条件)を対象に、「飲食事業者向けベジタリアン・ヴィーガン認証取得支援補助金」の事業を行なっており、ベジタリアン・ヴィーガンJASの他、ベジプロジェクトジャパンなど民間団体による認証を取得する際、審査料、新規登録料等の2分の1以内(1店舗あたり上限20万円)が補助されます。日本を訪れるベジタリアン・ヴィーガンの外国人からはいまだ「何を食べればいいかわからない」という声が絶えません。対応可能な飲食店を明確にするためにも、こうしたインセンティブが他自治体にも広がることを期待します。

インバウンド復活と観光庁の「旅行者おもてなしガイド」

 観光庁からは、2022年10月の水際措置の緩和以降、訪日外国人数は堅調に増加しており、2023年の訪日外国人消費額は過去最高の5.3兆円との報告がありました。この額は円安や物価上昇も影響していると思われますが、いずれにしてもコロナ禍後のインバウンド復活は明らかです。観光庁では以前から、ベジタリアン・ヴィーガン、ムスリム、LGBTQといった多様な外国人観光客受け入れに際しての対応についてセミナーを開催しており、2024年2月のセミナー(オンラインと現地のハイブリッド開催)では141名の参加があったそうです。
 また、これまで「ベジタリアン・ヴィーガン」「ムスリム」と分けていた対応ガイドを統合し、5月7日からベジタリアン・ヴィーガン/ムスリム旅行者おもてなしガイドが配布されています。天丼や餃子など具体的なメニューを例に使える食材を一覧化し、情報発信の媒体の紹介、Q&Aなどのハウツーがまとまっています。資料編では、データや用語集の他、対応レベル別にベジタリアン・ヴィーガン料理を提供する飲食店の事例が詳しく紹介され、各店からの「これからベジタリアン等への対応に取り組む飲食店事業者等へのアドバイス」は非常に参考になるでしょう。

 東京都の「東京ヴィーガン&ベジタリアンレストランガイド」の最新版には120店舗が掲載されるなどベジ・ヴィーガン対応は着実に広がっていますが、諸外国に比べ食の多様性への日本の対応はまだまだ遅れているという山中安澄氏からの指摘もありました。こうした状況を変えるためにも、飲食店や宿泊業者等の関連事業者にこれら観光庁の取り組みが広く知られてほしいです。

 この他、観光庁からは、特に地方を対象に、日本食らしさを備えたヴィーガンメニューの開発や食のピクトグラムの整備等も含めた旅行環境整備を進める、「地域一体となったインクルーシブツーリズム促進事業」が紹介されました(こちらに概要があります)。

学校給食での牛乳一律提供について

 学校給食法施行規則(昭和29年)第一条により、日本の学校では「ミルク」を給食で提供するよう指示されていることを根拠に牛乳が一律提供されています。これに対し、Animal Alliance Asiaとミートフリーマンデー・オールジャパンが共同で要望書を提出、乳糖不耐症などの体質上の理由や菜食主義・動物愛護・地球環境保護等の理由で牛乳を飲めない(飲まない)子がおり、「すべての自治体における牛乳一律供給の見直し」をはかりつつ、「診断書なしの牛乳拒否」を認め、植物性ミルクによる代替やそれができない場合の給食費減額を求めました。これに先立ち、両団体の要望書を受けて、ベジ議連事務局長の松原仁衆議院議員から「学校給食における牛乳の扱いに関する質問主意書」が提出されています(令和6年3月19日付)。
 要望書及び松原議員の質問主意書に対する文部科学省の回答(要旨。質問主意書に対する回答全文はこちら)は「『ミルク』については、牛乳をはじめとする全乳及び部分的又は完全に脱脂した乳を想定している」、「安全確保のため診断書はアレルギー対応に必要」、「植物性ミルクの提供や給食費減額等については、学校設置者(公立であれば各市町村教育委員会)が適切に判断すべき事柄」というものでした。議連総会では「完食指導は基本的にはしていない」との文科省のコメントもありましたが、「カルシウムなど必要な栄養素確保の観点から牛乳が提供の基本」というのが国の姿勢です。
 一方、各自治体による柔軟な対応の可能性はあるとも言えます。松原議員が紹介した多摩市の事例では、牛乳を飲めない(飲まない)ことによる牛乳廃棄を防ぐために、「家庭で十分な量のカルシウムを摂る」ことを求めつつ、保護者の届出のみで牛乳を飲まない選択ができる制度が2023年9月から導入されています。この制度が開始された背景には保護者からの粘り強い要望があったと言います。こうした動きのバックアップも含め、ベジ議連での議論が深まってほしいと思います。



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