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「役者は一日にしてならず」前田吟編

春日太一さんの著書「役者は一日にしてならず」の読書感想文を書いております。

「中1の時に、親も兄弟も一切いない独りぼっちになっちゃいましてね」

冒頭からこんな書き出しを目にしただけでグッ…!と来てしまって。
前田吟さんと言えば、寅さんの妹さくらの夫であるヒロシさん。渡る世間は鬼ばかりでは長女弥生の旦那さん。大家族のなかで、振り回されているような、黙々と仕事しているのになんだか妙に報われていないような印象が私にはあって、13歳で天涯孤独になっただなんて、思ってもみなかったというか、なんだか脳内で錯覚が起き…
《大勢の家族が出来て、良かったね(泣)》
…みたいに思えてしまいました。

「そんな時に映画雑誌を読んでいたら、田中絹代さんや高峰秀子さんの話が出ていて、俳優さんって苦労人が多いと知りました。それなら、自分もなれるのではと思ったんです。」

そこでまた感動です。
苦労人が多いから自分もなれるという発想の素晴らしさ。とかく人間は苦労しないですむものならば苦労しない道を進もうと考えることが多いと思うのですが、苦労するとわかっていながら敢えてそこへ踏み込む勇気、苦労ならドンと来い、やってやる、みたいな肝の座った考え方が13歳で出来ていたところに、カッコいいじゃないか!と思いました。

俳優を目指したくて高校を中退して山口県を出てからも、壁にふつかる日々。
しかし倉橋仙太郎という新国劇等を創設した先生と出逢い、踊りや芝居の稽古のできるアルバイト先を探してきてもらえるなどの幸運にも恵まれた。
それもひとえに、前田吟の俳優になりたいという一途な姿勢と努力が言葉や態度から溢れていたからだということが見てとれます。

自分の実力を自分でしっかり見極めているというのか、過小評価しているようにも感じたけれど、仕事をしながら何年間も養成所へ学びに行く。

「このまま世に出ても潰されるだけだ、と。それで俳優座の養成所を受けました。」

この俳優座の養成所、
ココからがスタートの人も多いなかで、前田さんのここまでの道のりはかなり長い。
そして同期のメンバーがまた凄くて、前出の夏八木勲さんの回でも話題に登った「花の十五期生」。
ここでのエピソードがまた非常に面白かった。夏八木勲さんや、中村敦夫さんのときのエピソードと併せて読むと、当時の俳優座の養成所での空気が空想できて、実に面白い。
これはちゃんと調べを入れてちゃんとしたシナリオさえ書ければ『花の十五期生』という映画が一本出来る。そして本当にシッカリと殺陣を習った俳優たちが当時の役者がやっていた稽古をそのままに演じたら、感動するに違いない。そんな映画が観たいなあ。


「僕は天涯孤独で、いろんな所でずっと働いてきたから、生活感がある。それで漁師やパン屋、そういう若者の役はみんな僕の所に来るんです。
それから僕は早目に『プロの世界は違う』と知っていました。これからはテレビの時代になると思ったから、テレビドラマの作り方を肌で知っておきたかった。
僕には稼ぐしかなかった。養成所を出た時には子供がいましたから、芝居を上手くなろうとか、いい芝居をしようとか、劇団を作ってみんなで好きな芝居をしようとか、そういうのは毛頭なかった。」

しかし、なんでもかんでもお金の為に出演していたせいか、養成所を卒業するとどこからも声を掛けられなくなってしまった。

24歳で初めて、映画の中の大役をやらせてもらえることになり、その試写会へ、マネージャーが山田洋次監督を呼んでおいてくれた。

このご縁が巡ってきたことは、やっぱり一生懸命食らいつきてきたからなんじゃないかと思うんですよね。日頃の姿勢が、マネージャーの行動力も突き動かすんじゃないかと思うんですよね。

さくらの夫、博の役をもらってから、山田洋次監督と映画を撮り始めたけれど、非常に厳しかったそうで、6時間以上ダメ出しされていた。

「監督の教えを守れば役者として食えると思いました。山田監督流の自然さを身につければ、映像の世界で食べられると。」

この考え方、これは前田さんだけでなく私も、私たちも?…どんなにダメ出しされても、そんなふうに捉えて、食べられるようになるための修行なのだと考えられたなら、俳優の仕事だけでなく、どんな仕事にでもこの考えは当てはまって、その仕事をモノにすることができるんじゃないでしょうか。

「渥美清さんにも極意を聞きたかったんだけどね。
ただ、哲学者みたいに『吟ちゃん、スーパーマンは飛べないんだよ』って言うことはありました。
先輩でアドバイスをくださったのは、小林桂樹さんだけですね。『演技というのは、ホテルの鍵穴から見られているようなもんだ』と教わりました。」

庶民的な役ばかりでなく、悪役も時代劇もやっている。
エピソードに、役者さんが読んだら勉強になりそうな事がいくつも書かれていて。
そして萩原健一(ショーケン)との出会いで、自分の演技への考え方も変わったと話しています。誰に出逢うかって大切ですね。
その後に展開される橋田壽賀子作品でのエピソードがまた、なるほどと思えました。

なんだかとても、親近感が湧きました。

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