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『人間椅子』江戸川乱歩 「この人は変態だよ」と、突き放して

このnoteは、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語る設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『人間椅子』江戸川乱歩

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【江戸川乱歩を語る上でのポイント】

① 「乱歩」と呼ぶ

② コナンの由来だよと掴む

③ 耽美主義を解説する

の3点です。

①に関して、通の人がモノの名称を省略するのはどの分野でも適用されます。文学でもしかり。「乱歩」と呼び捨てで語ることで、文学青年感1割り増しです。

②に関して、コナンは大人気なのでコナンの名を出せば傾聴してくれます。

③に関して、江戸川乱歩は耽美派の作家でエログロを得意としてます。耽美派とか白樺派とか芸術思潮をサラッと語るとカッコいいです。


○以下会話

■美しさに囚われた推理小説家

 「面白い推理小説か。そうだな、そしたら江戸川乱歩の『人間椅子』がオススメかな。江戸川乱歩は、『名探偵コナン』の江戸川コナン君の苗字の由来となった人なんだ。そして日本の推理小説、ミステリー小説の第一人者と言われてる人なんだよ。

まず「江戸川乱歩」という名前がカッコ良いよね。これは本名ではなくて、アメリカの推理小説家のエドガー・アラン・ポーをもじって付けたペンネームなんだ。本名は平井太郎って言うんだよ。めちゃくちゃ平凡だよね。きっと凝った名前に憧れてて、「江戸川乱歩」って名乗ったんだと思うよ。

この人はいわゆる耽美(たんび)派の小説家で、「美しいもの」を描くという信念で創作活動をした作家なんだ。だから推理小説の体裁を取りつつ中身はかなり文学的で、ただトリックを並べてるだけではないんだよ。

耽美主義を一言で表すと「美しいことが一番大事」。美しいことに一番の価値を置く考え方だから、より美しくなれる方法があるなら、道徳とか倫理とかは二の次に回すんだ。美に囚われた悪魔なんだよ。

僕らが一般的に思う美しいモノって花とか虹とか友情とかだよね。だけどこれらはあくまで社会のルール、道徳の上で成り立った美しいモノであって、ルールや道徳を超越する耽美主義が追求する美しさは、もっと生々しくてエロティックで怪しいモノなんだよ。

この世界観で書いた江戸川乱歩の代表作が『人間椅子』なんだよ。10分くらいで読める短い小説なんだ。

■椅子職人からの手紙

『人間椅子』は、ある美しくて若い奥様が書斎で手紙を読むところから始まるんだよ。その奥様は小説家で、全国からファンレターが届くんだ。その中に原稿用紙に書かれた長い手紙があって、「奥様、私は今から私が犯してきた罪を告白します」という書き出しから始まるんだよ。何だか怪しいでしょ。

手紙を読み進めると、差出人は腕の良い椅子職人らしいんだ。貧しいながらも丈夫で美しい椅子を作っている青年なんだよ。そしてこの青年には顔に大きなコンプレックスがあったんだ。顔がコンプレックスだから、小さい頃から女の人とまともに会話したことがなかったんだよ。女性と戯れたいとは思うけど、顔が醜いからどうせ相手にされないと決めつけて、女性に近づけないんだ。

そこで男は、女性に近づくために自分の作った椅子の中に入ることを思い付くんだ。大型のアームチェアを作って、背もたれに胴体、肘掛に腕、座る部分に脚を通して蓋を閉めて息を潜めるんだ。そしてもし誰かがその椅子に座ったら、その人の温もりと息遣いが、椅子の革一枚越しに伝わるようにするんだよ。これで女性を感じられるって考えたんだ。変態でしょ。

元々腕利きの職人だから、男が入った椅子はすぐに買われて、外資系の高級ホテルのラウンジに置かれて、毎日色んな人が腰掛けてきたんだ。椅子の中で色んな人の体の感触を味わってると、座る人の太ももの太さや背骨の曲がり方や息遣いで、その人がどんな容姿なのか大体分かるようになるんだよ。以前は女性の顔を見ることさえできなかった男は、毎日色んな女性に腰掛けられてその人の体の線と重みと肌の温もりを秘密裏に感じられる「人間椅子」になったことに幸福を覚えるんだ。

その暮らしを続けて数ヶ月が経った時、ホテルの経営者が代わって、男が入った椅子は売られてしまうんだ。立派な椅子だったからすぐに買い手がついて、今度は屋敷に住む夫人の書斎に置かれるようになったんだ。

書斎に置かれた人間椅子の男は、腰を下ろした夫人の美しい肉体の輪郭と温もりと重さに、一目惚れならぬ、一座惚れしてしまったんだよ。その手紙の中でも「私は、そこにはじめて、本当の恋を感じました。」って書いてあるんだ。椅子の中で温もりを感じて「本当の恋を感じる」って狂ってるよね。

とにかく「本当の恋」をしてしまった男は、今度はこの夫人と顔を合わせて話してみたいと思うようになるんだ。そこで男は、手紙を送って自分の気持ちを伝えようとしたんだよ。それで手紙は「ここまで私の犯した罪を書いてきましたが、私が恋したこの夫人は、奥様、あなたです。そして私は、あなたが今座っている椅子の中にいます。」って書いてあるんだ。

これで話は終わり。面白いでしょ。原作は、男の汚くて醜くて変態なところがより細かく上手に書いてあるから更に面白いよ。

■江戸川乱歩の小説の冷めるとこ

実は小説にはまだ続きがあって、手紙を読んで恐怖で部屋を飛び出した奥様のところに、2通目の手紙が届くんだ。そこには、「さっきの手紙は全て私の作り話です。『人間椅子』とでも付けておきましょう。」って書いてあるんだよ。ここで小説は終わるんだ。

江戸川乱歩の小説って、語り手が最後に「作り話です」とか「嘘です」とか言うのが多いんだ。これ絶対いらないよね。江戸川乱歩の推理小説を僕らは作り話だと知って読んでるから、わざわざ登場人物にこの話はフィクションですって言わせる意味ないと思うんだよね。めっちゃ蛇足だ。興醒め。

まあでも他も同じクオリティで面白い作品沢山残してるから、ぜひ読んでみて。」

おまけ

『人間椅子』は、このままどこに連れて行かれるか分からない恐怖感があります。まるで真っ暗なジェットコースターに乗ったかのような感覚です。10分ほどで読めるこの体験、是非味わってみてください。文庫で買うなら『芋虫』や『赤い部屋』も入ってる『江戸川乱歩傑作集』(新潮文庫)がオススメです。

江戸川乱歩傑作集(新潮文庫)

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