生成AIの進化によって「デザインの単位」が変わり、「顧客体験の構造」も変化する
生成AIの発展によって、インターフェースやインタラクションは大きく変化するだろう。
その結果、ユーザー体験(UX)の在り方そのものも大きく変わっていくはずだ。
現在予約販売中の拙著「生成AI時代を勝ち抜く事業・組織のつくり方」では、そんなユーザー体験それ自体の変化についても1章を割いて解説しているが、本noteではその中から1つの変化をピックアップして紹介したい。
デザインの単位が "User" から "You" へ変わる
「ユーザー体験」「ユーザー中心デザイン」「ユーザーインターフェース」などの言葉に現れている通り、基本的にサービスのデザインの対象を捉える単位は "ユーザー" である。
しかし私は、これから生成AI技術が発展し、それがサービスのインターフェースに取り入れられていく中で、デザインの対象を捉える解像度が従来の "ユーザー" から "個人" へと細分化されるのではないかと考えている。
その兆しとなるサービスが、顧客ごとにパーソナライズされた動画コンテンツの生成を可能にする「tavus」だ。
tavusでは、1つの動画を撮るだけで相手ごとにパーソナライズされた動画を生成することができる。ユーザーが商品紹介などのビデオを1つ録画すると、相手の名前や会社名などに該当する部分を生成されたユーザーの声で自動で置き換え、あたかも相手だけに作成されたかのような動画を作成可能だ。
従来のように、画一的なコンテンツを多くのユーザーに提供したり、属性情報などに合わせてコンテンツの出し分けたりするのではなく、ユーザーごとに生成して提供していくサービスも今後多く生まれるだろう。
そして、その最適化はコンテンツだけでなく、インターフェースのレベルでも実現しつつある。その最たる例がAIライティングサービス「Jasper」だ。
ユーザーはJasperのインターフェース上で「プロジェクト概要書」や「◯◯についてのブログ」など得たいアウトプットを入力すると、そのアウトプットの生成に最適なインプットフィールドのインターフェースが都度生成される。
このようにユーザーの1回の利用ごとに、ある意味では使い捨てのインスタントなインターフェースをつくってユーザーに提供することが、生成AI技術の到来によって初めて可能になった。
このように、AIの文脈理解能力と生成コストの低さにより、ユーザーごとにコンテンツもインターフェースも最適なものを都度つくって届けるという、究極的ともいえるパーソナライゼーションが可能になりつつある。
そうしたときに、現在の "ユーザー" という粒度でサービスを提供している構造は限界に近い。近い将来に振り返った際、「大量生産・大量消費的」な行為として映るかもしれない。
このような変化の中で、今後は "User (ユーザー)" という粗い粒度ではなく、いかに "You (あなた個人)" でサービスのデザインを捉えていくかが重要になるだろう。
生成AI時代の顧客体験構築の構造的変化
単位が "User" ではなく "You" となるデザインの難しいところは「全てをデザインしきれない」ことにある。
従来は全ての画面の体験と見た目をデザインしきることで、ユーザー体験をコントロールできた。まさに「神は細部に宿る」ともいわれるように、いかに各画面や機能にこだわりきるか、突き詰めるかが重要でもあったわけだ。
だが、生成AI時代に各個人ごとに異なる体験を提供する時代においては、細部にこだわるといった際の細部の意味合いは変化するだろう。
これは例えると、いわばプロダクトからユーザーに対して画一的なセルフサービスを提供していた状態から、プロダクトとユーザーの間にAIという中間的な "スタッフ" のような存在が入り込み、ユーザーの好みや要望に合わせてサービスを提供するようになる変化と捉えられる。
そのときに、中間的なスタッフの振る舞いを100%コントロールすることは難しいが、そのスタッフが適切に働けばユーザーの体験は格段に良くなるはずだ。
そして、最終的なユーザー体験を良くする鍵は "スタッフ" の育成やマニュアルであり、それはAIにとっての参照・学習データと裏側のプロンプトの最適化やファインチューニングに当たる。
店舗事業においてそうしたスタッフのレベルを一朝一夕に上げることが難しいように、この "スタッフ" としてのAIのレベルを上げることも即座にできるわけではない。
したがって、これからの生成AI時代において、企業が優れた顧客体験を構築するために、プロダクトの一部でも早期から "スタッフ"としてのAIを介したユーザー体験の提供に着手し、知見をためていくことが重要だ。
具体的な方法としては、OpenAIのAPIなどを用いて既存サービス上にユーザーの行為をサポートするCopilot機能を構築することや、顧問先の1社であるwevnal社が提供する「BOTCHAN AI」などの大規模言語モデルと自社データを繋いでBOTを構築できるサービスを導入するなどの手段が挙げられる。
このような考えのもとで、目下自分も支援先の企業の方々と新しい顧客体験に対応するべく試行錯誤中であるが、いまこのタイミングでそうしたトライアンドエラーをしているかどうかは将来大きな差になるだろう。
このnoteが新しい顧客体験について思いを巡らせるきっかけになったなら幸いです。
さいごに
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