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【絶望三部作】『Evermore』第1章:まつりばやし ②(第2部:ガッタ・メイク・イット(ライフ))

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 その日を境に、ぱったりとサトシからの連絡は来なくなった。
 こちらから何通かメールを送ってみたりもしたのだが、すっかり音沙汰がなくなった。
 もう終わってしまったのだと思った。あっけなかった。とても残念に思った。

 なにが悪かったのだろう…。

 分からない。でも、何かが悪かったのだからこんなことになってしまったのだろう。
 やはり、テキーラを飲んだその勢いで家に誘ったのがまずかったのだろうか。それともテクニックの問題だろうか?もし、前戯や愛撫で彼を失望させてしまったのであれば、それはそれで虚しい…。顔が好みじゃなかったとか、話し方が気持ち悪かったとか、アパートがボロ過ぎたとか、そんなことで嫌われた方が、よっぽどいいと思った。


 サトシとの関係が自然消滅してしまったことでモヤモヤしていたせいなのか、整理がつかない、つけようもない、山のような問題を忘れるための時間を単に求めていたからなのかは分からないけれども、当てつけのようにバイトのシフトを週6で入れた。
 社会人になってすでに三年の歳月が過ぎていたが、当時の俺は、物書きで食べていくことができなかったため、塾講師のバイトを掛け持ちしながら生計を立てていた。

他人ひと他人ひと、俺は、おれ…」

 と、昔から、他人と比べることをしてこなかったせいか、銀行やら証券会社やら広告代理店やら、軒並み上場企業へと就職し、社会人としての道を真っ当に生きていた大学の友人たちの ” 勇姿すがた ” をみても、さほどルサンチマン的な感情は抱かなかった。
 だが、山形の県立高校で教師をしていた両親は息子の社会的不適合なステータスをひどく悲しんでいたため、彼らの ” 理想 ” に応えられなかったという点においては、俺もひとりの人間として、それなりに苦しんだ。
 けれども、我が子が「ゲイ」であることを恥じ、同性愛者を毛虫のように見做みなしている両親とは、同じ虹の向こう側を歩ける日が来るようなことは決してないだろう。

 気付けば、俺はもう何年も両親とは会っていない。


 シフトを週6で入れたことで「あまり働き過ぎるな」と、塾長に叱られた。
 その後、結局、週4、5日勤務に落ち着いたのだけれども、もうこれ以上サトシのことを思い出したくなかったということもあって、休みの度に都内のミニシアターをハシゴし、一日の大半をそこで過ごした。
 シアターでは主にフランスやイタリアのB級映画ばかり流していたが、時折、狂い咲きしたかのように ” 不朽の名作 ” を上映することもあった。
 無論、天然色ではなかったけれども、そういうサプライズはなかなかいいぞ、と思い、休日限定のこの小さなシアター巡りはやめられなかった。
 人生で鑑賞した映画の三分の一は、俺が絶望していたこの時期に集中していたといっても過言ではない。

 そんな、バイトと映画とほんの少し物書き、という生活が2ヶ月ほど経過したある日、聞き覚えのあるメールの通知音が鳴った。
 差出人は「サトシ」だった。

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