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『刺青』谷崎潤一郎 「エロい小説だよ」と、突き放して

○はじめに

このnoteは、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語る設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。


『刺青』江戸川乱歩

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【谷崎潤一郎を語る上でのポイント】

①「谷崎」と呼ぶ

②「変態だ」と言い切る

③耽美主義を語る

の3点です。

①に関して、通の人がモノの名称を省略するのはどの分野でも適用されます。文学でもしかり。「谷崎」と呼び捨てで語ることで、文学青年感1割り増しです。

②に関して、谷崎の作品は過剰な女性愛、マゾヒズムで知られています。読めば分かります。変態です。

③に関して、江戸川乱歩は耽美派の作家でエログロを得意としてます。耽美派とか白樺派とか芸術思潮をサラッと語るとカッコいいです。


○以下会話

■耽美派を代表する作家

 「一度読んでみて欲しい小説か。そうだな、そしたら谷崎潤一郎の『刺青』がオススメかな。谷崎潤一郎の小説は読んだことある?この人は色んなタイプの作品を書いているんだけど、その中でもフェティシズムとかマゾヒズムがありありと描かれている「エロティックな小説」が印象的なんだ。

谷崎潤一郎は、耽美派を代表する作家なんだ。谷崎の他に代表的な耽美派の作家は、泉鏡花、三島由紀夫江戸川乱歩とかかな。耽美主義は「美しいことが一番大切」という価値観の芸術思想で、「美しさ」を求めるためなら、道徳とか倫理さえも無視するスタイルなんだよ。例えば、一人の女性がいて「この女性がより美しくなるようにプロデュースしろ」っていうお題が出されたら、化粧をさせたり、綺麗な服を着せたり、花を持たせたり工夫するよね。でもこれは「道徳・倫理」が働いている範疇での工夫なんだ。

「道徳・倫理」を度外視して考えた場合、裸にさせたり、血を出させたり、生首にしたりすることが、より「美しい」状態になるかもしれない。この考えで美を追求するスタイルを耽美主義というんだ。

■エログロを描けば良い訳ではない

道徳・倫理を超越して「美しさ」を追求していくと、生々しくてエロティックで怪しいものになっていくんだよね。例えば、耽美主義の画家として有名なオーブリー・ビアズリーという画家の絵がこれ。

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なんとなく耽美主義がわかるよね。でもここで大切なことは、「より美しくなる」ことであって、間違っても「エログロを描けば良い」という訳ではないんだ。

「より美しくなる」ための道の途中で、「倫理・道徳」が立ちはだかっている場合に限って、ゴールを目指すために「道徳・倫理」の壁を破壊するんだよ。だから、最初から「道徳・倫理に反した芸術を描けば良い」というスタンスは、耽美主義とは全く違うんだ。

だから谷崎の作品を単純に「エロティックな小説」と言うのは、文学者に怒られるかもしれないけど、難しく言ったら「妖艶」、簡単に言ったら「エロい」んだよね。

■彫り師清吉と娘

『刺青』は、刺青全盛時代の日本の、清吉という若い腕利きの彫り師と一人の娘の物語なんだ。

街で一番の腕の清吉には長年の夢があったんだ。それはいつか絶世の美女に彫り物をすること。だけど清吉の理想は高くて、なかなか理想の美女には出会えなかったんだ。

ある夏の夕方、料理屋の前を通りかかった時、入り口で待っている籠(かご)のすだれから、女性の素足がのぞいていたんだ。非常に美しい足で、清吉は「この足の持ち主こそ探し求めた美女だ」と感じて、籠を追いかけるんだけど、見失ってしまうんだよ。

ある朝、清吉の家に一人の娘が来るんだ。娘は清吉のなじみの芸者の妹で、羽織に絵を書いてもらいにやってきたんだよ。16歳くらいの娘だけど、年頃に似合わない怪しい色気があったんだ。清吉はこの娘が美しい足の女だと直感するんだよ。

清吉は「お前に見せたいものがある」と、娘に絵を見せるんだ。それは古代中国の悪女、末喜(ばっき)を描いた絵なんだ。豪華な衣装を着た絶世の美女の末喜が、右手に杯を持ちながら、生贄にされる男を眺めているんだ。娘はその凄惨な絵に見入って、だんだんと顔つきが末喜に似ていくんだよ。清吉は「この絵の女はお前だ。この女の血がお前の体に交ってる。」と嬉しそうに言うんだよ。

そしてもう一枚「肥料」という絵を見せるんだ。若い女が桜へもたれて、足下に倒れている男たちの死体を見つめている絵なんだ。「これはお前の未来だ。ここに倒れている男たちは、これからお前のために命を捨てるのだ」と言うんだ。娘は唇を震わせて、「白状します。私は確かにこの絵の女のような性質があります。認めますから、早くこの絵をしまって下さい」と言うんだよ。

清吉は怖がる娘にそっと近づいて、麻酔を嗅がせて娘を眠らせるんだよ。そして娘の背中に「巨大な女郎蜘蛛」の刺青を彫っていくんだ。清吉は次の日の朝まで食事も睡眠も忘れて彫りつづけたんだ。

やがて刺青が完成して「俺はお前を本当の美しい女にするために、刺青の中へ魂を打ち込んだ。もうお前にまさる女はいない。男という男は、皆お前の肥料になるのだ。」とつぶやくんだ。

しばらくすると娘が目を覚ますんだ。娘は体に痛みが走って、刺青が入っていることに気づくんだよ。清吉は「苦しかろう。体を蜘蛛が抱きしめて居るのだから。」と言うんだ。すると娘は、昨日の少女とは別人のように、剣のような瞳を輝かせて、自信に満ちた顔つきをするんだよ。そして「私はもう臆病な心をさらりと捨てたんだ。お前さんは真先に私の肥料になったんだねえ」と呟くんだよ。刺青を入れられて娘は何かが変わったんだよね。帰ろうとする娘に対して、「帰る前にもう一遍、その刺青を見せてくれ」と清吉が頼むと、女は黙って着物を脱ぐんだ。そこに朝日がさして女の背中を輝かしたんだ。

これでおしまい。

■脚フェチ、谷崎

これが谷崎の処女作で、谷崎の「脚フェチ」が存分にでた作品なんだ。料理屋の前で見かけた「脚」だけで、それが絶世の美女のものに違いないって思うのがすごいよね。

谷崎は「自分の墓石は好きな女の脚の形にしてくれ」って言ったくらい脚が好きなんだよなんだ。そしてその理由がまた屈折してて、「永遠に踏まれていることになるから」なんだ。踏まれたい願望があるんだね。

■様々な文体を持つ作家

谷崎は明治の人だから、漢字が難しくて読みづらいのが少しネックなんだよね。でも小説自体は抜群に面白いんだ。

小説だけじゃなくて、日本の美意識を西洋の美意識と比較した『陰翳礼讃』というエッセイとかも書いてるんだ。どの作品も文章が綺麗で、谷崎の徹底した美意識が読み取れて面白いから、是非読んでみて。」



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